42.氷柱の世界樹

「あれ位ならすぐ終わるね」


「⋯⋯え?」

 思わず間抜けな声が漏れる。

 あれがすぐ終わる?正直何を言ってるのか理解出来なかった。

 遠目からでも解る程、クソでかいんですけどぉ。


「ど、どうやって⋯⋯」

「詠唱込みの魔法撃ち込めば1発かな」


 詠唱か、よくある、炎の精霊ようんたらかんたらみたいなやつか。


 この世界って詠唱有るんだ。何時も呪文しか唱えてないし、そういうものと思ってた。


「その詠唱を使わないと、撃てないまほうってこと?」


「うーん、詠唱はなくても撃てるよ。ただ、詠唱を唱えて撃つと、威力が上がったり、特殊な追加効果が付与されるの」


「へー、そんな感じなのか」

 詠唱はあくまでも、呪文の強化用のオマケって事ね。


「で、その詠唱ってのは何を言えばいいんだ?」

「えーっとね。レベルが上がる時に魔法覚えるでしょ?その時、一緒に頭の中に浮かんでくるの。理由や法則は分からないけど、同じ魔法でも詠唱付きで覚える人と、そうじゃない人が居るみたい」


「覚える魔法ってそんな、当たりとハズレがあんの?」


「みたいね。でも、上位の魔法は大体、詠唱はセットで覚えるから、あんまり気にしなくてもいいと思うよ」


 ⋯⋯上位の魔法ねぇ。

 やっぱり広範囲を殲滅~とか、一撃必殺とかそんな感じかな?俺もいつかは覚えたいものだ。


 今回は、アナスタシアが見せてくれるだろうから、どんな魔法なのか楽しみだ。


「それじゃあ。もうちょっと、近づこうか」

「了解、どれ位まで近づく?」


 今いる場所から、ロックタートルまで半分位の地点を指差し言う。


「あそこら辺がいいかな。凄いの見せてあげるよ」


 そう言って彼女は、今から悪戯を仕掛けようとしている、子供の様に無邪気な笑顔を見せ。

 目的の地点を目指し、岩場を降りていった。


 その表情にドキリとしながらも、遅れないように岩場を下り後に続いた。


 足場が悪い為、移動に少し手間取ったが、目的の地点まで無事辿り着いた。


「本当にデカイな」

 近くに寄ったことにより、更に大きく見えた。


 どうやってこの巨体を支えてるんだか、これだけ大きいと自重で動けないと思うんだが。


 まぁそこは異世界、魔法の力で何やかんやって奴だろう。

 俺は専門家じゃないし、詳しく調べる気なんてない。


「改めて聞くけど、これ倒せんの?」

「もちろん、私に任せて。ソラは傍で見てるだけでいいから」


「それじゃあお言葉に甘えて」

 アナスタシアは3歩ほど前に進み、杖をロックタートルに向け構える。


 聴く者を凍り付かせるような、透き通る声で静かに紡ぎ始めた。


「断ち切れぬ永劫えいごう氷柱つらら


 地面に青く輝く、魔法陣の輪郭が現れる。


「折れ曲がる氷のつる


 一言紡ぐ事に輝きを増し、魔法陣が描かれていく。


「永遠の冷気を纏いし枝葉」


 魔法陣の外側が凍りつき始め。


「熱を奪いし氷霧ひょうむ


 吐く息は白く、身体の熱が奪われていく。


霧氷むひょう舞い散る氷の庭にて伸びゆく大樹たいじゅ




「凍る世界で眠りなさい」



「〈氷柱の世界樹アイシクル・ワールドツリー〉」


 ロックタートルの居る地面が青く輝き、巨大な魔法陣を描き出す。

 青く輝く魔法陣から、氷の柱が天に向かい伸びゆく。

 幾つもの柱が重なり、絡まり、犇めきあい1つの塊となる。

 天に昇る氷の濁流は、ロックタートルを押し上げ空中へと誘った。

 氷の枝葉が伸び、暴れるロックタートルの身体に絡みつき、その動きを無理矢理押し止める。次第にその数を増していき、徐々に身体の全てを氷の枝葉が包み込んでいく。

 止まることなく、なおも枝は伸び続け、終いには巨大な氷の大木となった。


 あまりの出来事に言葉を失う。


 あっという間に、巨大な氷の樹が出来上がった。


 あれだけ巨大だった、ロックタートルをいとも簡単に持ち上げ、氷漬けにしてしまった。


 あまりの規模の魔法に言葉も出ず、驚愕する。


 それと同時に。

 薄桃色の氷は、元の世界でよく見かけた桜の木の様に美しく思えた。

 だからだろうか、自然とその言葉が口から零れ落ちた。


「⋯⋯綺麗だな」


 絶え間なく削られ


 落ちていく氷の欠片は


 まるで舞い散る桜の花弁の様に


 美しく、儚く輝いていた

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