第5話 満明の弁当が気になる元カノ
学校から帰って来た俺はアーウィナを連れて近所のスーパーへと行く。
スーパーへ買い物には訪れることはあるが、野菜売り場や肉売り場のほうへ来ることはほとんどなかった。
「料理はしたことあるの?」
「はい。子供のころは実家でよく料理をしていました」
「そ、そう」
ラノベでは大国の魔法省で働いているところで、勇者たちと出会うんだったか。なのでそれ以前のアーウィナがどうしていたかはわからないわけで……。
って、彼女がラノベ世界からやって来た本物のアーウィナって信じちゃってるな俺。いや、この子が嘘を言ってるなんて思ってもいないんだけど……。
「うん?」
なにか周囲がこちらに注目しているような気がする
と、そこで俺は気付く。
アーウィナの格好が他とくらべて異質なことに。
普通に外へと連れ出してしまったが、アーウィナの格好はまるでコスプレだ。目立ってしまうのも当然であった。
「どうかしましたか?」
「あ、いやその……買い物が終わったらアーウィナの服を買いに行こうか」
「わたしのですか?」
「目立つからね」
周囲からの視線にようやく気付いたらしく、俺がなぜ服を買いに行こうと言ったのかわかったようだった。
……
買い物を終えた俺たちはスーパーの近くにある安価が売りの服屋へとやって来る。
しかし俺はどちらかと言えば陰キャだ。
女の子が着るような服のことはさっぱりだった。
「気に入ったのを適当に選んでいいよ」
俺ではわからないのでそう言うしかない。
全部で3万円くらいなら大丈夫だ。
とはいえ、学生の俺には痛い出費ではあるが……。
「いいんですか? 買ってもらうのは悪いような……」
「服がそれしかないのは困るだろうし、外に出ると目立っちゃうからね。大丈夫。貯金はそれなりにあるし、生活費も親から少し多めにもらってるから」
「そ、そうですか? じゃあ……」
申し訳なさそうな表情のアーウィナと一緒に売り場を歩く。
「変わったお洋服ばかりですね」
「ま、まあ君からすればそうかもね」
アーウィナの着ている服はラノベのヒロインらしく胸元が開いた大胆なものだ。そういう服にくらべればここで売っているような服は変わっているかもしれない。
何点かの服をカゴへと入れてもらって、試着室へと連れて行く。
俺にはもちろんアーウィナのサイズはわからないし、彼女もわからないと言うので、試着をしてもらうしかなかった。
アーウィナが試着室に入ってしばらくして……。
「こ、これは少しきついかもです」
「あ、小さかった?」
「小さいと言うかなんと言うか……」
試着室を開けてアーウィナが姿を見せる。
見えたのは胸が大き過ぎて丈が足りなくなり、へそが丸見えになっているアーウィナの姿であった。
「あの、首は通るんですけど、ちょっと短いみたいで……」
「そ、そそそそうみたいだねっ」
低く屈めば下乳が覗けそうな刺激的なその姿を直視できず、俺は目線を逸らしながら答えた。
「も、もう少し大きいのを取ってくるねっ」
そのまま俺は売り場へとサイズの大きな服を探しに戻った。
……
いろいろあったが、ともかく無事に買い物を終えることができた。
家へと帰って来た俺は、買い物袋を台所へと置いて一息つく。
「じゃあさっそく晩御飯の用意をしましょうか」
「こっちの世界の食材しかないけど、料理はできそう?」
「はい。向こうにあるものと一緒ですから」
「そうなんだ」
確かにラノベを読んでいて特殊な食べ物とかは出てこなかったような気がする。カレーとか野菜炒めとか、そんな普通の食べ物ばかりだった。
「じゃあ今日はカレーにしましょうか?」
「あ、そうだね」
ラノベ世界のカレー……ということになるのだろうか。
アーウィナが本当にラノベ世界の住人ならば。
コンロや電子レンジなど、キッチンにあるものの使い方を教えると、アーウィナはさっそく調理を始めた。
……やがてカレーが完成し、出されたそれを俺は食べる。
「んっ」
「どうでしょうか?」
「うまい……」
スパイスから作ると言うのでどうなるものかと少し不安だったが、出来上がって食べてみればおいしいなんてレベルじゃない。極上の美味であった。
「こ、こんなにおいしいカレーを食べたのは初めてだよ」
「よかったっ! 嬉しいですっ!」
やや不安そうだったアーウィナの顔が、パッと輝くように笑顔となる。
