第45話 その結婚、待った

 ―――勇者小牟田清正視点―――


 大聖堂での結婚式が始まる。

 僕の隣にはウエディングドレスを着たアーウィナがおり、あとは司祭の言葉を待つだけだ。


「……」


 最初は渋っていたアーウィナだが、今はもう結婚を受け入れたようだ。


「勇者様はシェラナ様と婚約されていたのではなかったのか?」

「どうも勇者様と仲違いして出て行かれたとか……」

「勇者様は大層に女性好きらしく、それにシェラナ様がお怒りになったらしいぞ」

「へー。つまり女癖が悪いってことか。なんかがっかりだなぁ」

「しっ、聞こえたらマズい」


 僕に関して広まった悪い噂が聞こえてくる。

 女癖の悪さが原因で婚約者に逃げられたなんて、世界を救った勇者である僕のイメージが台無しだ。しかしもう心配は無い。

 この結婚式が終わったら、アーウィナの魔法で僕の女癖が悪いという記憶とシェラナと婚約していたという記憶は世間から消させる。それで僕はまっさらで品行方正な勇者に戻れるのだ。あの男を人質に取って置けばアーウィナは僕に逆らわないだろうし、女を侍らせてもシェラナのように逃げて悪い話を広めたりもしない。


 これですべてうまくいく。

 これからも偉大な勇者として地位と名誉を持って上級の暮らしができるのだ。


「新郎、勇者清正は新婦であるアーウィナを生涯愛すると誓いますか?」

「誓います」


 もちろん愛するさ。

 僕の邪魔にならない限りはね。


「新婦、アーウィナは新郎である勇者清正を生涯愛すると誓いますか?」

「……」


 しかしアーウィナは答えない。

 なにも言わずに俯いていた。


「どうしたのですかアーウィナ? さあ答えを」

「わ、わたしは……」

「まだあの男に未練があるの? 僕は君と一緒に魔王を倒した勇者だよ? あんなモブ男よりも間違い無く良い男だ。くらべるのもおかしいと思わないかい? それに今は捕まっている罪人だ」

「満明さんは素敵な人です。捕まったのだってあなたが……」

「ふん。なんにしても、君は僕と結婚するしかないんだ。わかっているだろう?」

「……」

「……司祭、結婚式を続けろ。終わらせてしまえばそれでいい」

「わ、わかりました。では、この結婚に異議のある者は……」

「異議ならあるぞっ!」

「なに?」


 誰だふざけたことを抜かすした奴は?


 眉間に皺を寄せながらそちらを見ると、


「なっ……」


 そこに立っていたのはあの男。

 生馬満明とかいうモブ男だった。



 ―――生馬満明視点―――



 大聖堂の扉を開き、司祭の声を聞いた俺は反射的に異議を叫ぶ。

 その瞬間、全員の目がこちらを向く。その中にはアーウィナの視線もあった。


「み、満明さんっ!?」

「アーウィナっ!」


 俺はアーウィナへ向かって走り出す。

 同時にアーウィナも走り出し、俺たちは手を取り合った。


「満明さん、どうして……」

「君があの男と結婚するだなんて許せない。だから止めに来たんだ」

「満明さん……」


 俺の言葉を聞いてアーウィナは嬉しそうに微笑む。

 しかしすぐにその表情は悲しそうに沈んだ。


「けど、ダメです。勇者様が……」

「わかっているよ」


 アーウィナの背後で表情を怒りに歪めている清正へと目をやる。


「ア、アーウィナ様が別の男性と……?」

「これは一体どういうことだ?」

「事情はどうあれ、勇者様の婚儀に割り込むとはなんと不遜な……」


 この場にいる者たちは口々に困惑の言葉を述べていた。


「よくもやってくれたね」


 声に怒りを滲ませながら清正は言う。


「君はこの僕にとんでもなく大きな恥をかかせた。世界を救った英雄である勇者のこの僕にだ。これがどれだけ大きな罪かわかるかい?」

「すべてお前が招いた事態だろう。お前が堅実に生きていればこうはならなかった」

「黙れ」


 不安そうなアーウィナを背後に、俺は目の前までやって来た勇者清正の前に立ちはだかる。


「決闘だ」

「……」

「僕と決闘しろモブ男。それで君が勝ったらアーウィナはくれてやる。けれど僕が勝ったらアーウィナは永遠に僕へ隷属するんだ」

「アーウィナを隷属だって……」


 そんなことは許せない。


「決闘を受けないならこの場で殺すだけだよ、くっくっくっ」

「いいだろう」


 もともとそのつもりだ。

 決闘という形であろうとなんだろうと、戦うことは最初から決まっていた。


「お、お待ちください勇者様っ! そんな決闘だなんて……」

「だったらここで全裸になって僕に詫びろ。そうしたらそのモブは逃がしてやるよ」

「そ、それは……」

「アーウィナ」


 迷うような声音を吐いたアーウィナの肩を俺は抱く。


「そんなことを君にはさせない。決闘は受ける。そして必ず勝つ」

「よく言った。決闘は明日の正午12時。王都中心にある広場で行う。逃げたって無駄だよ。僕は勇者だ。君がどこへ逃げようと必ず見つけて殺すからね」

「逃げる気なんて無い」


 俺は清正の目を睨みつつそう言ってやる。


 決闘はする。

 だが勝てる可能性は低い。それでもやるしかなかった。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 いよいよ決闘へ…。しかし勝てる見込みはほとんど無し。

 勇気を持って最強の勇者に挑む満明の運命ははたして……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回、勇者の強さに圧倒される満明。

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