第24話 元魔王軍幹部ギアナの根城へ

「うわぁっ!?」


 移動先の足元にはなんの感触も無い。

 ここは空中だ。落ちると思った俺だが、そうはならなかった。


「と、飛んでる……」


 俺の身体は宙に浮かんでいた。


「飛行の魔法をかけているので大丈夫ですよ」

「う、うん」


 アーウィナの魔法があるので落ちることは無い。

 しかしやはり高所で浮いているのは怖かった。


「あ、あれが……」


 それはそうと、俺は目の前に浮かぶ城を見上げる。


 まるで有名なアニメ映画に出て来る天空の城だ。

 明確に違うところがあるとすれば、禍々しい雰囲気を纏っていることだろうか。


「あの城には結界が張ってあるので、転移魔法で中に入ることはできません。なので外から入って、ギアナのいる場所まで行くしかありませんね」

「う、うん」


 確かラノベでもそうだった気がする。


「ではまずは結界を……むっ」

「えっ? うわっ!?」


 いつの間にか周囲に魔物らしき生き物が飛んでいた。

 背中に翼を生やした、頭が鳥の人型生物だ。


「ふん。わたしを相手にこの程度の魔物を出してくるなんて、侮られたものです。それっ!」

「わっ!?」


 瞬間、アーウィナの周囲に炎の球体が浮かぶ。

 宙を舞う球体が飛び交い、一瞬で魔物を殲滅してしまった。


「わ、わぁ……」


 ラノベでも魔物をあっさり倒すアーウィナのことは書かれていた。

 しかしこうして実際に見ると、その強さが実感できた。


「さあ行きましょう。結界はわたしが破りますので」

「う、うん」


 結界もあっさり破って空中城の中へと入る。


 中は豪奢な様子だが、外見と同じく禍々しい雰囲気だ。

 そして当然、魔物もわらわらいた。


「奥に強い魔力を感じます。ギアナは奥ですね」


 そう言ってアーウィナは魔物を瞬殺しながら先へ進む。


 やっぱり俺は来なくてもよかったのでは……。

 まあ、杖が簡単に取り戻せるならそれはそれでいいか。


 俺はクロイツを腕に抱えながらアーウィナのあとをついて行く。

 やがて城の奥へと到着する。


「こ、ここにギアナが……」


 いかにもボスのいそうな扉が目の前にあった。


「はい。では行きますよ」

「うん。あれ?」


 いつの間にかクロイツが俺の腕から消えていた。


「アーウィナ、クロイツがいなくなってる」

「大丈夫です。これも作戦ですから」

「そうなの?」


 作戦ってなんだろう?


 あのぐうたらな猫を使ってなにをするのか?

 さっぱりわからなかった。


 アーウィナが扉を開いて中へと入る。

 それに続いて俺も中へ……。


「あ……」


 奥の玉座に誰かが足を組んで座っている。

 一見すると白いドレスを纏ったお姫様にも見えるが……。


「ギアナっ!」


 アーウィナがそう叫ぶと、玉座に座っている金髪の女がニヤリと笑う。


「ひひっ、ひさしぶりだねぇアーウィナさん。けっけっけっ」


 魔王軍幹部で魔人の魔法使いギアナ。

 外見は美しく優し気にも見えるが、大勢を魔法で殺した極悪人だ。


「わたしの家から盗んだ杖を返しなさい」

「返すわけないよ。こんないいもの」


 ギアナの手には1本の杖が握られている。

 あれが勇者からもらったというアーウィナの……。


「なら、もう一度、死ぬことになりますよ?」

「けっけ、この杖を持つあたしを前にしてそんなこと言えるとはねぇ」

「……っ」


 アーウィナは難しい表情でギアナを睨む。


 ラノベだとアーウィナは1対1でギアナを倒している。

 魔法が強くなるわけでもないあの杖を手にしているからと言って、ギアナが有利になることなど無いと思うのだが。


「さあて、それじゃあこの杖を……」


 そのとき、ギアナの背後にある燭台がグニャリと歪む。

 そして猫の形になったと思うと……。


 クロイツ?


 燭台がクロイツへ変わる。

 そしてギアナの持つ杖へ飛び掛かるが、


「ふふん」

「あっ!」


 杖を持つ手に避けられてしまう。


「くっ」

「こんな手にかかると思われていたなんて……侮られたものだねっ!」

「んにゃっ!?」


 蹴られたクロイツが足元へ転がり、俺は慌てて抱き上げる。


「それじゃあこの杖を使わせてもらうよっ!」


 ギアナの声とともに杖の先端が光る。


 なんらかの攻撃が?


 俺は身構えた。……が、


「うん?」


 しかしなにも起こらない。

 攻撃らしい衝撃はなにもこなかった。


「ふ、不発……?」


 俺はそう思ったが……。


「アーウィナ?」


 アーウィナの表情は明らかに焦っていた。


 ――――――――――――


 お読みいただきありがとうございます。


 アーウィナの考えていた作戦が失敗。

 杖には強力な効果があるらしく、これはピンチの予感ですね。


 ☆、フォロー、応援、感想をいただけたら嬉しいです。

 よろしくお願いいたします。


 次回は杖の効果に大ピンチ……。

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