第34話 重病に倒れるアーウィナ

「今日の夕飯はなにかしら?」


 居間でゴロゴロとゲームしながらミスティラが俺に聞いてくる。


「サバの味噌煮だって」

「えー。あたしあんまりお魚好きじゃなーい」

「だったら君が作る?」


 と、台所で夕飯を作っているアーウィナのほうへ目をやった。


「りょ、料理は苦手で……」

「なら黙って出されたものを食べるのが正しいよ」

「そうね。そうするわ」

「うん」


 文句は言うが、言えば素直に受け入れてくれる。

 曲がっているかと思いきや、意外にまっすぐな子であった。


「うん? なんか台所のほう静かじゃない?」

「えっ?」


 そういえばさっきまでは料理する音が聞こえていたのに、今は異様に静かだ。


 立ち上がった俺はどうかしたのかなと、台所を覗く……と、


「アーウィナっ!?」


 アーウィナが壁に寄りかかりぐったりとしていた。


「ど、どうしたんだ?」

「い、いえその……なにか急に眩暈がして……」

「とにかくベッドへ行こう」

「けど、お夕飯が……」

「そんなのはいいから」


 俺はふらつくアーウィナをベッドへと連れて行く。

 ベッドへ横になったアーウィナは苦しそうに荒い呼吸を繰り返していた。


「風邪かな……」


 しかしただの風邪にしてはひどく苦しそうだ。


 なにか別の病気かも……。

 とにかく医者へ連れて行かなきゃとそう思ったとき、


「これは体内で魔力が暴走する病気ね」


 部屋にミスティラが入って来てそう言う。


「体内で魔力が暴走する病気?」

「そう。魔法使いは体内で魔力を生成しているの。本来は使わない魔力を外に排出して霧散させるんだけど、ストレスとかでそれが満足にできないと体内で増えすぎた魔力が暴走しちゃうのよ」

「ス、ストレスって……」

「あんたのせいじゃないわ。生活環境が変わって精神的に疲れがあったんでしょうね。強そうに見えて意外と脆い子だから」

「アーウィナ……」


 苦しそうに呻いているアーウィナを見下ろす。


 俺が悪かった。アーウィナは生活環境が変わったことで心に負担がかかっていたというのに、俺はそれに気付かず呑気に過ごしていたのだから……。


「普通の魔法使いならそのうちに暴走は収まるんだけど、アーウィナは魔力の量が多いから、下手をすれば暴走した魔力に身体が耐え切れないかもしれないわね……」

「た、耐えきれないとどうなるんだ?」

「魔力に飲まれて消滅するわ」

「しょ、消滅っ!?」


 風邪かと思っていたのにまさかそんな重篤な病気だったなんて。

 焦りが俺の心を支配し、パニックを起こしそうになってしまう。


「ど、どうしたら助けられるんだっ?」

「治療薬があれば助けられるけど……」

「けど?」

「向こうへ戻る必要があるわね」

「向こう……」


 向こうとはつまりラノベ世界のことだろう。

 魔法の病気なんだし、治す薬が向こうにあるのは当然だった。


「じゃあ行こうっ!」

「そうね。あたしもライバルは失いたくないし、一緒に行くわ」

「ありがとう」


 俺は急いで例のラノベを手に取り、本の表紙に文字をなぞる。と、一瞬でアーウィナの自宅へと移動した。


「んにゃあ……」

「あ、クロイツっ!?」


 アーウィナの家へやって来ると、足元でクロイツが具合悪そうに唸っていた。


「どうしたんだっ? 大丈夫かっ?」

「ううん……。あかん……。むっちゃ具合悪い……。強い酒、飲みまくったときの二日酔いよりもしんどいわ……」

「使い魔のそいつもアーウィナからの影響を受けているようね」

「そ、そうなのか」


 クロイツはアーウィナの使い魔だ。

 なんらかの魔力的な繋がりが彼女とあって、魔力暴走の影響を受けてしまっているのだろう。


「クロイツのためにも早く治療薬を手に入れないと……。そ、それで、どこへ行けば治療薬は手に入るんだ? 薬屋とかか?」

「発症しても治療薬が必要なほど重篤になることは滅多に無いから薬屋には置いてないの。だから治療薬を手に入れるには魔法関連の施設に行く必要があるわ」

「魔法関連の施設って……」

「魔法学校へ行きましょう。あそこならあたしの顔見知りもいるし、話が早いわ」

「わかったっ。じゃあ急ごうっ」

「ええ」


 外へ出た俺はミスティラの飛行魔法で魔法学校へと急いだ。


 ……


「そろそろ到着するわ。ほらあれ」

「えっ?」


 前を飛ぶミスティラが前方を指差す。

 その方向には孤島があり、中心には西洋風の建物があった。


「あ、あれが魔法学校……」


 想像通りといった風な外見の建物だ。

 まさに魔法学校であった。


 ミスティラは建物の前に着地し、俺もそれに続く。


「それで、治療薬はどこにあるの?」

「とりあえず校長にあいさつしましょうか。勝手に持って行くわけもいかないし」

「それもそうか」


 ミスティラの言うことはもっともだ。

 俺は焦っていたせいか、治療薬を手に入れるだけですぐに帰るつもりになっていた。


 俺たちは魔法学校へと入り、ミスティラの案内で校長室へと向かう。


「ここが校長室……」


 俺が通っている校長室とはまるで違う。

 中にRPGのラスボスでもいそうな雰囲気の扉だった。


 ミスティラはノックもせず。その扉を勢いよく開く。


「うん?」


 しかし中には誰もいなかった。


「いないみたいだね」

「なに言ってるの? 校長ならいるじゃない」

「えっ?」


 ミスティラが机の奥を指差す。

 よく見ると、なにやら赤い髪をした頭のようなものが見えた。


 ――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 病気で大ピンチのアーウィナ。

 はたして治療薬は簡単に入手することができるのか……?


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。


 次回は校長から治療薬をもらおうとするが……。


 

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