ラノベの世界から会いに来ました。幼馴染を先輩に寝取られた俺のもとへ現れたのは、小さくて大きな負けヒロインの魔法使い

渡 歩駆

第1話 ラノベの世界からやってきた負けヒロイン

「はい鞄」

「あ、うん」


 隣の家の玄関で俺は女の子から鞄を受け取る。


 黒髪に短いポニーテールの美少女。

 おっとりした顔のこの女の子は隣に住んでいる幼馴染の半羽伊織はんばいおりだ。


「ほら早く行こう。遅刻しちゃうから」

「う、うん」


 そして美少女から鞄を受け取った普通顔の男。

 それが俺、高校2年生の生馬満明いくまみつあきである。


 俺にはなんの特徴も無い。

 勉強普通、運動普通。伊織が入ると言うので一緒にテニス部へ入っており、テニスはちょっと得意。そんな普通の男子高校生だ。


 父親は転勤し、母親はそれについて行ったので俺はひとりで暮らしている。友達と呼べる人間もおらず、身近にいる親しい人間は伊織だけであった。


「こ、この鞄なにが入ってるの? 重い……」

「部活の道具とかいろいろ。ほら急いで」

「あ、待って」


 玄関の扉を開けて出て行く伊織を追う。


 伊織は美少女な上に頭も良く、運動もできる。


 俺にひとつだけ優れている部分があるとしたら、それは伊織と恋人同士ということだろう。これは俺が他人に自慢できる唯一の長所と言ってもいい。


「満明ってしあわせだよね。わたしみたいなかわいい女の子と付き合えてさ」

「うん。本当にね」

「もっと感謝してもいいんじゃない?」

「か、感謝って?」


 こうして毎日、鞄を持ってあげているし、誕生日やクリスマスとなればできるだけ高いものをプレゼントしている。


 言葉でも形でも感謝は表しているつもりなのだが……。


「うーん……いやでも、満明に感謝されても、そんなに嬉しくないかなぁ」

「そ、そうなの? 俺は伊織に感謝なんてされたらすごく嬉しいけど……」

「そんなの当たり前じゃん。てか、わたしが満明に感謝なんてするはずないよ。わたしが付き合ってあげてるんだから」

「そ、そうだね」


 俺は凡庸な男。伊織は美少女。

 まったくつり合っていないのだから、感謝は俺が一方的にして当然だった。


 俺なんかが伊織と付き合えていることが奇跡だ。 

 俺と付き合ってくれている伊織には感謝しかない。 


 このまま恋人同士を続けていつかは結婚なんて……。


 そんな希望を胸に、俺は学校生活を送っていた。


 ……と、それが1ヶ月前までのことだ。

 最近は一緒に登校もしていない。学校での会話も減り、少し疎遠な状態になっていた。


 どうしてだろう?


