37.アナスタシア威圧する

 山の麓の森へと、近づきつつあった。


 馬車での移動なので、お昼にはまだ早いわけで。

 どうしたものかと考えていた。


 こういう時は、人と相談するにかぎる。

 俺はアナスタシアに聞く。


「予定よりもかなり早く着くけど、どうする?お昼にはまだ早いし」


「そうだね。もう先に進んじゃう方が良いかもね。」


「なるほど。ならそうしますかー」


 予定が決まった。


 それから暫くして、突然馬車が止まった。

 窓の外を確認すると、見覚えの有る小道が見えた。

 前回、俺達が通った道だ。


 御者が扉を開け、目的地に着いたことを告げる。


「アナスタシア様。入り口に到着致しました。お足もとにお気を付けください」


「ありがとう。ところであなた⋯⋯。ソラの事もちゃんと気遣ってる?」


 御者がビクッとした。


 いや、俺の事をガン無視してる感じは、何となく気づいていたが。

 俺は[ブロンズ]ランクなんだし、[白金プラチナ]ランクを優先するのは当たり前だろうと思って、何も言わなかったんだが。


 アナスタシアはそれが気に食わなかったらしい。


「私のご機嫌を取りたいなら、その辺気を付けてね?あのハゲにもそう伝えて置いて。⋯⋯あと、帰りの馬車は不要だから」


 アナスタシアがそう言い放つと、空気を伝って肌がピリピリとした。

 おおぅ。鳥肌が⋯⋯。


「ソラ、行こ?」

「⋯⋯わかった」


 よく漫画やアニメにある強者が出す、プレッシャーみたいな描写があるが。

 俺は初めて肌で感じる事が出来た。


 哀れな御者の人は、ヒッと小さい悲鳴を出してプルプル震えていた。

 俺はせめてものフォローとしてお礼を言う。


「馬車、ありがとうございました。すごく助かりました」


 ペコリと頭を下げ、お辞儀をした。

 これで少しは、気が紛れてくれればいいが。


「え、あ。いえいえ!此方こそ、申し訳ございません!で、ではわたくしめはこれで失礼させて頂きます」


 そう言った御者は、直ぐに馬車を反転させ街へ戻って行った。

 行きよりスピード出てない?早くこの場を離れたいんだな⋯⋯。


「それじゃ、行きますか」

 俺は〈収納魔法アイテムボックス〉から剣と盾を取り出し身に着ける。


「そうだね」

 アナスタシアも杖を取り出した。


 ほお。俺はアナスタシアの杖をまじまじと見た。

 杖と云うよりは棒だな。

 長さはアナスタシアの肩くらいまでで、先端に青い水晶だろうか、そういうのが棒と一体になる様に着いていた。


 俺の視線に気づいたのか、アナスタシアが杖の説明をしてくれた。


「これは、私が普段使ってる杖でね。ヴィーシュさんに作ってもらったんだ。杖の本体にはミスリルを使っていてね。先端のコレは、私が倒したブリザードドラゴンの魔石を加工した物なの」


