第6話 魔法で勉強が捗りまくる

「い、伊織……」


 どうして伊織が?

 別れてから一度も来たことなんてなかったのに……。


「ど、どうしたんだ? なにか用でも……?」

「料理を教えてもらえないなら、夕飯をご馳走になろうと思ってね。いいでしょ?」

「い、いやあのその……」


 まさかここまで図々しいとは。

 浮気して俺と別れたことなど本当になんとも思っていないようだった。


「ゆ、夕飯にはまだ早いんじゃないか?」


 いろいろと言いたいことはある。

 しかし今はとにかく帰ってもらうことを考えた。


「けど夕飯の準備とかするでしょ? 教えてもらえなくても、そういうのを見せてもらって覚えようかと思ってさ」

「いや、だからさ……」


 思ったよりしつこい。

 なんとか帰ってもらう方法は……。


「うん?」


 不意に伊織の表情がきょとんとしたものへと変わる。

 なにかびっくりしたような、そんな顔をしていた。


「あれ? どうしてわたし、満明の家に来たんだろう?」

「ど、どうしてって……?」

「あれー? なんでだろう? うーん……まあいいや。じゃあね」


 そう言って伊織は帰って行く。


 俺のほうもきょとんとした気持ちでその後ろ姿を見送った。


「これでよかったですか?」

「えっ?」


 玄関の扉を閉めて振り返ると、微笑むアーウィナの顔が見えた。


「なにか帰っていただきたいお客様だったようなので、記憶を消す魔法を使って帰っていただいたのです。すいません。勝手なことをしてしまって……」

「あ、いや、大丈夫、助かったけど……」


 アーウィナの魔法……。

 瞬間移動と言い、今度は記憶を消す魔法だ。やはり彼女がラノベから出てきたという話は信じるしかないようだった。



 ……



 夕食を終え、俺は自室へ行って机に向かう。


 もうすぐてテストだ。

 勉強をしなければと、俺は机に向かっていた。


 俺は成績が良くない。

 自分を馬鹿とは思わないが、どうにも集中力に欠けている。そのせいかこうして机に向かって教科書を開いていても、いまいち内容が入って来ずいつもテストの点が芳しくないのだ。


「あーだめだだめだっ! 集中しろ俺っ!」


 しかし最近は伊織やアーウィナのことなど考えることが多く、いつにも増して集中ができない。これは次のテストも残念な結果になりそうだった。


 トントン


「あ、はい」


 ノックに返事をすると、お茶を乗せたお盆を持ったアーウィナが部屋へと入って来る。


「失礼します。満明さん。お茶をお持ちしました」

「あ、ありがとう」


 机に置かれたお茶を飲んで、一息つく。


「お勉強のほうはどうですか?」

「いやぁ、なかなかはかどらなくて……」


 苦笑いしつつ俺は答える。


「そうですか……。あ、じゃあ」

「えっ?」


 アーウィナが何事かを呟く。と、


「うん? あれ?」


 なにやら頭がすっきりしたような、そんな感覚に支配される。


「少しでもお助けできればと、物事に集中できる魔法をかけました。これでお勉強も捗ると思いますよ」

「う、うん」


 そう言われて机に向かい直す。


 いつもとまったく違う。

 他のことはなにも考えず、頭が完全に勉強一色となっている。内容がおもしろいほど頭へ入ってきて、異常なまでに勉強が捗った。


「ふふ、がんばってくださいね」


 アーウィナが部屋を出て行ったような気がする。

 しかしそれにも気付かず、俺は勉強に没頭していた。



 ……



 それから数日が経ってテストも終わる。

 廊下に貼り出されたテストの順位を見上げて、俺は目を見開いていた。


「お、俺が学年7位……?」


 いつもは3桁順位の俺が学年7位。

 その結果に自分自身のことながら驚き、貼り出された結果の前で放心していた。


「お、おおっ! 生馬すげーなお前っ!」


 一緒に結果を見ていたクラスメイトが俺の肩を叩く。


「お前いつも3桁順位なのにどうしたんだよ?」

「はは、今回はちょっとがんばっただけで……」

「生馬君って頭良かったんだー」

「すごーい」


 他のクラスメイトも俺を凄いと褒めてくれる。


 こんなことは初めてで、かなり嬉しかった。


「み、満明、あんた7位って……」

「あ……」


 隣で伊織が驚きの表情で俺を見ていた。


「な、なにがあったの?」

「いや、普通にがんばって勉強しただけだけど……」

「嘘。だって昔からずっとわたしより成績下だったのにこんないきなり……」


 伊織の順位は56位だ。

 昔から俺より学校の成績は良く、いきなり大きく抜かれたら信じられないのもしかたないだろうと思う。


「俺だってやればできるんだよ」

「そ、そう。そう、なんだ……」


 なにやら複雑そうな表情をする伊織。


 その心中は察することができなかった。


 ――――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 アーウィナの魔法で集中力もテストの順位も爆上がり。

 真の実力を発揮し始めた満明に、伊織の心はもやもやと……。


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 よろしくお願いいたします。


 次回は魔法を使ってテニスの特訓、

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