36.枷の外れた音

 ロックタートル討伐の緊急依頼を受けた、俺達は目的地を目指すべく街の門へと向かった。


 門の前では、御者の男が冒険者ギルドの指示で、街道の途中まで馬車で運んでくれるとの事で、俺達2人は馬車に乗り込み移動を開始した。


「やっぱり歩きよりも断然に速いな」

 俺は馬車の窓から外を見ながらそう呟いた。

 もっとも自転車よりは遅いが、歩くよりは楽できるって感じだな。


「そうだね。これなら予定よりも早く着けるね。⋯⋯そうだ。ソラって戦う時どんな感じで戦うの?」


「俺か?守りはシャロに任せてるから。基本は剣と魔法を織り交ぜてって感じかな」


「そうなんだ。魔法は闇属性だよね?どういう風に使ってる?」


「どういう風か⋯⋯。どうと言われても、相手の視界を奪ったり。地面から棘出したり位しかできないしなぁ」


 アナスタシアが俺の戦闘スタイルを聞いてきたが、今後の魔物との戦闘時に必要な情報なのだろう。

 隠す必要性も無いので素直に答える事にした。


「因みになんだけど。魔法って手の平から出してる?」


「普通そうじゃないの?」


 アナスタシアのこの言い方だと、他にも魔法を出す方法があるのだろうか。


「普通はね。⋯⋯ソラには特別に教えてあげる」


「ほお」

 俺は唸った。俺にだけ特別か⋯⋯。悪い気はしないなぁ。


「それで、どんな内容なんだ?」


「簡単だよ。魔法ってのはイメージが大事だからね。手の平や地面から出す時って、特に意識しないでそうしてるでしょ?」


「まぁ、そのやり方で出来てたしな」


「そうだね。でもね、魔法を使う時に必ずそうしなきゃいけないなんてルールはないの」


 言われてみればそうか。

 俺は今まで何となくでそうしていた。


 そう言えば、魔法を覚えた時に頭の中に流れて来た使い方も、魔法陣からその魔法が出る位の事しかわからなったな。

 手の平や地面から何て、指定は無かった気がする。


「フフフ。さっきも言ったけど。魔法はイメージが大事。ソラは今まで、手や地面からしか出せないイメージをしていたんだよ。だから、他のやり方が思いつかなかったの」


「私は小さい頃から寝転がりながらでも、魔法を使っていたから。手や地面からしか出せないなんて事は、考えてもいなかったの。だからね⋯⋯、〈氷柱アイシクル 〉。ほら、こうやって空中にも出す事が出来るの」


 そう言ってアナスタシアは呪文を唱えると。

 空中に青い魔法陣が浮かび上がり、氷の柱が出現した。おお、すごぉい。


 そうか、考えてみれば漫画やアニメとかでも普通に空中に魔法陣を描いたりしていたな。

 なんでそのやり方を試してみなかったんだろうか?。


「じゃあさっそく、〈盲目ブラインド〉」


 俺は目の前の空間を見つめ、空中で発動するイメージをした。

 目標は馬車の屋根の隅に飛んで行くように。


 すると、黒い魔法陣が浮かび上がり。

 光を全て吞み込むような漆黒の靄が飛び出し、馬車の屋根の隅に向かって飛んで行った。


「おー、出来た」

「へー。凄いね、言葉だけで直ぐに実践できるなんて」


 直ぐ出来るとは思っていなかったから、俺も驚いた。

 やれば出来るもんだな。

 それともイメージが良かったのか?この世界は漫画やアニメ何て無いから、絵としてのイメージが最初から有る俺は直ぐに出来たのかもしれない。


 んー?なんだ?なんか頭の中で何かが、ガシャリと外れたような感覚がした。

 俺は頭を触りながら困惑した。何だ今の感覚。


「フフフ。どうしたの?」

「いや、なんか頭の中で何かが外れた感じがした」


「おめでとう。魔法の枷が外れたね」

「枷?なにそれ」


「枷っていうの、魔法を使う時の縛りみたいな物かな。魔法を使う時って、人は無意識の内に力をセーブしてるの。だから一定の条件を満たした時に、その枷が外れる仕組みになってるみたい」


 アナは一呼吸置き続ける。


「要は魔法をコントロールしやすくする為の力かな。

 私も詳しくはしらないけど、手の平や特定の箇所を指定して発動する魔法は制御が一番しやすい状態なんだって。ソラはそうしなくても、魔法が使えるようになったから枷が外れたんだね」


「え、てことは魔法のコントロールとか難しくなったってこと?」


「ううん。普段通り、手や地面から出せば普段通りに出来るよ。空中からだと手や地面と同様にするには、慣れが必要になるけどね」


「なるほど。使い分ければいいだけの事か。」


「とにかくおめでとう。この情報[白金プラチナ]ランクにならないと分からない情報だよ?他のランクの人は自力で辿り着くしかないし」


「⋯⋯それ話して大丈夫なの?」

「ソラは他の人に、ペラペラ話したりしないでしょ?」


「あ、はい。誰にも話しません。というか、⋯⋯御者に聞かれたんじゃいか?」


「乗り込んだ時に、この指輪で外に声が漏れないようにしてあるから大丈夫だよ」


 そう言って、右手に付けている指輪の1つを見せてくれた。

 はぇ~。魔道具ってやつか便利なもんだ。


 それはそうとして、そのうちアナスタシアには何かしらのお礼をしなくちゃいけないな。

 貴重な情報を教えて貰ったわけだし。


「今度何かお礼をするよ」


「気にしなくていいのに。⋯⋯そうだなぁ。今日の野営の時にお願いがあるんだけど。それでもいい?」


「おう!任せてくれ!」


 何を御願いされるか分からないが、承諾する。

 そんなにひどい御願いはしてこないだろう。


 それから暫く馬車に揺られ。


 目的の場所へと近づきつつあった。


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