第20話 一緒に学校へ行くアーウィナ

「じゃあ学校に行って来るね」


 そう言って俺が家の中へ呼びかけると、


「あ、待ってくださいっ! わたしも行きますっ!」

「えっ?」


 玄関に現れたアーウィナの姿に俺は目を見開く。

 なぜか俺の高校の制服を着ていたのだ。


「そ、その恰好は……?」

「はい。わたしも学校へ行きます」


 どこで調達したのか、アーウィナは制服姿でニッコリ笑う。


「け、けど、制服があっても生徒じゃない人は学校に入れないよ」

「大丈夫です。魔法でなんとかしますから」


 確かにアーウィナの魔法ならなんとかできそうだが。


「でもどうして急に学校へ行きたくなったの?」

「あの伊織さんって人です。満明さんを叩くなんて、あんなにあぶない女性がいる場所へ満明さんを行かせるのは不安です。だからわたしも一緒に行きます」

「いや、大丈夫だと思うけど……」


 叩かれても別に痛くはないし、伊織も大勢がいる場所で暴力を振るったりしないだろう。


「行きますっ」

「わ、わかったよ」


 強い意志を感じ、しかたなく連れて行くことに。


「はい。じゃあ行きましょう」

「うん。わっ!?」


 アーウィナが俺の腕へと抱きつく。


 こんな状態で学校へ行くのか。

 なんだかすごい目立ちそうであった。


 ……思った通り、すごく目立つ。

 道行く人は誰しもが俺たちに注目していた。


「ア、アーウィナ、あんまりくっつくと目立つから……」

「いいじゃないですか。なにも困ることはありませんよ」

「そ、それはそうかもだけど……」


 まったく知らない人に見られるならともかく、同じ学校の生徒に見られると恥ずかしい。しかし嬉しそうに抱きついているアーウィナに離れろと強く言うこともできなかった。


「じゃあ魔法を使いますね」

「えっ? なんの?」


 学校が近づくと、アーウィナがなにかの呪文を呟く。


「学校にいる人の認識を変える魔法です。これを使うことで、皆さんはわたしをここの学生だと思い込むようになります」

「そうなんだ」


 魔法って便利だなぁ。


「けど、教室の席が無いんじゃないかな?」

「大丈夫です。満明さんのクラスの先生にも魔法がかけてありますので、教室にはわたしの席も用意してもらいます」

「そ、そうなんだ」


 魔法って便利過ぎるなぁ。


 さすがは魔王討伐のパーティにいた魔法使いである。


 教室へ入ると本当に机がひとつ増えており、アーウィナは俺の隣だった。


「これでずっと一緒ですね」

「うん」


 アーウィナと学校でも一緒に過ごせる。

 それはすごく嬉しいことだった。


 実際、アーウィナは休み時間も俺と一緒におり、離れることはなかった。


「あの2人っていつもイチャイチャしてるな」

「て言うか、いつから付き合ってたんだ?」

「アーウィナさんめちゃくちゃ美人だし羨ましい……」


 学校でも俺たちは注目の的だ。

 少し恥ずかしいが、アーウィナと常に一緒なのは嬉しい。


 ……アーウィナとの楽しい学校生活もすぐに下校時間となる。


 結局、伊織はなにもしてこなかった。たびたび睨んではきたが、昨日のようにアーウィナに突っかかることはなく無事に学校を終えることができた。


「それじゃあ帰ろうかアーウィナ」

「はい」


 ホッとしつつ、俺は帰り支度をしてアーウィナとともに昇降口へ向かう。と、


「アーウィナさん」


 そこへ星村先輩が声をかけてくる。


「はい? なんでしょうか?」


 部活の後輩の俺ではなくアーウィナに声をかけてきた。

 なんの用だろうと俺も気になった。


「少し時間はあるかな? 2人きりで話をしたいんだけど」

「お話ならここでお願いします」


 一瞬も考えることなくアーウィナはそう答える。


「いや、ここではちょっと……」

「ならお話はできませんね」


 そう言ってアーウィナは俺の腕を引いて昇降口から出て行こうとする。


「い、いやその……お、俺と付き合わないか?」

「えっ?」


 突然にそんなことを言い出した星村先輩を前に、俺もアーウィナもきょとんとしてしまう。


「生島よりも俺のほうがいい。生島じゃ君とはつり合わないよ。君はすごく素敵だし、もっと良い男と付き合うべきだ。絶対」


 なんかすごく失礼なことを言われている。

 と言うか、星村先輩は最初から俺なんて眼中に無い様子だった。


「俺と付き合ったほうがいいって。君のような美しい女性は生島なんかと付き合うべきじゃ……」

「お話はもう結構です」

「えっ?」

「わたしの大切な人を侮辱するのはやめてください。それ以上は怒りますよ」

「いやけど……」

「行きましょう満明さん」

「あ、うん」


 絶句した表情の星村先輩を残して俺たちは昇降口を出て行く。


 チラとうしろを振り返ると、恨みがましそうな表情で星村先輩が俺たちを見ていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 アーウィナを本気で怒らせたら学校ごと吹き飛ばしてしまうかも……。吹き飛ばすのは星村先輩だけにしてほしいですねぇ。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は星村先輩の罠。

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