第12話 ストーカー疑惑を晴らそう

 次の日、俺が学校へ行くと、校門で星村先輩に呼び止められた。


「生馬、ちょっと来い」

「あ、はい」


 この先輩は俺に対していつも怖い雰囲気だが、今日はいつにも増して表情が強張っている。まあ事故とは言え、鼻の骨を折られたのだから俺に対して怒り心頭なのだろうと、鼻に巻かれた包帯を見ながら思った。


 そのまま星村先輩にテニス部の部室へ連れて行かれる。


 なんの用だろう?

 鼻の治療費を払えとか言ってくるんじゃないだろうか? それともなにか恨み言でも聞かされるんじゃないか?


 だったら嫌だなぁと思いつつ、俺は星村先輩の言葉を待った。


「生馬お前、伊織にストーカーをしているらしいな」

「えっ? いやそれは……」


 濡れ衣だ。

 しかしそう弁解しても信じてくれるような様子ではなかった。


「俺と伊織が付き合っていることは知っているだろう。俺の彼女にストーカーをするということは、俺に喧嘩を売ることと同義だ」

「俺はストーカーなんて……」

「言い訳は見苦しいぞっ!」


 そう怒鳴られても俺はストーカーなどやっていないのだ。

 言われたことに対して肯定なんてできるはずはない。


「俺と勝負しろ生馬」

「は? 勝負って……?」

「テニスで勝負をするんだ。俺が勝ったら伊織へのストーカーはやめる。いいな?」

「いやでも、テニスでの勝負は大会でしましたし……」

「あ、あんなのはまぐれだっ! 次にやれば絶対に俺が勝つっ!」

「そうでしょうか……」


 まぐれではないし、またやってもたぶん俺が勝つだろう。


「勝負は今日の放課後、学校のテニスコートでだ。逃げずに来るんだぞ。あとお前がが負けたら鼻の治療費も払ってもらうからなっ! 慰謝料もだぞっ! 絶対に払えよっ!」

「あ、先輩っ!」


 俺の返答も聞かずに先輩は部室を出て行ってしまう。


「まいったな……」


 ものすごい剣幕で鼻の治療費と慰謝料を払えと言われて、少し尻込みしてしまった。ストーカー云々よりこっちが勝負の理由なんじゃないかと思った。


 星村先輩との勝負なんてどうでもいい。俺が伊織をストーカーしているというみんなの誤解をなんとか解けないものか……。


 伊織は本当のことをみんなに言って誤解を解いたりはしてくれないだろう。

 このままではずっとストーカーの犯人扱いだ。


 なんとか濡れ衣を晴らす方法はないだろうか……。


「満明さん」

「えっ? わあっ!?」


 声をかけられ振り向くと、そこにはアーウィナが立っていた。


「ア、アーウィナ。どうしてここに?」

「満明さんが潔白だと学校の皆さんにわかっていただこうと思いまして」

「なにかいい方法があるの? あ、記憶を消す魔法を使うとか?」

「それでは伊織さんが同じことを繰り返すかもしれません。別の方法で満明さんへのストーカー疑惑を無くします」


 と、そう言ってアーウィナは何事かを呟く。

 すると昨日に見た風の精霊とやらが複数体現れた。


「彼らの力を使って真実を皆さんへ伝えます」


 どうやってだろう?

 よくわからないが、今回もアーウィナに任せることにした。



 ……



 アーウィナの考えは校舎へ入ってすぐにわかった。


(わたしはストーカー被害なんて受けていない。満明は濡れ衣)


 伊織の声でそんな言葉が校舎内の至る所で響き渡る。


「なんだこの声?」

「どこから聞こえてるの?」

「校内放送じゃないの?」


 奇妙な声に生徒たちは困惑の表情だった。

 そしてもっとも困惑しているのが……。


「ちょ、ちょっとなんなのこれっ!」


 伊織だ。

 自分の声を勝手に使われているのだし、戸惑いもするだろう。


(満明を困らせてやろうと思ってストーカー被害をでっち上げたの。だから全部嘘。ストーカー被害なんて受けていない)

「なんなのもーっ!」


 伊織は放送室のほうへ駆けて行くが、この声は止められないだろう。


 結局、声は放課後まで流れ続けた。


 ……そして俺は星村先輩に言われた通り、テニスで勝負をするためテニスコートへと来ていた。


「……」


 俺がテニスコートへ来ると、複雑な表情の星村先輩がそこで待っていた。


「先輩と生島なにしてんの?」

「なんか先輩が勝ったら半羽さんのストーカーをやめさせるらしいよ」

「えっ? けどストーカーは嘘って半羽さんが自分で言ってたじゃん」

「うん。……うんざりするくらいね」


 コートの周囲にいる生徒たちからそんな声が聞こえてくる。


 1日中あの声を聞き続けたのだ。

 うんざりもするだろう。


「……っ」


 会話している2人を離れたところから伊織が睨む。


 聞こえていた声は嘘だとあちこちに言い回っていたそうだが、声は間違い無く伊織のものだった。親しい者は伊織の言うことを信じたかもしれないが、そうでない者たちは聞こえていたあの声のほうを信じたようだ。


「生島」


 黙っていた星村先輩が俺へラケットを向けてくる。


「伊織は言っていた。あの声は嘘だってな。あの声がなんだったのかはわからないが、俺は伊織の言葉を信じる」

「は、はあ」

「ストーカーはお前だ。やめさせるために対決は受けてもらう」

「いや、だから俺はストーカーなんてやってませんって」

「うるさいっ! いくぞっ! 俺が勝ったら鼻の治療費と慰謝料を払えよっ!」


 治療費と慰謝料の請求を声高に叫んだ星村先輩は、うしろへ下がってサーブの体勢へと入る。


 先輩に勝利した大会での試合はついこのあいだだ。

 結果は見えていた。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 自分から2度目の敗北を受けに行く星村先輩。

 かつてのイケメンエースはもういない……。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はアーウィナの恋人宣言に戸惑う満明。

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