3.異世界の街は初めて入るので——。
馬車に揺られながら街道を進んでいると。
カールさん達の目指す街[ドレスラード]が見えてきた。
道中教えて貰った事だが、今いる場所の国の名前が[アガーレムヴ王国]。
[アガーレムヴ王国]には王都の他に11の大きな街があり、それぞれ11家の貴族が治める。
他にも街があり貴族が治めているが、国を代表する街が王都+11の街との事だ。
[ドレスラード]はそのうちの1つであり、代々風の属性を持つ貴族が治める街だという。
遠目からでも分かる石壁が街をぐるっと取り囲んでおり、周りには広大な畑が広がっていた。
そのまま街道を進み、街の入り口の前までやってきた。
石壁を見上げる。
高さは15メートル程だろうか……。適当に数字を思い浮かべただけなので当たっているかはわからん。
そんな事を考えていると、門の前には鎧を着た人間が4人居り出入りしている人をチェックしていた。
どうやら冒険者、商人、その他、で列が分かれているらしく、俺達は商人の列に並び順番を待った。
これまた街道の途中で教えてもらっていた事だが、街に住む人は全員この水晶に自分の魔力の波長を登録する決まりとなっている。
魔力の波長とは簡単に言えば指紋の様な物で、一人一人違う物でどんな手段を使っても変える事や消すことが出来ないという。
他の街とも魔法で同期しており、指名手配されている者は赤く。
過去に犯罪を犯し釈放された者は黄。そういった過去が無い者は青。
青の場合はそのまま通ることが出来。
黄色の場合は街に来た目的や過去の罪状を調べた上で入れるかどうかを決める。
赤の場合は色の強弱があるらしく、指名手配の内容で度合いが変わるという。
本人が知らぬうちに手配されている場合もある為、色の強弱で待機している兵が捕獲し、牢屋に一旦ぶち込んでから調べるという。因みに、一番赤く光ると問答無用で処される。
もっとも一番赤く光るのは有名な指名手配犯位なので、そんな奴が素直に正面から来る事は無い為、一番赤く光ることは数える程しかないらしい。
10分程待って俺達の番になった。
カールさんから順番に手をかざしていき青く輝いていた。
この世界に来たばかりなので赤や黄にはならないだろう。
5人の真似をして俺も手をかざすと。
白く輝きだした。
カールさん達5人と門番が驚いていた。
「「「「「ま、街にも入ったことが無いのか……」」」」」
カールさん達5人がなぜかハモってそう呟いたので、笑ってその場を誤魔化した。
「ヘヘヘ…」
当然そのまま街に入れるわけもなく……。
俺は別室へと連れていかれた。
カールさん達が事情を門番に説明をしてくれたので水晶へ自分の魔力の波長を登録することになった。
その最中に、俺自身からも登録してない理由を聞かれたので道中考えた設定通り。
山奥で暮らしていたので外界と関わりがなかったと告げると、そう云う事もあるかと納得された。 一定数そう云うやつらが居るのか……。
無事に登録を終えて解放され外に出るとカールさん達が待っていてくれた。
「やっと来たか。
それじゃカールさん、俺達はこれで依頼完了ということで、失礼しますね」
マルコさんが、カールさんにそう告げると依頼完了のサインをもらい自分たちの荷物をまとめ始めた。
「おうソラ、冒険者になるならギルドに登録しろよ!」
「またな」
「ギルドの建物はあの建物だから間違うなよ」
「困ったことが在ったら相談に乗るからな」
「短い間ですがお世話になりました」
そう告げシルバーファングの面々と別れそのままカールさんの店へと向かった。
カールさんのお店は中規模の店で何かの専門店ではなく色々な品を扱っていた。
約束通り着ていた制服と商品を交換することになった。
絹の服上下×2と革の胸当て革の小手に脛当てといった安価な防具に、木製の盾に魔物の革を貼った盾。
武器は片手で扱えるショートソードを選んだ。
選んだ商品を差し引いた分の服の代金も貰えたし、カバンの中に入っていた筆記用具もこの世界にはない物なので、それなりの値段で売れた。
カールさん曰く新米冒険者らしい恰好とのこと。
これ以上の装備を選ぶと今後の生活費も無くなってしまう為この辺が良いだろう。
頑張ってもっといい装備を揃えられるようになろう。そう心に決めた。
「またのお越しをお待ちしております」
礼を述べ、俺はカールさんの店を後にし、冒険者ギルドを目指すことにした。
見た目はファンタジーとかでよくある中世ヨーロッパの様な木造造りの建物だ。
壁に立て掛けている旗には冒険者ギルドのマークである鳥が羽ばたいてる姿が描かれてた。
扉を開け中に入ると、そこには色々な冒険者が居た。
フルプレートの鎧を着ていたり、肌の露出の多い服を着ている人や獣人、エルフ、ドワーフなどまさに異世界ならではの人種があふれていた。
おお~!これぞ異世界!。
そんな事を思いながら、扉の前でその光景を見ていた俺に。
声を掛けてきた人物がいた。
「よお、やっと来たか」
シルバーファングのリーダーマルコさんだ。
俺がカールさんのところで装備を整えてギルドに来ると分かっていたので待っていてくれたとのこと。
初めて会った異世界人が皆良い人過ぎで俺は感動していた。
ちなみに他の三人は家族の元へ帰還の報告に行ったとマルコさんが教えてくれた。
「よし!
