第14話 修業魔法でゴブリンと対決

 ―――星村龍馬視点―――


 ……変な棒で打たれた股間がまだ痛む。

 しかしかわいい子だった。あんな綺麗な子に打たれるなら、股間の痛みも快感に変わるような気さえする。


 しかし生馬みたいなショボい男になぜあれほどかわいい恋人が?


 帰路につきながら俺は考える。


 テニスで負けたことよりも、生島のようなしょぼい男に美人の恋人がいることが不思議でしかたない。


 自慢じゃないが俺は女にモテる。

 女にモテるための努力はすべてやっているし、テニスもそのためにうまくなった。そしてなにより俺はイケメンだ。ちょっと勉強やテニスができるからと言って、あんな普通な顔の男にあれほどかわいい恋人がいるのは許せない。


 どうにか俺のものにできないか?


 しかしあの様子ではかなり生島に惚れている。

 ちょっと声をかけたくらいでは俺のほうへなびいてこないかもしれない……。


「お、星村じゃねーか」

「うん? ああ、金島」


 コンビニから不良男子が数人ほど出てきて声をかけられる。


 金島翔作かなしましょうさく

 厳つくて身体の大きいこの男は中学の同級生だ。


「ひさしぶりだな。相変わらず優等生か」

「お前も相変わらずだな」


 気に入った女がいたときは金島たち不良に金を渡して女へ絡ませ、俺が助けて自分のものにするということをやっていたが……。


 と、そこで俺はいいことを思いつく。


「なあ金島、ひさしぶりに手伝ってくれないか?」

「へっへっ、金さえくれりゃあいいぜ」

「金はもちろん払うよ」


 俺がニッと笑うと、金島も卑しく笑う。


 これであのかわいい子は俺のものになる。

 テニスで負けてしまったことも、これで溜飲を下げられるだろう。



 ―――生島満明視点―――



 星村先輩とテニスで対決した次の日の日曜日、俺は夕飯の材料を買うためにアーウィナと2人で買い物へと出掛ける。


「今日はなにを作ってくれるの?」

「ビーフシチューです」

「ビーフシチューかぁ」


 アーウィナが作ってくれるものはなんでもおいしい。アーウィナがいなくなったら、俺は飢え死にしてしまうと確信できるほどに。


「アーウィナの料理はすごくおいしいから、毎日楽しみだよ」

「ふふ、そう言ってもらえるとすごくうれしいです」


 そう言ってアーウィナは俺の腕へ抱きつく。


「う、うん」


 大きな胸が腕を挟んでドキリと心臓が跳ね上がる。


 本当にアーウィナは綺麗でかわいい。

 こんなに素敵な女の子が隣にいてくれることがすごく嬉しかった。


「おい」

「えっ?」


 背後から乱暴に声をかけられ振り返る。と、厳つい男たちがそこにいた。


 その中でもひと際に身体が大きい男が、俺を見下ろしてニヤリと笑う。


「あ、あの、俺に用ですか?」

「そうだよ。へっへっ、良い女を連れてるじゃねーか。その女、俺たちに寄こせよ」

「な、なにを言ってるんですか? 彼女は物じゃない。寄こせとか失礼じゃないですか」

「ああ? うるせえっ!」


 俺を目掛けて拳が飛んでくる。


 殴られる。


 そう思った俺は目を瞑った。

 ……しかし痛みがこない。目を開くと、目の前で拳が止まっていた。


「あ、あれ?」


 拳だけじゃない。

 男たちも完全に固まっている。


「なんだ? なんで……?」

「わたしの魔法で時間を止めました」

「じ、時間を?」


 そんなことまで魔法でできるとは。


「じゃあ今のうちに逃げようか」

「ちょっと待ってください。ここで逃げても、また絡まれるかもしれませんよ? 二度と絡まれないようにしないと」

「二度絡まれないようにって……どうするの?」

「はい。満明さんが強くなればよいのです。今すぐに」

「今すぐになんて無理だよ」


 俺は喧嘩なんてやったこともないし、格闘技の経験も無い。

 そんな俺が強くなるには、少なくとも1年くらいは必要だろう。


「大丈夫です。わたしの修業魔法を使えばすぐに強くなれますよ」

「修業魔法? なにそれ?」

「説明するよりも実際に使ってみたほうが早いですね。ボソボソ……えいっ!」

「えっ?」


 アーウィナが魔法を唱えると、俺は一瞬で別の場所へ移動した。


 瞬間移動……? いやしかし、どこに移動したのかわからない。

 なにか洞窟みたいな場所だった。


「アーウィナ? どこ?」


 アーウィナの姿も無い。


「わたしはさっきの場所にいますよ。ここでサポートしますので存分にそちらで修業をなさってください。そこでは絶対に傷つくことも死ぬことはありませんから。ただし痛みはありますので、気をつけてくださいね」

「えっ? でも俺はここでなにをすればいいの?」

「出てくるモンスターを倒してください」

「モンスターを倒せって……」

「レベル5くらいまで上げればさっきの人たちに勝てますが、せっかくですし8くらいまで上げちゃいましょうか」

「ぐおおおっ!!」

「へ?」


 目の前に棍棒を持ったヘンテコな怪物が現れる。


「こ、これは……」

「ゴブリンです。さあ倒してください」

「倒してくださいって……うおおっ!?」


 怪物が棍棒を振り回して襲い掛かってくる。


「いたーいっ!」


 ぶん殴られる。

 ものすごく痛いが、アーウィナの言った通り怪我は無い。


「がんばってくださいっ!」

「あうう……」


 やるしかないか。


 怪我はしないんだ。

 やってやると、俺はゴブリンへ向かって行った。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 昨日は星村先輩とテニスで対決。今日は洞窟でゴブリンと対決。

 平凡な男子高校生の日常です。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はレベルアップした満明VS不良集団。

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