第13話 アーウィナの恋人宣言

「ま、まさか……っ」


 対決は終わり、星村先輩がコートに両手をつく。


 勝ったのは俺だ。


 先輩は驚いているようが、先日の試合を考えれば当然の結果だった。


「そら勝てんだろ」

「大会でもボロ負けだったみたいだしな」

「部長の面子丸つぶれだな」


 星村先輩はコートに両手をついてがっくりとうな垂れ、身体を震わせていた。


 しかし勝っても意味は無い。

 俺はストーカーをやっていないし、この対決に意味は無いのだ。


「い、生島……」

「は、はい」


 立ち上がった先輩が俺を睨む。


「なにをした……?」

「えっ? なにをしたって……?」

「なにか卑怯なことをしたんだろうっ! そうに決まっているっ! そうでなければ俺がお前に2度も負けるなんてあり得ないっ!」

「いや、卑怯なことなんてなにもしてませんよ」

「嘘を吐くなっ! そうだよなっ。ストーカーなんて卑劣なことをする奴だっ! テニスでもなにか卑怯なことをしているんだろうっ? この前の大会も今の試合もそうだっ! 絶対になにか卑怯なことをお前はしているっ!」

「そんな馬鹿な……」


 だいたい卑怯なことってなにをするんだ?

 やろうにも想像ですら方法は思いつかない。


「さあっ! どんな卑怯なことをしたか言えっ! この卑怯者がっ!」

「やめてください。俺は卑怯なことなんてしてませんよ」

「うるさいっ! 白状しろっ!」


 こちらへと歩いて来た先輩に胸ぐらを掴まれる。


 これはまいった……。


 どうしようか困っていると……。


「満明さんに乱暴をするのはやめてくださいっ!」

「えっ?」


 コートへ駆け込んで来た女の子が俺の胸ぐら掴む星村先輩を突き飛ばす。


「ア、アーウィナ?」


 駆け込んで来たのはアーウィナだ。


「お、おい誰だあのかわいい子っ?」

「あんなかわいい子うちにいたか? む、胸もでかいし……」


 突如として私服の美少女が現れたので、生徒たちは驚いている様子だ。俺もまさかアーウィナが飛び込んで来るとは思っていなかったので驚いていた。


「き、君は……確か大会にも来ていた……」

「満明さんは卑怯なことなんかしていませんっ! 変な言いがかりはやめてくださいっ!」


 さっきまで噛みつくような勢いで俺へ迫っていた星村先輩が、今はアーウィナを前に目を見開いて黙っていた。


「行きましょう満明さん」

「あ、うん」


 アーウィナに引かれて俺はコートを出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。君は何者だ? この学校の生徒じゃないと思うが……」

「わたしは満明さんの恋人ですっ!」

「えっ? ア、アーウィナ?」


 その宣言を聞いて俺は驚く。

 聞いていた先輩や他のみんなも驚いた様子でこちらを見ていた。



 ……



「ごめんなさいっ!」


 更衣室で制服に着替えて外へ出ると、いきなりアーウィナが謝ってくる。


「ど、どうしたの急に?」

「勝手なことをしてしまって……」

「ああいや……」


 さっきのことを気にしているのだろう。

 確かにいきなり現れて驚いたが、


「アーウィナが来てくれて助かったよ。変な言いがかりをつけられて困っていたからね。ありがとう」

「いえそんな……。卑怯なことなんてしていない満明さんが責められているのが見ていられなかっただけで……」

「アーウィナ……」


 優しい子だ。

 こんな良い子が俺に好意を持ってくれるなんて不思議であった。


「あ、あの、アーウィナ。それでその……さっき言ってたことなんだけど……」

「はい? えっと……なんでしょう?」

「お、俺の恋人だって……」


 そう言うとアーウィナの表情がサッと朱へ染まる。


「あ、あれはその……ご迷惑でしたか?」

「そ、そんなことないよっ。けど俺なんかの恋人だなんて思われたら、君に恥をかかせてしまうんじゃないかと思ってね」

「そんなことはありませんっ!」


 じっと俺の目を見つめてアーウィナは言う。


「満明さんは素敵な人ですっ! わたしではもったいないくらい……」

「い、いや、君のほうがずっとずっと素敵だよっ。俺が恋人じゃ、あんまりにつり合わなくて君が笑われるって思うくらい……」

「もしも笑う人がいたら、その人は満明さんが素敵だって知らない人です。そんな人のことなんて気にする必要はありませんよ」

「そ、そう、かな……」

「はいっ」


 ニッコリと微笑むアーウィナ。


 俺がこんな素敵な子と恋人同士に。


 彼女のほうから宣言されたことだが、アーウィナという眩しいように素敵な子と俺が恋人同士になれるなんて信じられないことだ。


「けど、まだまだちゃんとした恋人同士にはなれていません」

「えっ?」

「満明さんのほうから、わたしに好きだと言ってほしいんです」

「えっ? お、俺のほうから?」

「はい。そうしたらわたしは受け入れます。それでちゃんとした恋人同士ですよ」


 そう言ってアーウィナは俺の顔をじっと見上げてくる。


 アーウィナのことが大好きだ。

 恋人同士になりたいと思っている。


「お、俺は……」


 俺がことばを言いかけたそのとき、


「お、おーいっ! そこの君っ!」


 星村先輩がこちらへ駆けて来た。


「ねえ、君はこの学校の子じゃないんだろう? 連絡先を教えてくれないかな? あ、俺は星村龍馬って言うんだ。君の名前は……」

「むううっ!」


 星村先輩に声をかけられたアーウィナは、なにやら突然と唸り声を上げ、


「はがぁっ!?」


 どこからか現れた杖で星村先輩の股間を打った。


「なんですかもうっ! いいところだったのにっ!」

「ア、アーウィナ、それはさすがに……」

「良い雰囲気が台無しですっ! もう行きましょうっ!」

「う、うん」


 股間を押さえて蹲る星村先輩を置いて俺たちはその場を去る。


 なんだか言いそびれてしまった。

 しかし星村先輩が来なければ俺とアーウィナはちゃんとした恋人同士になっていたのだろうか? アーウィナは世界を救った勇者に恋をしていた女の子だ。俺なんて普通の男で満足してもらえるのか?


 アーウィナの俺への想いを疑っているわけではないが、どうにも勇者という大きな存在に対しての劣等感が抜けず、卑屈に考えてしまっていた。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 アーウィナは満明と恋人同士になりたい様子。

 しかし満明のほうはなんとも複雑な心境のようですね。


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 よろしくお願いいたします。


 次回は修業魔法でレベルアップ。

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