第18話 アーウィナは帰りたくない

 学校帰りの買い物を終えた俺はまっすぐに家へと帰る。


 今日の夕飯はなんだろう?

 アーウィナの作ってくれるものなんでもおいしいので、毎日の食事が楽しみだった。


「ただいま。……あれ?」


 いつもなら出迎えてくれるアーウィナが玄関に現れない。


 なにかあったのかなと俺は少し心配になる。


「アーウィナ?」


 居間にも台所にもいない。


 どこにいるんだろう?

 まさかラノベの世界に帰ってしまったのでは?


 そんな不安が俺の胸に去来する。


「わたしは一緒に行きませんっ!」

「えっ?」


 2階からアーウィナの大声が聞こえる。


 誰かと話しているのだろうか?


 俺は慌てて2階へと駆け上がり、自分の部屋へと入った。


「あっ」


 部屋にはアーウィナ。

 そして見たことも無いような格好の男たちが3人いた。


「あ、満明さん……」


 アーウィナが不安そうな表情で俺を見つめる。


「アーウィナ……この人たちは?」


 格好からして普通じゃない。

 恐らくだが、アーウィナと同じ世界から来たんじゃないかと思った。


「ギルベルト王国の兵士です。わたしを連れ戻しに来たようで……」


 ギルベルト王国とは確か、あのラノベの世界でもっとも大きな国だったか。そんな国の兵士がなぜアーウィナを連れ戻しになんて……。


「君は?」


 3人の中で一番に偉そうな男が俺へと声をかけてくる。


「俺はこの家の人間です」

「ああ、君が。じゃあ君からも言ってくれないか? アーウィナ様に元の世界へ戻るようにと」

「戻るって……どうしてですか?」

「アーウィナ様は魔王討伐パーティにいた英雄のひとりです。我が国……いえ、世界にとってなくてはならない大魔法使いなのです。こんなところにいていいお方ではありません」

「わたしは帰りませんっ!」


 俺がなにか言う前にアーウィナは帰らないと宣言する。


 俺もアーウィナはには帰ってもらいたくない。

 アーウィナが帰りたくないというのならば、それでいいと思うのだが。


「彼女は帰りたくないと言っているのです。ならそれでいいじゃないですか」

「そういうわけにはいきません。アーウィナ様、あなたは勇者清正様と良い仲になれなかったからと言って、別世界へ逃げるなど大人げありません。向こうへ戻られて、他に良い方を見つければよいではありませんか」

「わ、わたしはそんな理由でこちらへ来たわけではありませんっ! 満明様というわたしを大切に想ってくださる立派な男性がいると知ってこちらへ来たのですっ!」

「立派な男性……ですか」


 男は俺のほうへ目を向けて嫌な感じに笑う。


「失礼ですが、この男は勇者清正様とくらべれば虫けらですよ。顔も普通でつまらない。あなたほどの人にはつり合わないと思いますが」


 それを聞いて部下の男たちが俺を見て笑う。


 ムカつくが、間違ってもいない。

 俺は普通の見た目で、確かにアーウィナとはつり合わない。


「あなたほどの女性ならばもっと良い男性とお付き合いできますよ。さあ、こんな男のことなど忘れてもとの世界へ戻りましょう。男性がほしければ王子でも貴族でも、高名な剣士でも魔法使いでもご用意しますよ。なんせあなたは魔王討伐パーティのひとりだ。男なんて選び放題なのですから」

「この……っ」


 アーウィナの目が怒りに歪む。

 そして平手打ちをしようとしたのだろう。その手が上がった瞬間、


「ぐあっ!?」


 先に俺が男の顔面を殴った。


 俺自身がどんなに侮辱されてもそれは耐えられる。

 しかしこの男はアーウィナを男狂いのように言って侮辱した。それは許すことができなかったので、俺は思い切り男をぶん殴った。


「アーウィナへの侮辱は許さない」

「き、貴様っ……!」


 殴られた男が腰の剣を抜き。部下の男たちも続いて剣を抜く。


 こうなったらやるしかない。

 修業をしたんだ。簡単にやられたりは……。


「待ちなさいっ!」

「えっ? あ……」


 声を上げたアーウィナの周囲を黒い球が浮かぶ。


「そ、それは……」

「ダークボム。これに触れれば肉体は一瞬で消え去ります。帰りなさい。さもなければあなたたちにこれをお見舞いします」

「そ、そんなこと、おやさしいあなたができるわけは……」

「大切な人を傷つけるというのならば、わたしは非情にもなりましょう」


 アーウィナの目は本気だ。

 真剣な眼差しからそれがわかった。


「……わ、わかりました。しかしまた来ますよ」

「なんど来ても同じです。ギルベルトの国王に伝えなさい。わたしはこちらで暮らします。もうそちらへ戻って暮らすことは無いと」

「……っ」


 男が例のラノベを手に持って表紙に触れると、全員は本の中へと吸い込まれていった。


「よ、よかった……」


 張り詰めた空気が和らぎ、俺は大きく息を吐く。

 下手をすれば自分の部屋で斬り殺されるところであった。


「満明さんっ」

「わっ?」


 不意にアーウィナが抱きついてくる。

 柔らかいその身体を俺は抱き止めた。


「ありがとうございます。わたしのために怒ってくれて」

「い、いや……」


 大きな胸に押されてそれどころではない。

 気持ちが昂り、頭が沸騰しそうだった。


「わたし、ずっとここにいます。満明さんとずっと一緒に……」

「うん」


 アーウィナがここにいてくれることはもちろん嬉しい。

 しかし心のどこかでは帰したほうが彼女のためだったのでは?


 そんな風にも考えていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 満明君、勉強にスポーツ、そして喧嘩も強くなったせいか男らしくなっていますね。もう伊織が知っている凡庸な満明君はいない……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はアーウィナVS伊織

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