じゃあさっそく冒険者の登録をしようじゃないか。
付いてきな」
「はい、ありがとうございます」
俺は素直にマルコさんの後を着いて行き、受付の様なカウンターに向かった。
「ようアイリ。
新人を連れて来たんだが面倒見てやってくれないか?」
受付の所に居る女性にマルコさんが気軽に話しかける。
金髪でロングヘアーの奇麗な女性が居た。
この女性はアイリというらしい。
日本にはいない系統の顔立ちだった。
「あらマルコさん。
珍しいですね新人さんの面倒見るなんて」
「そうだ。
山育ちで生活魔法すら覚えてなかった常識知らずだから色々と教えてやってくれ!」
ハッハッハと笑いながら俺の背中を叩くと、アイリさんに俺の事を託しそのままどこかへ行ってしまった。
「初めまして、ソラといいます。
冒険者に登録したいのですが、試験とかあったりするんですか?」
そう告げるとアイリさんは微笑みながら告げた。
「試験はありませんよ。
登録自体は誰でも出来ますが、いくつか注意事項を守ってもらいギルドや街の不利益になる行動をとらなければ大丈夫ですよ」
おお!ならさっそく登録をしておこう。
「それなら登録します!」
俺は冒険者になる意思があること告げると、アイリさんが説明を始めた。
「はい。
では先ずこの紙にお名前と職業をお書きください。
その後に魔力の属性を診断いたしますが、事前にわかってる場合は自己申告でも構いませんよ」
取り合えず名前を書いてみた。
日本語の時と同じ感じで書いてみたが不思議とこの世界の文字に変換されて書くことが出来た。
良かった…、読み書きも出来ない子にならずに済んだ……。
職業に関しては新人の為、後から追加しても問題ないとのこと。
属性に関しては、調べたことがないのでわからないと伝える。
「それではこちらの属性を調べる魔道具に手をかざしてください」
一度アイリさんは裏に引っ込み水晶を持って戻って来た。
此処でも水晶が出てきた。
言われるがまま水晶に手をかざすと。
水晶は黒く光り出した。
かざした手も黒い光に覆われ見ることが出来ないくらい真っ暗だ。
異世界に来たんだし光属性とか全属性とかそんな感じの展開じゃないの?俺はそんなことを考えていた。
「他の色は見えないので…、属性は闇だけですね。
珍しい、私初めて見ました」
どうやら俺の魔力は闇属性だったようだ。
「闇か……、迫害されたりしませんよね?」
「大丈夫ですよ。
珍しいというだけで、闇属性を持っている冒険者の方は普通にいますから」
「そうですか」
ひとまず胸を撫でおろした。
「他にはどんな属性があるんですか?」
そうアイリさんに質問してみると。
「そうですね。
基本の属性となるのは[火水風土光闇]の6つですね。
大抵の人は火水風土の中から2種類の属性を持っている方が多いですね」
「ってことは光と闇はレアなんですね?」
「はい。
光属性は教会に勤める方に多い傾向ですね。
光+他の属性といった感じですね。
闇属性の方も同じように他の属性を持っているのがほとんどですね」
基本は2種類の属性で色々な組み合わせがある感じか。
「なので1種類の属性に特化している方や、3種類以上属性を保有している方というのは珍しいんですよ」
「なるほど……」
俺は闇の力で無双するしかないようだな……、楽しくなってきた!
「それでは……、お名前はソラ。
職業は未定。
属性は闇。
この内容で冒険者登録を行いますね」
「はい。それでお願いします」
属性も分かったので登録を進めることにした。
「……はい!
