第46話 勇者の実力に圧倒される

 ……あっという間に時間は経ち、次の日の正午となって俺は決闘の場へとやって来る。決闘の話を聞いたのだろう。王都中心の広場には野次馬たちが大勢来ていた。


「おい、あれが勇者様と決闘するって言う男か? なんかすげー普通じゃん」

「けど身体つきはそんなに悪くないな」

「勇者様に勝てるわけないのになに考えてるんだろうねぇ」


 勝てない。

 殺されるだけ。

 あいつは馬鹿だ。


 野次馬たちからはそんな声しか聞こえてこない。


 しかしシャルノア校長の修業魔法でできるだけ鍛えた。

 時間停止魔法も使い、身体も剣術も限界まで鍛え上げたのだ。


 それなりに……いや、かなり強くなったはず。

 だが、シャルノア校長曰く、それでも勇者に勝つのは難しいとのことだった。


「おお、勇者様だ」


 しばらく待っていると、広場へ勇者がやって来る。しかし今までのようなラフな格好ではない。身体は神々しいとしか言いようが無い、眩い武具に包まれていた。


「あれは……勇者の装備」

「ゆ、勇者の……」


 うしろで俺を見守ってくれているアーウィナの言葉を聞いて俺は唾を飲み込む。


 勇者の装備。

 つまり清正は魔王を倒したときの装備で現れたということだ。


「決闘の礼儀だからね。勇者の正装を纏ってきたよ、くっくっくっ」

「……っ」


 腐っても勇者だ。


 凄まじい強者のオーラに俺は圧倒されていた。


「さて始めようか。どこからでもかかってきていいよ」


 始めると言うが、勇者は剣すら抜かない。

 目の前に立ってへらへらと薄ら笑いを浮かべていた。


「この……っ!」


 俺だって修業魔法で限界まで鍛えたんだ、

 装備だってできるだけ良いものを用意してもらっている。油断しているうちに一太刀を浴びせて動けなくしてやる。


 腰の鞘から抜いた剣を高く振り上げた俺は、そのまま駆けて清正を斬りつける。……が、


「なっ!?」


 鎧には傷ひとつつけることができない。

 斬られた清正自身も微動だにせず、変わらず余裕の表情で居た。


「今なにかした? くくっ」

「ぜ、全然効かないなんて……っ。このっ!」


 何度も斬りつける。

 しかしどこを攻撃してもわずかな傷すらつかず、攻撃している俺が疲れていくだけであった。


「はははははっ! 痛くも痒くもないよっ! 校長の修業魔法で強くなれるだけ強くなって僕に勝てるかもって勘違いしちゃったのかもしれないけどさ、モブ野郎なんかいくら強くなってもこの程度さっ!」

「うう……」


 俺はこれ以上無いくらいに強くなったつもりだ。それなのにまだこれほどの差があるなんて……。


 これが勇者。あまりに強過ぎる。

 俺なんかがいくら強くなっても勝てるはずはなかったのだ……。


「おいおいまったく歯が立たねーぞ」

「当たり前だ。相手は勇者だぜ? 最初から勝てる可能性なんかあるわけない」


 野次馬たちの言う通り、最初から勝てる可能性なんて無かった。……けど、


「うん? くくっ、まだやる気なのかい?」


 俺は剣を構えて清正へと向ける。


 最後まで諦めはしない。

 勝てる可能性が無くたって、最後の最後まで足掻いてやるんだ。


「往生際が悪いね。いいよ。君と僕にどれほどの差があるのか、もっとわかりやすく見せてあげよう。それ」


 勇者が目を見開く。と、


「うあっ!?」


 俺の身体は吹っ飛び、纏っていた鎧が砕け散る。


「僕は世界最強の力を持つ勇者だ。君なんてモブ、僕が動くまでもなく殺せるんだよ。これで圧倒的な差があるってわか……うん?」


 俺は立ち上がって剣を構える。

 そんな俺を清正はおもしろそうに見ていた。


「君は変わってるなぁ。普通なら土下座して許しを請うところだろう? それなのに敵意を剥き出しで睨んでくるなんてね。もしかして自殺志願者なのかな?」

「違う。俺は……お前に勝ってアーウィナと一緒に帰るんだっ!」

「ふっ……ふははっはっははっ!!! 全力で斬りかかっても僕にかすり傷ひとつつけられなかったのになにを言ってるんだよ? もう君にあるのはその剣だけだ。けどよく見てみなよ。僕の鎧を攻撃したせいで剣もボロボロだ」


 確かに剣は今にも折れそうなほどにボロボロだ。

 だがまだ折れていないし、俺の心だって折れていない。


「君おもしろいよ。今ここで土下座して許しを請うなら命だけは助けてやってもいいよ。偉大な勇者様は慈悲深いんだ」

「俺はお前に勝つんだ。土下座する気なんてない」

「くくっ、たかが女ひとりのために命を捨てるのかい? 女なんて吐いて捨てるほどいるのにさ。まあ、君のようなモブにはたかが女ひとりでも貴重なのかもね。女を選び放題の僕のような強者とは違うからさ」

「例えお前ほどの力があったって、俺はアーウィナ以外の女性と関係を持ったりしない。俺にとって女性はアーウィナだけだ」

「ひゅー格好良いね。けどそれは君が弱いからそう考えるだけさ。僕のような強い力を手に入れればたくさんの女を抱きたくなる。必ずね」

「……確かにお前の言う通り俺は弱い。だから強くなったらどうなるかわからない。お前のように地位や名誉に固執するクズに成り下がるかもしれない。けど、アーウィナだけを愛する気持ちは変えないっ! 絶対にっ!」

「君が僕ほどの力を手に入れることなんてあり得ないから、そんなことを考える必要は無いよ。さて、君とのおしゃべりにも飽きたし、そろそろ終わりにしようか」


 おもむろに清正は腰の鞘から剣を引き抜く。


「勇者の剣だ。モブのくせにこの僕へ立ち向かった褒美に、魔王を倒したこの剣で君を葬ってあげるよ」

「……っ」


 勇者の剣を携えた清正がこちらへと迫る。


 あれは魔王にとどめを刺した剣だ。ラノベ内でも世界最強の剣と説明がされており、あんなもので斬りつけられたら俺の命は一瞬で断たれるだろう。


 どうしたらいい?


 俺は全身を汗まみれにさせながら打開策を考えた……。


「ま、待ってくださいっ!」


 そのとき俺の前にアーウィナが飛び出てきた。


 ――――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 想定以上の強さに大ピンチですね。

 最強最悪勇者を倒す術は見出せるのか……?


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 よろしくお願いいたします。


 次回、勇者に異変が?

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