41.ついに発見!デカタートル!!

 「⋯⋯ふがっ」


 不意に目が覚める、なんだか凄く良い寝心地だ。

 久しぶりにフカフカの布団に包まれている感じがした。


 それに何だか左腕に柔らかい感触が⋯⋯。


 視線だけ左に向けると、アナスタシアが俺の左腕を抱き締める形で寝ていた。


 そう言えば一緒のベッドで寝たんだったか⋯⋯。え、俺速攻で寝た感じ?は?何してんの?バカか!


 己の愚かさを嘆き悲しみ、叱責し二度とこんな悲劇を起こすまいと、己に誓った。


 ⋯⋯今はこの感触を心に刻もう。

 いや、だってアナスタシアから俺の腕に抱きついてるわけだし、不可抗力って事で。

 俺は心の中で、完璧な言い訳を考えていた。


 というか今何時くらいだ。

 窓から日が差してはいるから、朝なんだろうが。


 ⋯⋯しゃーない、起こすか。


 ◇

 あれからしばらく経ち、まだアナスタシアは起きない。


 別に堪能していた訳では無い。


「⋯⋯そろそろ起こすか」

 肩を揺すり声を掛ける。


「あ、朝だよー」

 体をユサユサ動かす。

 左腕には変わらず柔らかい感触。

 体を揺さぶると更に感触が⋯⋯。


「んん⋯⋯」

 ゆっくりと瞼が開き、眼が合う。


「お、おはようございます」

「⋯⋯⋯⋯」


「お、おはよう」

 再度声を掛け、上目遣い気味の眼と見つめ合う。


 アナスタシアがガバっと、上半身をベッドから勢いよく起こす。


 ああ、左腕の感触が⋯⋯。


「お、おはよう!よ、よく眠れた?」

「グッスリ寝れましたね」


 ええ、そりゃあもう。

 ベッドに横になって秒でおやすみですよ。


 俺も体を起こして体を伸ばす。

 んー、体がバッキバキになってない。


 寝る布団でこんなに変わるものなのか。

 買えそうなら買うか⋯⋯。


「⋯⋯あ!〈清潔魔法クリーン〉!!」


 アナスタシアは自身の凄い寝ぐせに気づいたようで、直ぐに〈清潔魔法クリーン〉を掛けて寝ぐせを治していた。それじゃあ俺も。


「〈清潔魔法クリーン〉」

 この魔法で寝ぐせが治る原理がわからん。

 まぁ魔法だから、の一言で片付くんだろうが。


「さて、目も覚めえたし朝飯にしますか」

 朝はサンドウィッチと残り少ないポトフを、2人で分けて食べる事にした。


「ところで、今日中にロックタートルの生息地には着くと思うけど。その後はどうする?」


 俺はアナスタシアに今後の予定を聞いてみた。

 距離的にも昼前には、前回解体していた場所には着けるだろうし。


「取り合えず、どんな奴かみてから決めようかな。直ぐ倒せそうなら、そうした方が良いだろうし。そしたら、夜までにはまた此処に戻ってこれるかなって」


 少し間を空け、アナスタシアが言った。

「次は、直ぐ寝ないでね?」


「⋯⋯え?」

 俺はドキリとした。えぇ、それって⋯⋯えぇ。この子思ったより大胆。ヤダモー。


「それじゃあ、着替えたいから。外で待っててくれる?」

「はい」


 俺は直ぐに外に出た。

 ついでに、自分の着替えも外で済ませる事にした。


「よし、これでバッチリだな」

 誰にともなく呟く。

 俺の準備が終わってからしばらくして、小屋の扉が開く。


「お待たせ」

 そう言ったアナスタシアは、昨日とは違う服装の装備を着けていた。


「あれ、昨日と違うな」


「うん、アレは移動用の服だから。こっちは戦う時用のやつね」


 黒色を基本としており、どことなく軍服っぽい感じの服だった。

 膝上位のスカートを着けており、肩に短いマントも羽織っていた。

 足には長めのブーツを履いている。


 これ防御力有るのか?初見の感想はそれだった。

 普通に似合っているが⋯⋯、冒険者目線での評価が先に来てしまった。脳みそが異世界基準に染まって来たのだろうか。


「因みに、この服の糸はそこら辺の鉄の鎧よりも、遥かに頑丈な素材で作られていてね、色々エンチャントも付与してあるから、[ゴールド]ランクが着る様な鎧よりも頑丈なんだよ」