「へー、ミスリルにドラゴンの魔石か⋯⋯。すごいな⋯⋯」


 素材が凄すぎて感想が出てこない。

 ミスリルと云えば、漫画やアニメでは魔法の伝達が良く、頑丈で高価な鉱石だったか。

 詳しくは俺もよく知らないが、すごい鉱石だという事は分かる。


 そのミスリル製の杖に、ブリザードドラゴンの魔石。

 確か氷系のドラゴンだったか。

 そのドラゴンの魔石をくっ付けてるんだから、値段にしたらとんでもない額になりそうだな。

 俺も何時かそんな武器を使える様になりたいな⋯⋯。


 俺は新しく出来た剣と盾を見る。

 いやいや、お前らも俺はちゃんと大事に使うからな。

 それならいい。と剣と盾からそんな風に聞こえた気がした。


 装備の準備も出来たので、早速森の中に入る事にした。


 ◇


 森の中にある道を進んでいく。


 前回、シルバーファングと一緒に進んだ道だ。

 その道をアナスタシアと肩を並べて歩いている。


 俺は歩きながら時々、空中に魔法陣を描き魔法を使う練習をしていた。


 最初はあっさりできたが、これは思ったよりも難しいぞ⋯⋯。


 消費魔力が一番少ない〈闇弾ダーク・バレット〉で練習をするも、空中に魔法陣を出し、そこから目標へと弾を飛ばすのがうまくいかない。


 うぐぐ。魔法陣から飛ばす時に変な方向へ飛んで行く。

 うーん。なにか掴めそうな気もするが、そうじゃない気もする。


 うんうん唸っている俺を、アナスタシアはクスクス笑いながら見ていた。

 これ以上、アドバイスを求めるのも気が引けるしなぁ。

 歩きながらなのがいけないのか?戦闘中に使うなら、移動しながら使うってのは必須だしなぁ。


 ⋯⋯魔法陣を出す箇所を一々見ないで発動してみるか。着弾点だけを見る。


 出来たな⋯⋯。


 ほーん、なるほどね?魔法陣の出現位置は、感覚に任せるしかないな。

 なんだか一度わかると、頭にスッと入って来る気がする。

 枷ってのが外れたせいか?魔法の応用を無意識に抑制されてたのかな。


「何となくわかったみたいね?」


 アナスタシアが横から、俺の顔を覗き込みそう言う。

 俺の気づきを察知したのだろう。


「ああ、なんとなくだけどな」


「フフフ。最初はそれでいいのよ?少しづつ、進んでいけばいいんだし」

「そうだなー。一緒に進んでくれるか?」


「もちろん。⋯⋯ずっと一緒にいるよ?」


 これは、ヤンデレ⋯⋯か?いや友人としてッて意味かも知れない。

 あれ、これ選択肢間違うとヤバイ?


「⋯⋯そうだな、一緒にいれると良いな」

 果たしてこれでいいのだろうか。

 なんか変なルート入ってない?大丈夫?


 アナスタシアは微笑みながら見つめてくる。

 ⋯⋯まぁいいか、可愛いし。


 俺は未来の自分に問題を丸投げすることに決めた。


 まぁ、そんな事をしながら森の中を歩いていた。


「それにしても、魔物が出ないな」

 俺は呟いた。

 前回はこの位進む位には、2回くらい遭遇したんだが。


「あ!ごめんね。何時もの癖で魔力だしてた」


「⋯⋯魔力を出す?なにそれ?」


「うーん。周りに、私っていう存在が居るのを教えてる。みたいな感じ?要は威圧かな」


「あ~、なるほどね。無駄な戦闘を避ける的なやつね」

 俺は納得した。[白金プラチナ]ランクともなると、それ位は造作も無いのか。


 あ、なんか変わった感じがする。

 肌がチリチリする感じが消えた。

 あれが魔力を周りに出すって感じか。


「という事はこれから魔物も容赦なく襲ってくるって事?」

「そうなるね。ソラは私が守るから安心してね?」


「俺も、自分で出来る範囲はやるからな」

「フフフ。わかったわ」


 とは言え、そろそろお昼の時間かな。

 太陽が頭の真上に来ているし。

 アナスタシアにそう伝えた。


「そろそろ休憩にしない?」

「いいね。お腹もすいて来たし」


「ここら辺でいいかな〈氷の壁アイスウォール〉」

 周りを見渡して、アナスタシアは氷の壁を作り出した。


 一度に4方を囲う様にして地面から、氷の壁が空間を凍らせて行く。

 そのまま氷の壁は、空も覆うように凍りドームの様な形になった。


 おー。ハルクさんの〈石の壁ストーンウォール〉とはまた別の感じだな。

 それに氷の壁なのに、そんなに寒さを感じない。


「この中なら安全だからお昼にしよ?」


 俺達は氷のドームの中で、休憩がてら昼食を取る事にした。



 

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