第3話 転移魔法で学校へ

 ……なにがなんだかわからない。


 俺はさっきまで家の玄関にいた。それなのに今は学校の校門前にいる。つまり一瞬で家からここまで移動をしてきたことになるのだが……。


「まさか本当に魔法……」


 そんな馬鹿な。ありえない。


 しかし瞬間移動をしたのは事実であった。


「お、お前どこから現れたんだ?」

「えっ? あ……」


 クラスメイトの男子が不思議そうな表情で俺を見下ろす。


「なんかいきなり目の前に現れたように見えたんだけど……」

「え、えっと……き、気のせいだよ。人間が急に現れるなんてあるはずないだろ? きっと少し寝惚けていたんだって」

「そ、そうか? ……そうだな。見間違いか」


 やや納得いかなそうな表情でクラスメイトは校門を通って行く。

 しかし実際に瞬間移動した俺は納得できない。これは一体どういうことなのか?


 ……考えてもしかたない。帰ってあの女の子に聞くしかないだろう。


 立ち上がった俺は周囲の怪訝そうな目を無視して、校舎へと向かった。



 ……



 授業を受けながらも、内容は頭に入って来ず、考えるのはあの不思議な女の子のことばかりだ。


 かわいい子。しかし不思議な子

 ラノベの世界からやって来たとか言っていたけど、まさか本当に……。


 いやまさかありえない。


 そんな馬鹿なと思いつつも、俺を瞬間移動させた事実もある。


 もしかして今って夢なんじゃ……。


 そう思って頬を摘まんで引っ張るも、確かな痛みがあった。



 ……



 学校が終わるとすぐに俺は帰路に着く。

 朝の出来事が衝撃的過ぎて、テニス部を退部することなど忘れていた。


「た、ただいま……」


 玄関の扉を開けて中へと入る。


 瞬間移動したのはなにかの間違いで、あんな不思議な女の子なんておらず、寝惚けた頭が見せた幻かなにかだったんじゃないか?


 そんな思いで家の中へ入って行く。


「お帰りなさいっ!」

「わあっ!?」


 今朝の女の子に出迎えられ、思わず悲鳴に似た声を上げてしまう。


「どうしました? そんなに驚いて……」

「いやまあ……ね」


 やっぱり女の子は存在した。

 幻でもなんでもなかったようである。


「あの……朝のことだけどさ、俺って本当に瞬間移動したの?」

「瞬間移動? 転移魔法のことですか?」

「そ、そうそれ」

「はい。わたしの魔法で満明さんを目的地へ送って差し上げました」

「や、やっぱりそうなんだ……」


 この子は不思議な力……魔法が使える。

 あのラノベの登場人物アーウィナみたいに……。


 そういえばこの子の見た目はアーウィナにそっくりだった。


「君の名前は……」

「アーウィナですよ」

「ア、アーウィナ。えっ? 本当に?」

「アーウィナですよ?」


 きょとんとした表情で女の子は答える。


 確かに服装はラノベの挿絵とかで見たアーウィナのものだ。

 しかしまさかラノベの登場人物が現実に現れるなんて信じられない……。


 ぐー


 と、そのときかわいらしい音が女の子のお腹から鳴る。


「あ、す、すいませんっ!」

「あ、いや、その、なにも食べてないの?」

「は、はい。こっちへ来てからはなにも……」


 ということは少なくとも朝からか。それじゃあお腹が空くはずだ。


「じゃあそこのコンビニで夕飯を買って来るよ。なにか食べたいものある?」

「よろしいのですか? けどコンビニってなんでしょうか?」

「えっ? コ、コンビニはその……食べ物とか売ってる場所かな」


 コンビニを知らないなんてあり得るのか?

 ……まあラノベの世界から来たって言うならそうなるだろうけど。


「そうなんですね。わたしはなんでも大丈夫です。ありがとうございます。ではそのコンビニというお店まで転移魔法で……」

「い、いや大丈夫っ! すぐそこだからっ!」


 あれを使われたらまた変に注目されてしまうし。


「そうですか?」

「うん。じゃあ行って来るよ」


 と、俺は家を出て近所のコンビニへ向かう。

 コンビニ着いて中へ入り、適当に弁当を2つ選んで取ると……。


「あ、満明」

「えっ?」


 声をかけられて振り返る。

 そこには伊織……と、テニス部部長の星村先輩が立っていた。


「あ、伊織……それと星村先輩」

「買い物?」

「うん」


 そういえばテスト前で部活は休みだったか。

 2人がここにいても不思議はないことであった。


「生馬、お前最近、部活に来てないじゃないか。どうしたんだ?」

「あ、いやその……身体の具合が少し良くなくて……。学校の成績も落ちてるので、勉強のほうもがんばろうかと……」

「そうか。まあ無理はするな」

「はい……」


 部活に行かなくなったのはあなたが原因ですとは言えない。


 伊織を俺から奪った憎むべき相手。

 しかし先輩には違いないし、喧嘩を売る度胸もない。


 できることならテニスで勝って、悔しがらせてやりたい。

 しかし星村先輩は全国大会に出場できるほどにテニスがうまい。地区大会の1回戦で負ける程度の俺では勝てるはずがなかった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 現状は凡庸も凡庸な満明君。

 最強の魔法使いであるアーウィナが彼をどう変えていくのか……?


 ☆、フォロー応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回、始まるアーウィナとの生活

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