21.初めての合同依頼

 ロックタートル狩りの誘いを受けた俺とシャロは、それぞれ次の冒険の準備をしていた。


 シャロは装備の手入れをしている様で。

 自分の部屋に籠っている。


 俺は持って行く食事の準備を進める。

 〈収納魔法アイテムボックス〉の中に入れれば、物の時間が止まる為、出来立てを持ち運ぶことが出来る。


 今回は主に外で食べるのがメインになるだろうからな。

 サンドウィッチとハンバーガー辺りでいいか。

 どうせだからシルバーファングの分も、1食分作っておこう。


 せっせと料理の下準備を進めていると、アレックス君が近寄って来る。


「もしかして、新しい料理?」


「おう。今回は手で食べれるサンドウィッチとハンバーガーだな」

 流石にこの世界にも、サンドウィッチ位はある。

 大抵パンの間に肉と野菜を挟む程度だが。

 ハンバーガーも肉を挟むから大して変わらんか。


「また見学してもいいかな」


「どうぞー」

 俺は了承した。

 アレックス君を横に置き、料理を再開する。


 サンドウィッチは薄く切ったホーンラビットの肉と野菜を適当にパンの間に挟んでいく。

 ハンバーガーも同様にパテを作り、野菜と一緒に丸いパンを半分に切り挟んでいく。

 別にプロでは無いので、割と雑に仕上げていく。


 しかし今回は一味違う。

 市場で買った卵と酢と油でマヨネーズも作った。

 うろ覚えのレシピなので味は本物と似てるが、どこか違う感じになった。

 〈清潔魔法クリーン〉で細菌の類も多分、消毒出来ていると思うので食中毒にはならないだろう。


「ところで、その白いのはなに?」


「マヨネーズって調味料だよ、味見する?」


 〈収納魔法アイテムボックス〉から取り出したマヨネーズが、アレックス君は気になったみたいなのでスプーンに少し乗せ、差し出す。


「頂くよ⋯⋯、!?」


 またアレックス君がプルプル震え出した。

 最近教えて貰ったが、無言でプルプル震える時は衝撃を受けているのだそうだ。

 作り方教えたらまた勝手に改良してくれるだろうか。

 そんな事を思った。


 俺達が厨房で騒いでると、シャロが寄って来た。


「お腹空いた」


「⋯⋯これでも食ってろ」


 一番小さいハンバーガーを与える事にした。

 一口齧り、目を見開いてからバクバク食べていった。

 まぁ食いっぷりが良いのは、見てて気持ちいいな。


「おかわり!」


「残りは明日用だ」


 食べられない様に〈収納魔法アイテムボックス〉に作った食料を避難させる。


「ぶーぶー」


「アレックス君に、作り方教えたから作ってもらえー」


 シャロの兄であるアレックス君に丸投げする事にした。


 よし、これで一応準備は出来たかな。

 ロックタートルの情報も調べたし。

 剣は研いでもらった、ポーションも在庫があるから作らなくていい。

 さて、他にやる事も無くなってしまったな。


「ソラー、暇」

「明日の準備は終わったのか?」


 ハンバーガーを食べ終わったシャロが背中にくっ付いてきた。


「終わったよー、寝るまで暇なんだよー」

「仕方ない、相手してやるか」


「仲いいよね、ほんと」

 アレックス君の言葉を聞きながら、背中にシャロをくっ付けたまま調理場を出ていく。


「暇と言ってもなぁ、俺も準備終わったから何もする事ないぞ?」


 実際この世界、テレビなどあるわけ無いので暇を潰す娯楽があまりない。

 本を読んで時間を潰したりもできるが、シャロが長時間本を読めるはずがないので、その選択肢は無い。


 背中にシャロを乗せながら食堂まで移動した俺は、シャロを下ろし席に着く。

 ま、こういう時はアルコールを入れてサッサと寝るに限る。

 〈収納魔法アイテムボックス〉から、個人的に買っていた酒を取り出す。


「ふーん、ならあたしはこのお酒をだそうかなー」


 そう言って。

 シャロも〈収納魔法アイテムボックス〉から酒を取り出す。

 面白い、お互いの酒の飲み比べといこうじゃないっか!お互いコップに酒を注ぎ、構える。


「「乾杯」」


 軽快に打ち鳴らしたコップの音が鳴り響いた。


 この後どうなったかというと、何時も通りである。




 ◇


 朝の鐘の音が鳴り響き。少ししてからシャロが部屋のドアを乱暴に叩く音が鳴り響く。


「ソラーおーきーてー!」


 ⋯⋯ぁぃ。

 まだ眠っていたい頭を無理矢理起こし、扉へと足を向ける。


 鍵を開け朝の挨拶。


「おはようございます」


「おはよー!朝ごはんは包んでもらったから早く行こー」

「あい」


 何時ものように〈清潔魔法クリーン〉を掛け、着替えてから、シャロに着いていく。


 ◇


 門の前には既にマルコさんが1人佇んでいた。

 他のメンバーはまだ来ていないようだ。


「おはようございます」


 近寄り挨拶をする。

 シャロも同じように元気に挨拶をする。


「おはようございまー」


「おはよう、早いな」


「そういうマルコさんもでは?」


「俺は特にやる事ないし、何時もこんな感じだな⋯⋯」


「他の方々はどうしてるんですか?」


「家族と朝飯食べてから来るな⋯⋯」


 なるほど⋯⋯

 丁度いいから俺達も朝飯を食う事にした。


「はい、ソラの分」シャロが〈収納魔法アイテムボックス〉から包んで貰った朝ご飯を取り出してくれた。


「ありがとう」

 包みを開けると、サンドウィッチが入っていた。

 恐らくアレックス君が作ってくれたんだろうか。

 肉しか挟んでない⋯⋯。朝からこれは重くない?うまいが。


 2人で座りながら朝飯を食べてると、マルコさんが横にドカッと座り語り始めた。


「最初はな、俺達も朝飯は一緒に食べてから依頼に向かってたんだよ。でもな1人、また1人と良い人を見付ける度に、朝飯を食う人数が減ってきたわけよ。今では3人共家族との時間を終えてから集合なわけよ。いや、わかるよ?冒険者だからな、もしかしたら今回の依頼で死ぬかもしれない。最後に家族の顔を見ておこうって気持ちはわかる。でもたまには昔みたいに、一緒に朝飯食べてから出発したいんだよ。どうしたらいいと思う?」


「そっ⋯⋯すねぇ⋯⋯。シャロはどう思う?」

 正直どうでもよすぎるので、シャロに丸投げすることにした。


「んー?そういう事もあるよねー」


 凄いどうでもよさそうだった。


「もうちょっと何かないのか?」

「じゃあ一緒に食べたいって、素直に言えば?」


 実際素直に自分の気持ちを打ち明けるのが一番だよな。

 シャロの発言を肯定するようにうんうんと頷く。


「恥ずかしいじゃん」


 シャロがすごい顔をしてマルコさんを見ていた。

 他の3人が来たらマルコさんが、朝飯一緒に食べたいと言っていたと教えておくか。


 他の3人が来るまで何をするでもなく、3人共ボーッと過ごすことになった。

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