では登録はこれで以上となります。
初めての登録という事ですので、一番下の[
一枚のカードを手渡された。
その後、アイリさんよりランクの説明を受けた。
「ランクは一番下から。
[
[
[
[
[
ソラさんは登録したてなので一番下の[
手渡さたカードを掲げ、おぉっと声を漏らしっていると……、ガラの悪い男達が寄って来た。
「坊主。
冒険者になったらまずすることがあるよなぁ?」
「そうだぜ。
ちょっと面貸しな~」
「へっへっへ、な~に悪いようにはしねぇよ」
筋肉モリモリマッチョマンが3人寄って来た……。
これが新米冒険者への洗礼というやつか……。アイリさんへ助けを求めようとするも、さっさと別の作業へと移っていった。
Oh……
ガタイのいい3人の冒険者に囲まれ壁際まで連れていかれた。
チワワの様に震えるしかなかった。
「此処が銅ランクの依頼が掲示されている掲示板だ」
「最初は街の雑用や薬草採取なんかおすすめだぜ~」
「へっへっへ、あんまり欲を出して実力に見合わない依頼を受けると大変だから気を付けなぁ」
めっちゃ親切な人達だった。
その後冒険者ギルド内ツアーに連れまわされた。
「あそこが鉄ランク以降の依頼が貼られる所だ。
坊主も早くそこで依頼を受けれるようになれよぉ?」
「うす」
「此処が訓練所だ~。
大抵誰かしら暇な奴が戦闘訓練してるから色々教わりな~。
俺達も暇な時は相手してやるぜ~」
「勉強させていただきます!」
「へっへっへ、此処がギルド内にある無料で泊まれる部屋だ。
大部屋で雑魚寝するだけの部屋だから金が無い時はここを利用しなぁ」
「分かりました!」
その後も、此処が図書館、此処がトイレ、といった感じでギルド内の説明をしてくれた。
見た目に反していい人達だった。
恐らくアイリさんもそのことを知っていたから任せたのだろう。
せめて一言位は欲しい。
先輩方に別れを告げ冒険者ギルドを後にする。
今日の宿を決めなければならない。
流石にギルドに泊るのは不安があるしな。
日が暮れるまでまだ時間はあるし街を散策しながら探すことにした。
街をブラブラ歩いてると不意に声を掛けられた。
「おっ、ソラじゃないか。
登録は終わったのか?」
振り返り声の主を確認すると。
鎧を脱いで私服姿のマルコさんがそこにいた。
「なにしてるんだ?」
「今日泊る所を探してるんですよ」
宿屋を探していることを告げる。
「宿屋を探してる?
ならおすすめの所があるぞ。
ついてきな!」
快諾してくれマルコさんの後を付いていく。
「着いたぞ。
此処がおすすめの[キャリー亭]だ!」
移動の最中に、ギルドであった事を話していると、すぐに宿屋へと辿り着いた。
事前にされた説明では、朝晩のごはん付きでリーズナブルに泊まれる宿だそうだ。
マルコさんは宿に入り主人であろう男の人に声を掛け俺の紹介をしてくれた。
こっちも筋肉モリモリでデカい・・・。
「ソラといいます、暫く泊まりたいのですが部屋空いてますか?」
制服と手持ちのあれこれを売った金がまだある。
1泊あたりの値段を聞くと、1ヶ月位なら働かなくても泊まることが出来そうだ。
料金前払い制で、まとめて払ってもいいので1週間分を先に払う事にした。
宿屋は食堂も併設されているのでマルコさんとはそこで別れ、泊まる部屋へと案内された。
3畳くらいのスペースに木製の簡単なベッドと机と椅子が置いてあるだけの部屋だった。
鍵も内側から掛けれるようになっている。
もっとも貴重品は<
少し部屋で休んだ後に夕食を食べに食堂にいくとマルコさんは飲んだくれていた。
夜は食堂が酒場になるのだそうだ。
夕食は野菜とウサギ(魔物)肉のスープと硬いパンだった。
スープの味は薄目。
硬いパンはスープに浸して柔らかくして食べた。
意外とウサギ肉が旨かった。
初めての異世界飯はそこまで拒否反応を示すものではなかった、あとマルコさんはぐでんぐでんに酔っぱらっていた。
食事を終え部屋に戻った俺は、怒涛の一日を過ごした疲れが一気にきたのか、硬いベッドに突っ伏したまま眠りに落ちていった……。
スヤァ……。
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