第47話 勇者の暴挙に非難が飛ぶ
「ア、アーウィナ……」
アーウィナは俺を庇うように清正へ立ち向かっていた。
「もうこんなことは終わりにしてください勇者様っ! すでに決着はついているじゃありませんかっ! これ以上は決闘ではなく、ただの殺人ですっ! 謝罪が必要と言うのでしたら、代わりにわたしがします。隷属しろと言うのでしたらそれに従います。ですから満明さんの命は……」
「謝罪なんて必要無いよ」
清正はニッと笑ってそう言う。
「君が謝っても、彼が謝っても最初から許す気なんて無い。僕はただ、一向に折れる様子が無い彼の心を折って土下座させたかっただけ。謝ったってそのあとに殺してやるつもりだったよ。君を隷属させるのはそのあとでいい」
「そ、そんな……」
「僕は世界を救った勇者だ。その勇者に恥をかかせた不敬なその男を許して生かすなんてあり得ないことなんだよ。くっくっくっ」
とんでもないドぐされだ。
このラノベに続巻など絶対に無い。こんな奴が主人公では、続きなんか書けるはずがなかった。
「ちょっとあんたいいかげんにしなさいよっ! これ以上、やるって言うなら、あたしが相手になってやるんだからねっ!」
ミスティラが出て来て清正に指を差す。
「これ以上やるというのでしたら、わたしも勇者様と戦います」
「君が僕と? くくっ、人間の魔法は勇者に害を与えることができない。そんなことわかっているだろう? それでもやるというのかい? 僕の前では最強の魔法使いである君も、普通の女の子に過ぎないんだ」
「それでも……やりますっ!」
2人が俺の前に立って勇者と対峙する。
俺を守ってくれる2人の気持ちは嬉しい。だけど……。
「アーウィナ、ミスティラ、君たちは下がっていてくれ」
「えっ?」
振り返ったアーウィナとミスティラは驚いたような表情で俺を見る。
「これは俺の戦いだ。俺がひとりで戦って勝たなきゃ意味が無い」
「か、勝てるわけないじゃないっ! やってみてわかったでしょっ! あれはこの世界で最強なのよっ! あんたひとりで勝てるわけなんて最初からなかったのよっ!」
「そうです満明さんっ! ここはわたしとミスティラでなんとかしますから、あなたは逃げて……」
「そんなことはできない」
2人をどかして俺は前へと出る。
「俺は絶対に勝つんだ」
絶対に勝ってアーウィナを救う。
俺の頭にはもうそれしかなかった。
「み、満明さん……」
「くくっ……まだそんなことを言えるなんてね。どうやら頭がおかしくなってしまったようだね、君は」
「俺は正常だよ。最後の最後まで諦めるつもりはない」
「いいだろう。じゃあその最後を与えて、諦めさせてあげるよっ!」
清正が剣を振り上げる……と、
「待ってっ!」
今度は男の子が飛び出してくる。
この子は……。
「この人は僕のお姉ちゃんを悪い貴族から助けてくれたんですっ! 良い人なんですっ! それなのに勇者様が殺すなんておかしいですっ!」
「ニ、ニライ君、ダメだ。君も下がっていて……」
「下がりませんっ! だってこんなのおかしいですもんっ! 弱い者のために悪い奴らと戦うのが勇者様じゃないですかっ! こんなの勇者様がすることじゃないっ! こいつは勇者様なんかじゃないっ!」
「ほう……」
清正の目がギロリとニライを見下ろす。
「僕が勇者じゃないって? 言ってくれるじゃないか。その言葉がなにを意味するかわかっているのかい? 不敬だよ。世界を救った偉大な勇者を君は愚弄したんだ。これは万死値することだよ」
「ニライ君っ!」
俺は慌ててニライの前に立つ。
「そんなことをしたって無駄だよ。君を殺してその子供も殺すだけだ」
「自分がなにを言っているかわかっているのか? 相手は子供だぞ? それを殺すだって? それが勇者のすることか?」
「僕は偉大な勇者だ。僕が正義だ。僕のすることが正しいんだ。正義である僕を愚弄する者は悪。それを殺すのは勇者としておかしなことじゃない」
「お前は狂っている」
「その不敬な減らず口を今すぐに塞いでやる」
清正の顔が怒りに歪む。
その表情は悪そのもので、とても勇者と呼べるものではなかった。
「おいおい勇者さんよっ! さすがにそれはおかしいぜっ!」
野次馬のひとりがそう声を上げる。
「そうだっ! 相手は子供じゃないかっ! それを殺すだなんて、あんた勇者として絶対におかしいぜっ!」
「あんたには感謝してるけどさ、さっきからいろいろひど過ぎるよ。あんた身勝手過ぎるって。勇者らしくないよ」
「子供の言ったことくらいこと許してあげなさいよっ!」
「そうだそうだっ!」
野次馬たちが一斉に清正の非難を始める。
その声が上がるとともに、清正の顔は邪悪な怒りに歪んでいった。
「……うるさいな。だったら君らみんな殺しちゃおうか?」
その一言で野次馬は一瞬で静かになる。
「この世界は僕が救ったんだ。だったら誰を殺したっていいよね? 僕が救わなければ無くなってたかもしれない命なんだしさ。くく、殺して評判が悪くなったらアーウィナに記憶を消させればいい。それで僕はいつまでも清廉潔白な勇者でいられる」
清正が野次馬のほうへ歩いて行こうする。
しかしその前に俺が立ちはだかった。
「お前の相手は俺だ」
「ああそうだった。じゃあまずは君から殺さないとね」
振り上げられた勇者の剣。
その白刃が俺の頭上へ落ちてくる。……が、
「なっ……?」
勇者の剣は俺の頭上、数ミリほどのところで止まった。
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お読みいただきありがとうございます。
世界を救った勇者とは言え、あまりの暴挙に民衆も黙ってはいられませんね。ここで反省して剣を収めていれば、まだ救いはあったかもしれません。
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よろしくお願いいたします。
次回、真の勇者。
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