43.崩れ落ちる氷と落ちる涙の理由は——。
目の前に現れた氷で出来た大樹。
その幻想的な光景に、俺は心奪われていた。
⋯⋯え、ナニコレ。
すげぇ!アレだけの大きさのロックタートルが、あっという間に持ち上がって氷漬けに去れてるし!すげぇ!パネェ!それに詠唱もカッコよすぎる。
俺の厨二心を擽られる!すげぇしかでねぇ。語彙力ぅ。
俺の心のテンションは爆上がりしていた。
改めて全体像を見る。
アナスタシアの氷は、薄いピンク色をしているからか、まるで桜の木の様に見えた。
パキパキと氷同士が擦れ、崩れ落ちていく。
落ち行く氷の欠片がまるで、桜の花弁が散る様で。
陽の光が反射し、キラキラと輝きを増した氷の欠片が、幻想的な光景を作り出していた。
「⋯⋯奇麗だな」
不意に口から零れた言葉は。
その光景を表すには十分だった。
⋯⋯もっといい言葉なかったか?
まぁいいや。奇麗な事には変わりないわけだし。
不意にブルっと身震いする。
さ、寒い!テンション上がってて気づかなかったが、かなり寒い!周りの気温がかなり下がっている。
野営の時のは、その辺セーブしてくれてたのかな。
吐く息が白くなる。
アナスタシアは、平気なのだろうか。
⋯⋯というか、さっきから動かないな。
どうしたんだ?俺は声を掛けた。
「だ、大丈夫か?」
一歩踏み出そうとすると、足元が凍っているのに気付く。うお!此処まで凍っていたのか。
足元に少し力を入れて、靴を地面から剥がす。
バキッという音と共に、足が外れ一歩前に出る。
アナスタシアに近づき肩に手を掛ける。
肩を掴まれた事に驚いたのか、ビクッと体を震わせ此方に振り向く。
「え!?あ、だ、大丈夫か?!」
俺はビックリしてテンパった。
理由は、彼女の眼から涙が零れていたからだ。
「ど、どこか痛めたか?」
もしかしたら、かなり体に負担のかかる魔法だったのかもしれないと思い尋ねた。
「ううん。大丈夫。大丈夫だから」
彼女はそう言い。
俺に体を寄せ、抱き付いてきた。
俺の胸の中に居る彼女は、何も言わず少しだけ震えていた。
そんな彼女を落ち着かせようと。
ほんの少しだけ、その体を抱き締めた。
腕の中の彼女もそれに応える様に。
背中に手をまわし、強く抱き返してくれた。
お互いの体温が伝わる。
先ほどまでの寒さは無くなり、ただこの時間が続けば良いと思った。
そんな時間も、直ぐに終わりが来るもので。
「ありがとう、ソラ。もう大丈夫」
そう言いながら体を離し。1歩後ずさる。
「あははは。ごめんね、みっともない姿見せちゃって」
クルリと背を向け、両手を広げながら言う。
「さっ!それじゃ終わらせちゃおうか!〈
アナスタシアが、パチンと指を鳴らすと。
ビシッと云う音が響き。
次の瞬間、氷の大樹が全て砕け散った。
砕け散った氷の欠片は、音を立てながら広がり。
その光景はさながら桜吹雪の様に、当たり一面を染め上げた。
崩れ落ちる氷の中で、1束だけ崩れずに残る氷の束があり。
その氷の先端には、一際大きな魔石が輝いていた。
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