その表情はあまりにかわいらしく、カレーのおいしさを忘れてしまうほど俺は彼女に見惚れてしまった。
……
次の日はアーウィナが早く起きて朝食を作ってくれた。
それも昨夜のカレーと同じく美味で、俺はあっという間に平らげてしまう。
「あ、満明さんこれ」
「えっ? あ……」
アーウィナが俺に渡してきたのは弁当箱だ。
「お弁当を作りましたのでお昼に食べてくださいね」
「う、うん」
こうして弁当をもらうのは伊織がまだ俺の家に来てくれていたとき以来か。
ずっしり重い弁当を鞄に入れた俺は、アーウィナに見送られながら家を出た。
……
……そして昼となり、俺は朝にもらった弁当箱を鞄から出してを机に置く。
「お」
蓋を取ると色とりどりの料理が見えて、思わず顔が綻んでしまう。
朝食もおいしかったが、弁当もおいしそうだ。
「あれ?」
と、そこへ伊織がやってきて俺の弁当を覗く。
「あ、伊織……」
「そのお弁当って満明が……作ったの?」
「えっ? あーえっと……そう」
ラノベから出て来たと言う女の子が作ってくれたとは言えない。
なので自分で作ったというしかなかった。
「へー料理なんてできたんだ?」
「ま、まあ……うん」
「どれ」
「あっ」
伊織は弁当箱から卵焼きを摘まんで口へと放り込む。
「んっ」
そして目を見開いた。
「お、おいしいっ! これ本当に満明が作ったのっ!?」
「そ、そうだけど……」
「こんなおいしい卵焼き初めて食べたんだけど……。ほ、他のも……」
「だ、ダメだよ。俺の食べる分がなくなるだろ」
別の料理も摘まもうとする伊織から弁当箱を遠ざける。
「いいじゃないっ! ちょっとくらいさっ!」
「ダ、ダメだって」
これはアーウィナが俺のために作ってくれた弁当だ。
他の誰かに食べさせてしまうのは悪いと思えた。
「ふん。もういいよ。あ、じゃあさ、わたしに料理教えてよ」
「えっ? いやいやダメダメっ!」
反射的に俺は伊織の頼みを拒否する。
俺が料理できるなんてのは嘘だ。つまり料理を教えるとはアーウィナに会わせるということで、それはダメだと咄嗟に思って断った。
アーウィナが何者か聞かれたら答えようがない。
最悪、俺の両親に話をされて面倒なことになりかないし……。
「なんで? わたしさ、料理上手くなって星村先輩に喜んでもらいたいの。だから教えてよ。いいでしょ?」
「いやその……うちの味付けは一子相伝だから……」
「は? なにそれ?」
「な、なんだろうね。ははは……」
俺も自分で言っていて無理があると思う。
「もういいっ! わたしにいじわるしてるんだっ! わたしが星村先輩と付き合い始めたからってっ!」
「い、いやそういわけじゃ……」
「満明って人間が小さいねっ!」
そう言い捨てて伊織が背を向けて去って行く。
しかしあんなことがあったのによく平気で話し掛けてこれるなと呆れる。
あの様子だと、どうやらなんとも思っていないようだ。
……
学校が終わり、俺はアーウィナに言われた食材を買って家へと帰る。
今日の晩御飯はなんだろう?
昨夜のカレー、そして朝ご飯にお弁当。
どれも美味で、今夜の晩御飯も楽しみでしかたなかった。
「ただいま……おおっ」
玄関から中へ入ると、家の中が輝いて見える。
実際に輝いているわけではなく、きれいに掃除がされているのだ。
「おかえりなさい満明さん」
「あ、うん。ただいま。掃除してくれたんだ」
「はい。お掃除は得意ですので」
そう言ってアーウィナはにっこりと微笑む。
「ありがとう。あ、これ、買い物してきたから……」
ピンポン
「うん?」
誰だろう?
来客の予定は無いし、新聞の勧誘かなにかだろうか?
そう思って玄関の扉を開く……と、
「やっ」
「えっ?」
そこにはニコニコ顔の伊織が立っていた。
――――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
伊織は自分が浮気して満明と別れたことをなんとも思っていないようですね……。まあいずれ後悔することになるのですが。
☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
次回はアーウィナの魔法で勉強が捗りまくる満明。
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