第10話 ストーカー疑惑?

 伊織の目に映っているのは俺に抱きつくアーウィナの姿。

 それを理解した途端、俺の頭はハッと我に返る。


「い、伊織これは……」

「その人って確か大会にいた人だよね?」


 どうやら伊織も大会にいたアーウィナの存在は確認していたようだ。


「部活の先輩が満明に聞いたら知り合いって答えていたそうだけど、満明に女の知り合いなんていたっけ? なんかすごく親しそうだけど……」

「あ、いや……そ、それよりも」


 アーウィナのことを深く聞かれたら答えようがない。


 慌てた俺はアーウィナに離れてもらって伊織のほうを向く。


「い、伊織はなにか用があって来たんじゃないのか?」

「わたしは……たまには満明の家で話でもしてあげようかと思って……」

「そ、そう」


 そのままお互い黙り込む。


 しかしなんで今さらわざわざ俺の家に来て話をなんて……?


 伊織の考えがまったく理解できなかった。


「ゆ、夕食とか作ってあげてもいいけど?」

「えっ?」

「満明みたいにうまくは作れないかもしれないけど、女の子の手料理とか食べたいでしょ?」

「あ、いやその……」


 付き合っていたときだって料理を振る舞ってくれたことなどない。

 それなのに一体どうしたというのか?


 困惑しつつ、俺が答えに窮していると、


「あ、あの」


 張り詰めた空気を裂くようにアーウィナが声を出す。


「お夕飯でしたらわたしが作りますので大丈夫ですよ」

「えっ?」


 それを聞いた伊織は一瞬だけきょとんした表情を見せ、やがて俺へと目を向けた。


「もしかしてあのお弁当ってこの人が……」

「あ、いやその……」

「ふーん。そっか」


 目を細めて俺を見た伊織は、それから踵を返す。


「じゃあね」

「あ、うん」


 そのまま帰って行く伊織を見送る。


 とりあえずなんとかなった……のかな?


 しかし伊織はアーウィナが何者か疑問を持ったはず。

 次に聞かれたらなんと答えようか?


 そのことに俺は頭を悩ませるのだった。



 ……



 ……それからしばらくして、俺はなぜか学校でみんなから避けられるようになる。


 理由はさっぱりわからない。

 なぜだか知らないが、俺はみんなから無視されるようになっていた。


 なんでだろう?


 放課後、帰り支度をしながら考える。


 もともと仲の良い友人がいるわけではない。

 なので無視をされてもそれほど孤独感は感じないが……。


「生馬君」

「えっ?」


 声をかけられて振り向く。

 と、そこには伊織の友人である女子が立っていた。


「ちょっといい」

「う、うん。構わないけど」


 歩いて教室を出て行く女子へと俺はついて行く。

 やがてやって来たのは人気の無い校舎裏だ。


 まさか告白?


 女子に校舎裏へ連れて来られるという状況だ。

 他に理由は思いつかない。告白なんて初めてなので、俺は胸を高鳴らせた。


「あのさ、生馬君」

「う、うん」


 断ったら傷つけてしまうだろうか?

 しかし彼女に対して好意は無いし、申し訳ないけど断るしか……。


「伊織をストーカーするのやめなよ」

「えっ?」


 想定外のことを言われて俺は言葉を失う。


 俺が伊織をストーカー?


 彼女がなにを言っているのかわからず、俺はただただ困惑していた。


「伊織が星村先輩と付き合うことになって悔しいのはわかるけどさ。ストーカーとかよくないよ。伊織も迷惑してるみたいだし」

「いやあの、俺は……」

「じゃあそれだけだから」

「あ……」


 女子は別れを言って去って行く。

 その場に残された俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。



 ……



 一体なんのことだったのか?

 家に帰った俺は居間のソファーに腰掛けて考えていた。


「どうかされましたか?」


 難しい顔をして唸っていた俺の様子を変に思ったのだろう。心配そうな表情でアーウィナが声をかけてくる。


「あーいや、なんか今日学校でクラスメイトの女子から、俺が伊織にストーカーをしてるとか言われてね。なにがなんだかわからなくて……」

「伊織さんって前にいらしたあの方ですか?」

「うん。俺が伊織にストーカーなんてするはずないのに……」


 確かに伊織が俺を裏切って星村先輩と付き合うことになって悔しい気持ちはあるけど、ストーカーしようなんて微塵も考えたことはない。


「もちろん満明さんが伊織さんをストーカーなんてするはずはありませんっ! 満明さんが好きなのはわたしですもんねっ!」

「えっ? ま、まあ……」


 恋愛的に俺はアーウィナをどう思っているか?

 それを考えたことはないが……。


「わかりましたっ! わたしが満明さんの潔白を証明しますっ!」

「えっ? けど、どうやって?」

「わたしには魔法がありますっ! お任せくださいっ!」


 そう高らかに言われ、俺はアーウィナに任せてみることにした。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 明日からは毎日1話更新になります。

 投稿時間は20:11です。よろしくお願いします。


 すでに正妻の余裕を見せつけるアーウィナさん。

 浮気した元カノさんが戻る場所なんてもう無いのですよ。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はアーウィナの魔法でストーカー事件の真実が判明。

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