第26話 アーウィナと温泉旅行へ

「大当たりーっ!」

「えっ?」


 買い物でもらった福引券で引いた福引を回すと、金色の玉がコロンと出て来て驚く。


 金色の玉は1等だ。

 福引の1等を引くなんて初めてで、俺はただただ驚いていた。


「わっ、なんか当たりましたよっ! なんでしょうかっ!?」


 大当たりと言われてアーウィナも興奮しているようだった。


「1等大当たりは温泉旅行でーすっ!」

「お、温泉旅行?」


 賞品の旅行券を受け取る。


「温泉旅行ってなんですか?」

「えっ? あ、うん……」


 賞品は温泉旅行のペア宿泊券だ。

 しかしこんなものをもらって一体どうしたら……。


 一緒に行く相手なんて……。


 隣でニコニコしているアーウィナを見る。


 一緒に行く相手。

 いるとしたら、やっぱりひとりしかいなかった……。



 ……



「ここが温泉街という場所なんですね?」

「う、うん」


 考えた結果、俺はアーウィナと2人で温泉旅行へ行くことにした。

 せっかく当たった券を無駄にするのももったいないし……。


「なんか不思議な匂いがしますね」

「硫黄の匂いだよ。温泉の匂いだね」

「へー」


 俺はアーウィナを連れて温泉街を歩く。

 俺の腕を抱きながら、アーウィナは珍しそうに周囲を見回していた。


「うわぁ……すごい美人だ」

「モデルさんかな?」


 そしてすごく注目される。

 アーウィナと一緒に歩くといつもこうなので、不思議には思わないが、


「一緒の男はモブだね」

「ヒロインとモブキャラが一緒に歩いているみたい」


 俺はいつもこんな風に言われる。

 まあしかたないけど。


 そのまま俺たちは注目を浴びつつ旅館へとやって来る。

 それから部屋へ通され、ようやく落ち着いた。


「はあ……。なんか来るだけでくたびれちゃったな」


 アーウィナの転移魔法なら一瞬だが、誰かに見られる可能性もある。

 なので通常通り電車とバス、あとは徒歩で来たので疲れた。


「あの、温泉はどこにあるのでしょうか?」

「ああ、温泉は……」


 俺は首を巡らし、部屋の一点を見つめる。


「そこだよ」


 部屋の外を指差す。


 この部屋には専用の露天風呂がある。

 旅館内には大浴場もあるが、部屋に添え付けの温泉は手軽に入れて魅力だ。


「わあ……。それじゃあ一緒に入りましょうっ!」

「ふぇっ!?」


 アーウィナの一言に驚いた俺の口から変な声が出る。


「い、いいや、一緒はダメだよ。家と同じでひとりずつ……」

「せっかくここまで来たんですっ! 一緒に入りましょうっ!」

「ダ、ダメだってっ! ちょ、引っ張らないでっ!」


 グイグイと腕を引かれる。


 俺だって健全な男だ。

 アーウィナと一緒にお風呂に入ってムフフなことをしたい。


 しかし母さんとも約束したし、それはやっぱり……。


「わたしと一緒に入るのは嫌ですか?」

「えっ? ふぉっ!?」


 ギュッと抱かれた腕がたわわな谷間に挟まれる。


 心は一緒に入りたいと叫びたがってるんだっ!


 しかし俺は心に思うことを必死に抑え込む。

 無心無想。無我の境地へ……。


「い、いや、一緒に入りたくないわけじゃないよ。ただね……」

「なら一緒に入りましょうっ! さあ脱いでくださいっ!」

「きゃあっ!?」


 服を脱がされる。だが必死で抵抗。


 俺は一体どうなってしまうんだ?


 一緒に温泉へ入りたがるアーウィナとの攻防はしばらく続いた……。



 ―――兵士長ジェルミ視点―――



 ……アーウィナ様を連れ戻そうとふたたびこちらの世界へやって来た。

 そしてチャンスを窺うため、ここまでついて来てしまったが……。


「ひどい臭いだ」


 この温泉街という場所はひどい臭いがする。

 毒では無さそうだが、好きな臭いではなかった。


「アーウィナ様はあの建物に入られたのだな?」

「はい。例の男も一緒です」

「うん……」


 殴られたことを思い出して歯噛みする。


 あの男のせいで俺はこんなところへ来させられている。

 あの男さえいなければ、アーウィナ様がこっちへ来ることもなかったのだ。


「しかしうまくいくでしょうか?」

「ふん。あんなのは単なる男だ。うまくいくさ」


 どういうわけか、アーウィナ様はあのモブ顔男に固執しているようだ。説得してもアーウィナ様は帰ることに納得しないだろう。だったら、あの男を諦めるように仕向けてやればいい。


「連れて来た例の奴はすでに中か?」

「はい。すでに入って接触の機会を窺っています」

「よし」


 ならばあとは待っていればいい。

 うまく行けば、アーウィナ様は帰ることに同意するはず。


 建物を見上げながら、俺はせせら笑った。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 以前にアーウィナを連れ戻しに来た兵士が悪い企みをしているようです。

 はたして企みを看破できるのか……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は男湯に謎の女性が入って来て……。

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