「へえー!それはすごいな!」


 はえ~。見た目は普通の服なのにそんなすごいのか。

 当然の事だが[白金プラチナ]ランクは、装備の質も次元が違うな。


 アナスタシアが〈収納魔法アイテムボックス〉に小屋を収納し、出発する事にした。



 ◇


 暫く森の中を進み、徐々に木々が少なくなってくる。

 そろそろ山岳地帯だな。


 更に進み。

 岩肌が多くなってきた。

 もう少しで前回の所に着くな。


 今日は運よく魔物と遭遇する事なく、事が進んでいた。


「そろそろ俺達が居た場所に着くけど、そこからはどうする?」

 なぜか道案内で連れてこられたが、詳しい場所までは分からないからな。

 ⋯⋯何で俺は連れてこられたの?今更な疑問が沸き起こる。


「うーん。あっちの方から、大きめの魔力感じるから。多分そこに居ると思う」

 そう言って、アナスタシアはある方角を指差す。


 あ、わかるんだ。

 いよいよ俺は要らない子では?⋯⋯考えないようにしよ。


 ◇


 と、言うわけで前回の場所に到着したわけだが。


 アナスタシアが指差した方角は、結構険しい道のりになっていた。


「がんばるか⋯⋯」

「ねえ、ソラ。ちょっと良い?」

 アナスタシアが俺の袖を引く。


「ん?なんだ?」

「少しおんぶしてもいい?」


「⋯⋯おんぶ?」

「そう、おんぶ」


「えーっと、俺が?」

「ううん。ソラを」

 俺をおんぶするのね、把握。

 なぜに?理由は分からんが、取り合えず言うとおりにしてみよう。


 アナスタシアが屈んだので後ろに移動し、覆い被さるようにして抱きつく。絵面よ⋯⋯。


「しっかり掴まっててね」


「え?⋯⋯うわあああああああ!!」

 そう言われた次の瞬間。物凄いGが掛かった。


 アナスタシアは俺をおんぶしたまま、すごい速さで岩肌を駆け上がっていった。あばばばば。


 まるで安全バーのロックが外れた、ジェットコースターにしがみついている気分だった。


 唐突な絶叫マシンは、直ぐに終わりを告げ。

 岩肌の頂上に着いていた。


[白金プラチナ]ランクってのは、こんなも人外なのか⋯⋯。

 俺は背中から降ろされ、四つん這いになっていた。

 あわわわわ。


 人外だからと言って、付き合いを変える様な事はしないが⋯⋯。

 俺もいずれは、これ位できる様になれるのだろうか。

 四つん這いで、そんな思いを巡らせていると。


「あ!あれじゃない?」


 アナスタシアが何か見つけたみたいで。

 立ち上がり同じ所を見て見る。


「あ、いた」

 離れた所に目的の魔物が居た。


 居たのだが⋯⋯。


 いや、でっっっっか!?なにあれ!?学校の体育館ぐらいあるぞ!?

 言葉にならず、指差しながらアナスタシアを見る。


「結構大きいね。昔の記録の倍くらいあるかも」


「嘘だろ⋯⋯。あんなのどうやって倒せって言うんだ」

 俺が絶望していると、アナスタシアは明るい声でこう言った。


「あれ位ならすぐ終わるね!」


「⋯⋯え?」


 この後俺は、[白金プラチナ]ランク冒険者の真の実力を目の当たりにすることになる。


 冒険者ギルドが認める最高峰の、その頂点の力を。

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