第29話 召喚魔法の失敗

「あら美味しいじゃない。アーウィナ、おかわりを寄こしなさい」

「もうありませんよ」


 夕食時。

 なぜかミスティラも一緒にいて夕食を食べていた。


「もうないの? 気が利かないわね。もったくさんと作っておきなさいよ」

「急なお客さんだったので、満明さんとわたしのぶんしかないんです」

「じゃあ明日からはあたしのぶんも作っておいてね」

「あ、明日からって、まさかここに住むつもりなの?」

「もちろん。あんたをわたしのものにするんだから当然でしょ」

「うーん……」


 これは帰れと言っても帰りそうにない。

 アーウィナがいることを知って母さんが食費を増やしてくれたけど、さすがにこれ以上は無理だろう。まあそれでも、ひとり増えたくらいならなんとかなりはするけれど……。


 それから食事を終え、ミスティラは俺たちより早くに寝てしまう。


「すいません満明さん」


 ミスティラが寝て2人きりになると、不意にアーウィナが謝罪を口にする。


「えっ? なんのこと?」

「ミスティラです。どうもわたしのことを追って来たみたいで、満明さんにもご迷惑をおかけしてしまって……」

「あ、いや、別に構わないよ。それにアーウィナのせいでもないし」

「いえでも、やっぱりわたしが原因ですし、なんとか説得して向こうの世界へ帰ってもらうのでご安心ください」

「あ、うん」


 まあ帰ってもらえるならそのほうがいいのだろう。

 しかしアーウィナの言うことを簡単に聞くとも思えなかった。


 やがて時間も遅くなり、俺たちはそれぞれの寝室へ向かう。

 俺は自分の部屋に入ると、ベッドに違和感を感じた。


「な、なんか盛り上がってる……」


 何者かが潜んでいる?

 しかしこの子供みたいな大きさは……。


「ふふ、いらっしゃい」


 掛け布団をめくって現れたのは、やはりミスティラだった。

 なぜかさっきより薄着でそこにおり、扇情的ポーズを取っていた。


「な、なにしてるの?」

「あんたをあたしの虜にしてあげるの。どう? 美し過ぎて見惚れてしまうでしょ? 少しくらいなら触ってもいいけど、見返りにあたしの従者になりなさい」

「あ、その……遠慮します」

「なんでよっ!」

「なんでって……」


 ミスティラに対してまったく女性を感じないというわけでもない。

 しかしだからと言って、簡単に触れたりなどするわけはない。


「もう遅いし、自分の部屋で早く寝たほうがいいよ」

「ふ、ふふん。なるほど。なかなか自制心が強いようね。まあいいわ。次こそはなにがなんでもあたしのものにしてあげるからねっ!」


 そう言ってミスティラは部屋を出て行った。


「たぶん悪い子じゃないんだろうな」


 けど少し面倒くさい子らしかった。



 ―――ミスティラ視点―――



「まったくどうなってるの?」


 前の男はさっきのであたしのものになったのに、あの男は無理だった。

 さすがはそれなりに優秀な男ということか。


「色仕掛けがダメなら、脅してでもあたしものにしてあげるわ」


 あたしは次の方法を実行するため、召喚の書を読み込んだ。



 ―――生島満明視点―――



 朝、起きて居間に行く。


「ミスティラはまだ起きてないのかな?」


 居間に姿は無い。

 台所にはアーウィナしかおらず、他の部屋にもいなかった。


「まだ寝ているのでしょうね」

「そっか」


 まあそのうち起きてくるだろう。


「あら?」


 と、アーウィナが冷蔵庫を開いて声を上げる。


「どうしたの?」

「昨日、卵を買ってくるのを忘れてしまったみたいで……」

「ああ、それじゃあ俺が今から急いで買って来るよ」

「すいません満明さん」

「いや、一緒に買い物した俺も忘れてたし」


 財布を持って玄関へ向かう。……と、


「あたしも一緒に行くわ」

「あ、ミスティラ。いや、大丈夫だよ。俺ひとりでも」

「あたしも行くの。別にいいでしょ?」

「まあ、ついて来たいなら構わないけど」


 お菓子でも買ってもらいたいんだろうか?

 いや、幼い子供じゃないんだし……。


「お菓子も買いなさい」

「あ、うん」


 やっぱりお菓子が目的だったらしい。


 ミスティラを連れて外へと出る。

 それから近所のコンビニへ向かって歩いていると、


「ふふん。引っ掛かったわね」

「えっ?」

「色仕掛けが通用しないなら、脅してでもあんたをあたしのもにしてあげるんだからっ!」


 そう言ってミスティラはなにやら呪文を呟く。すると、


「うわあっ!?」


 目の前に巨大な黒いオーガが現れる。

 これは以前にアーウィナの修業魔法で見たオーガより大きかった。


「さあ、こいつに殺されたくなかったらあたしのものなりなさいっ! もうあたしのものになるしかないわねっ! 死にたくないんだったらっ!」

「いや、その……」

「なに? あたしのものになるの? だったらこのオーガは消してあげる」

「いや……そのオーガ、なんか君のことを見てるけど……」

「えっ?」


 オーガはミスティラをじっと見下ろしている。

 そして拳を上げ、


「きゃあっ!?」


 ミスティラへ振るう。

 咄嗟に避けるも、転倒して尻もちをつく。


「な、なんで、召喚したあたしを攻撃するのよっ!」


 一体どういうことなのかはわからない。

 わかっていることは、ミスティラが危険な目に遭っているということだけだった。


 オーガはふたたびミスティラへ攻撃しようとする。


「こ、来ないでっ! きゃ……」


 俺は駆け出し。ミスティラを抱き上げて逃げ出す。


「あ、あんた……」

「とにかく逃げないとっ!」


 急いで逃げる。

 しかし身体が大きい分、オーガのほうが早い。


 あっという間に追いつかれ、もうダメだと思ったとき、


「ぐぎゃああああっ!!!」


 オーガの身体が一瞬にして燃え上がる。

 そして瞬く間に焼失をした。


「あぶないところでしたね」

「あ、アーウィナ」


 どうやらアーウィナが魔法で討伐してくれたようだ。


「ミスティラ、あなた召喚魔法に失敗しましたね」

「そ、そんなこと……」

「そもそもあなたにはブラックオーガを従えるだけの実力は無いでしょう。まだまだ未熟ですねミスティラ」

「むうう……」


 俺の腕の中でミスティラは頬を膨らませる。


 しかし同じ魔法使いでもずいぶんと実力に差があるように思う。

 魔法学校で主席を争ったと言うが、本当なのだろうか?


「さ、さすがはあたしと主席を争ったアーウィナね。今回は負けにしといてあげる」

「あなたは主席どころか、ぎりぎりで卒業だったでしょ。この様子では、その後も修業を怠っていたようですね」


 どうやら主席を争ったは大言壮語のようだった。


「しゅ、主席を目指したのは事実だしっ! ふんっ! と、とにかく今回はあたしの負け。あんたにも悪いことしたわね。殺す気なんてなかったの。ただ脅してあんたをあたしのものにしたかっただけで……」

「う、うん」


 それはなんとなくわかってた。

 危険な魔法を使えるとは言っても、無闇に人を殺すような子には見えないし。


「あと……その、ありがとう」

「えっ?」

「助けてくれて」

「う、うん」


 頬を赤らめて礼を言うミスティラ。


 かわいらしくて素直なところもあるようだった。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 ライバルを自称しつつ、実は落第ギリギリの魔法使いだったようですね。

 このあとは卵とお菓子を買って帰りました。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回はアーウィナの誕生日にプレゼントをしたい満明だが……。

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