 俺は昼食後に教室へ戻って来て、机に座って考える。


 怒らせるようなことはしていない。

 ある日から急に、伊織が俺から距離を置くようになった気がする……。


「えっ?」


 そんな日が何日か続いたある日の昼休み、おしゃべりな伊織の友達から俺は衝撃の事実を聞かされる。


「だから、伊織と別れることになって残念だねって」

「い、いや、なんの話? 俺は伊織と別れてなんて無いよ」

「えっ? いやでも、伊織、テニス部の星村先輩と付き合ってるよ」

「え……」

「あ、もしかしてこれ言っちゃダメだったのかな? ごめん。聞かなかったことにしてくれる? それじゃね」


 そう言って伊織の友達は立ち去って行く。


 なにかの間違いだ。

 きっとそう。伊織が星村先輩と浮気をしているなんて……。


 星村先輩はテニス部の部長でエース。全国大会出場経験もある優秀なスポーツマンな上、学業成績の良い高身長のイケメンだ。


 伊織も女子テニスでは県大会に出場した腕前だ。美人で学校の成績もいいし、確かに俺なんかよりも星村先輩とのほうがお似合いのカップルではあるが……。


 とにかく確かめてみよう。


 伊織は買ったばかりのラケットを置きにテニス部の部室へ行くと言っていた。

 昼休みなら他に誰もいないだろうし、話をするには丁度良かった。


 俺は駆け出しそうになる足を抑えて、テニス部の部室へ向かう。

 そして部室へ着いた俺は扉を開く。……と、


「あ……」


 キスをする伊織と星村先輩の姿が目に入った。


「ん……あっ」


 伊織がこちらに気付く。

 彼女の目には呆然とする俺の姿が映ったことだろう。


「み、満明……」

「伊織……」


 なにも声が出ない。

 とにかくこの場を離れようと、俺は踵を返した。


「生馬」


 その背に星村先輩の声がかかる。


「こういうことだ。もうお前と伊織は恋人じゃないんだから、馴れ馴れしくはしないようにな」

「……」

「ごめんね満明。でもわたしと満明じゃつり合わないと思うの。だからわかって。ね?」

「……っ」


 俺は走り出す。

 怒るべきなのに、なにも言うことができなかった。


 辛い事実を知った俺はその日から学校以外は家に籠るようになる。

 テニス部にも行かなくなり、日々をインドアに過ごした。


 部活に出なくなった理由を伊織に尋ねられたことがある。

 伊織と星村先輩が仲良さそうにしているのを見るのが辛いなんて、そんな格好悪いことを言えるわけがない。


 だから体調が悪いと言って適当に誤魔化していた。


 そもそも伊織がテニス部に入ったから俺もテニスを始めたのだ。

 伊織ともっと仲良くなるために始めたテニスなのだから、こうなってしまったら続ける理由も無い。


 明日、学校に行ったら退部届を出そう。


 そんなにうまくもないし、もう続ける意味も無い。

 伊織には止められるかもしれないが、強くは言ってこないだろう。


 そう決めたら少しだけ気が楽になり、俺はラノベでも読もうと本棚を眺める。


「買うだけ買って読んでないのがたくさんあるな。どれを……うん?」


 右から左へと人差し指を動かして背表紙のタイトルを見ていると、買った記憶が無いラノベを発見して目が止まる。


「異世界勇者の魔王討伐記?」


 こんなタイトルのラノベ買ったかな?

 ……まあ買ったからここにあるんだろうけど。


 俺の部屋にある俺の本棚だ。

 他の誰かが本を収めるなんてありえない。


「気になったやつは手当たり次第に買ってるからな」


 と、俺はそのラノベを手に取ってベッドへ寝転がる。


「異世界から来た伝説の勇者の血を引く主人公の青年が、復活した魔王を討伐に行く話か。なんか普通な感じだな」


 主人公は異世界から召喚された伝説の勇者の末裔である高校生。

 メインヒロインは勇者として育てられた女騎士だ。


 勇者として育てられたメインヒロインのシェラナは、召喚されてきていきなり勇者となった主人公の清正と最初は反目し合うが、ともに困難を乗り越えるうちに少しずつ仲良くなっていく。


「この2人はたぶん結ばれる感じなんだろうな」


 中盤まで読み進めてそんな雰囲気を感じ取る。


 しかしそうなると気の毒なのがもうひとりのヒロインだ。


 途中で仲間になるアーウィナ。

 黒髪ツインテールのロリ巨乳美少女魔法使いの少女で、主人公に恋心を寄せるが、その想いを伝えられないでいる。


 この子は所謂、負けヒロインだ。

 メインヒロインの当て馬としてのキャラだが、俺はメインヒロインのシェラナよりもサブヒロインのアーウィナのほうが好きだった。


「アーウィナにはしあわせになってほしいな」


 主人公よりも良い男と結ばれたらいいな。


 そんなことを考えながらラノベを読み進めた。


 ……展開は予想通りで、主人公の清正が魔王を倒してメインヒロインのシェラナと結ばれた。抱き合う2人を遠目から眺めつつ涙を流すアーウィナの挿絵を見て、俺もなんとなく悲しくなってきてしまう。


「俺が主人公だったら絶対にアーウィナを選んでしあわせにするのに……」


 このラノベは今のところ続巻が無いらしく、アーウィナのその後はわからない。願わくばしあわせなその後を送っていてもらいたいものだけど……。


「って、ラノベの登場人物に感情移入し過ぎだな」


 架空の人物のしあわせを願うなんて馬鹿馬鹿しい。

 好きな人を他の人に取られてしまったアーウィナの境遇が今の自分に少し似ていたので、気持ちを寄せ過ぎてしまったようだ。


「……寝るか」


 少し気持ちを落ち込ませながら、俺はそのままベッドで眠りについた。


 ……


「……ん?」


 耳に入れていたイヤホンから目覚ましの音が鳴り、俺は薄っすらと目を開く。


「もう朝か」


 じゃあ学校へ行く準備をするかな……うん?


 むにゅ。


「えっ?」


 布団の中で右手がなにか柔らかいものを掴む。


 人肌に温かいなにか。

 俺はそれが人間だと察した。


「だ、誰だ……?」


 まさか泥棒?

 けど泥棒がなんで俺と一緒の布団で寝ているんだ?


 恐る恐る、ゆっくりと俺は布団を捲る。と……。


「な……っ!?」


 そこにいたのは黒髪ツインテールのおっぱいが大きな女の子だった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 50話くらいまで毎日、投稿をいたします。


 このお話にはロリ巨乳。

 そして寝取られざまぁな展開があります。


 ハッピーエンドを予定していますので、そういったお話が好きな方はぜひぜひフォローをお願いします。感想もいただけたら嬉しいです。


 次回はラノベから来たと言う女の子の不思議な力にびっくり。

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