第9話 エース爆誕

「へっ?」


 俺の打ったサーブは相手選手の頬を掠め、ボールはその背後へと落ちる。


「な、なに……?」


 相手選手は絶句の表情だ。

 試合を見ている人間たちも声を失ったのか、ヤジがすべてが消えていた。


「フィ、フィフティーン、ラブ」


 静寂の中を審判の声が響く。


「な、なんだよさっきのサーブ」

「ボールが見えなかったぞ……」


 そして周囲がざわつく。


 サーブはたくさん練習をした。プロ選手に変身したアーウィナから言わせればまだまだ全然ダメらしいが、高校の試合なら十分に通じるようだった。


「満明さーん。その調子ですよー」


 背後からアーウィナの応援する声が聞こえる。

 それを聞いた俺はますますとがんばる気になった。


「おいなんかすげー美人がいるぞ」

「ほ、ほんとだ。えっ? なに? 生馬って芸能人の知り合いでもいたの?」


 試合を見ている人間の目が俺からアーウィナのほうへと向く。

 だがしかたない。あんなにかわいい子がいたらそりゃあ見てしまうだろう。


「く、くそっ! 黒勇高校にこんな奴がいるなんて聞いてねーぞっ!」


 そう声を上げる相手選手に先ほどまでの余裕は見られない。


 次からは本気で来るだろう。

 気を抜かずにがんばろうと、俺は次のサーブを打つためボールを高く投げた。



 ……



 ……初戦を突破し、俺は順調に勝ち続けていよいよ決勝戦へと至る。

 決勝の相手は星村先輩だった。


「まさか決勝まで勝ち上がってくるなんてな……」

「よろしくお願いします」

「ふん。どうせまぐれが続いただけだろう」


 そう吐き捨てるように言って、星村先輩はサーブを打つポジションへとつく。


「生馬っ! お前なんかに俺のサーブは返せないぞっ!」


 そして先輩はサーブを打つ。

 飛んで来たボールを、俺は相手コートの隅へと打ち返す。


「はへっ?」


 そして俺へと点が入る。

 あっさり返したことに驚いたのか、先輩はキツネにつままれたような顔をしていた。


「ま、まぐれだっ! まぐれに決まっているっ! 次こそは……」


 打たれたサーブをふたたび返して、また点が入る。


「ば、馬鹿なぁっ!? ボールが見えないなんて……っ」


 ラリーが続くことは無い。

 先輩がサーブを打てば俺が返して点が入り、俺がサーブを打てば先輩は返せず点が入る。そして……


「んがっ!?」

「あっ」


 最後に打った俺のサーブが星村先輩の顔面に直撃する。

 そのまま星村先輩は仰向けに倒れて試合は終了。


 結局、決勝戦は俺がストレートで勝って優勝を果たした。


「お、おい、生馬が星村先輩に勝っちゃったぞ……」

「マジかよ……」

「てかボールにぶつかって倒れるとかダサ……」

「しかも余裕の勝利って、いつからあんなにうまくなったんだあいつ?」


 部活の仲間たちは皆、不思議そうな表情で俺を見ていた。


 当然だろう。

 ちょっと前までどちらかと言えば下手だったのだ。それが全国大会出場経験のある星村先輩にストレートで勝ってしまえばあんな顔にもなる。


「み、満明が勝った……?」


 伊織はなんとも言えない複雑な表情をしている。

 そして唯一アーウィナだけは嬉しそうな顔で俺を見ていた。



 ……



 ……表彰式を終え、俺はそのまま顧問や他の部員たちがいるところへと行く。


「お、おめでとう生馬」

「あ、はい」


 顧問の先生が戸惑いの表情で賞賛の言葉をくれる。

 他の部員はただただ不思議そうな表情で俺を見ていた。


 ちなみに星村先輩はさっきのボール顔面直撃で自慢の高い鼻が折れたらしく、慌てた様子で病院に行った。


「お前、部活にも出ないでどうやってあんなにうまくなったんだ?」


 全員が聞きたいだろうことを顧問の先生が聞いてくる。


「えっ? あー……その、秘密の特訓と言うか……」

「秘密の特訓って……」

「秘密の特訓なので秘密です」


 本当のことを言っても信じないだろうし、アーウィナのことは言わないほうがいい。絶対にややこしいことになるだろうし……。


「あ、先生」

「うん? なんだ?」

「ご存じだったと思いますが、俺はこの大会が終わったら退部するので……」

「い、いやちょっと待ってくれっ!」


 退部の意向を伝えた俺に、先生は必至の形相を向けてくる。


「お前にはテニスの才能があるっ! このまま続けたほうが絶対にいいっ!」

「えっ? けど、朝はやめても構わないって……」

「俺の勘違いだっ! すまなかったっ! お前には才能があるっ! うちの部に必要な存在だっ! このままテニス部を引っ張って行ってくれっ!」

「は、はあ……」


 勢いに押され、やめることができなくなってしまう。


 別にテニスは嫌いじゃないので続けても構わない。自分にもそれなりに才能があることもわかったし、先生の言う通り続けたほうがいいのだろう。

 しかし伊織と星村先輩の件があるので、思いは複雑であった。



 ……



「やりましたね満明さんっ!」

「ア、アアアーウィナっ!?」


 家に帰って玄関の扉を開くと、先に帰ったアーウィナが抱きついてきた。


「ダ、ダメだよ抱きついちゃっ!」

「けどお祝いですから」


 そう言ってぎゅーぎゅーとアーウィナは俺へ抱きつく。


 これはダメだ……。

 すごいおっぱい。


 服の上からでもわかる大きくて柔らかいおっぱいの感触に、俺の頭は心地良さで満たされてぼーっとしてしまっていた。


「満明……?」

「へ? えっ……?」


 聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。

 そこにはきょとんとした表情の伊織が立っていた。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 見下していた後輩にボロ負けで星村先輩のプライドはズタボロに……。

 フッた男に美少女が抱きついていて伊織のプライドもズタボロに……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は満明に謎のストーカー疑惑が……。

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