44.依頼達成!おつかれーした!!

「〈氷のアイス・破壊ディストラクション〉」


 アナスタシアが、パチンと指を鳴らす。


 氷の大樹が砕け散り、大量の氷の欠片と共に崩れ落ちる。


 砕け落ちた大量の欠片は、崩れ落ち雪崩の様に俺達に迫って来た。


「⋯⋯!?ヤバイって逃げるぞ!!」

 アナスタシアの手を掴み、その場から逃げ出そうとした。

 ⋯⋯ビクともしないんですけど。

 力を込めて引いたつもりだが、全然動かん。えぇ⋯⋯。


 アナスタシアは、杖を雪崩に向けると呪文を唱えた


「フフフ。大丈夫だよ。〈魔法の盾マジック・シールド 〉」


 杖の先に小さい魔法陣が浮かび、アナスタシアを中心にガラスの様な半球体の障壁が現れた。


 そしてすぐに、氷の雪崩が俺達2人を呑み込んだ。


「おお、すごい⋯⋯」


 氷の雪崩は、障壁に阻まれ弾かれていた。


 氷の衝突する音が鳴り響く。

 障壁に阻まれ、氷同士がぶつかり合う音が、半球体の障壁内に鳴り響く。


 俺はポカーンとしていた。

 そして改めて思う。魔法ってすごい。


 障壁に阻まれる氷を、間抜けな顔で眺めていると、再度アナスタシアに抱き着かれた。


 おっふ。先ほどよりも強めに抱き締められ。

 俺の胸に幸せの感触が伝わる。おっふ。


 あれよな?抱き締めて良いって事よな?しょ、しょうがね~な~、まぁね?本人から来られたらね?応じるしかないよね?俺はギュッと抱き締め返した。


「⋯⋯フフフ」

「なんだかうれしそうだな?」


「うん。ずっと誰かとこうしてみたかった⋯⋯」

「俺でいいのか?」


「ソラが良い。ソラが。」

「そうか⋯⋯」


 そう言うんなら仕方ない。

 俺も一肌脱ごうじゃないか。

 アナスタシアを抱き締める腕に力を入れ。

 より強く抱き締めた。


 ◇


 それからどれ位の時間が経ったのだろうか。


 当たりから氷のぶつかる音は止み。

 静かな静寂が訪れていた。


 周りを氷に囲まれているせいか、気温が下がっている。

 吐く息も白くなっている。

 それでも、不思議と寒さを感じなかった。

 今腕の中に居るアナスタシアは、[白金プラチナ]ランクと云う、冒険者の中でも最高峰の実力者だ。


 でも、こうしていると普通の女の子と一緒だな。

 なのに周りは、彼女とは無関係な昔の出来事をなぞり[血濡れの魔女]と呼ぶ。


 それなら、俺だけでも彼女を1人の女の子として扱えばいい。

 きっと周りから見れば、分をわきまえろと言われるだろう。

 それでも、今腕の中に居る彼女を守ってあげたいと思えた。


 最も今現在、守られているのは俺なのだが。


 ⋯⋯強くなろう。そう思った。


 思ったが、どうしたらいいっすかねぇ。俺に才能があるとも思えないし。そもそも異世界から来て、草原に放り出されるような人間よ?神様が居るなら、もうちょい何か無かったん?って聞きたいくらいだよ。


 まぁ無いもの強請りした所で、何も無いわけで。

 と云うか。障壁?の周り氷まみれ何ですが、どうやって出ればいいんですかね?


 経験者に聞くのが一番か。俺は聞いてみた。


「ところで、ココからどうやって出るんだ?」

「ん。⋯⋯そだね。そろそろ出ようか!」


 パッと俺から体を離しアナスタシアが言う。


「魔石回収して街に戻ろっか」

「ああ!」


 俺の返事を聞いた、アナスタシアは踵を返して、正面に向き直る。


 アナスタシアは障壁を消し。

 杖を、野球のバッターがバットを振る様に、振りぬいたー。ホームラン!


 轟音を立てながら氷が弾け飛んだ。


 弾け飛んだ⋯⋯。

 えぇ⋯⋯うそぉ。


 目の前の氷の壁にぽっかりと穴が開いた。

 俺が守る必要あるのだろうか⋯⋯。

 俺が守られるヒロインになった方が早いんだが⋯⋯。


 そんな事を思っていた俺の腕を、アナスタシアは引っ張りながら言う。


「行こ!ソラ」


「⋯⋯ああ!あ、待って力強いっす、腕取れる⋯⋯」


 ダッと駆け出すアナスタシアに、腕を引かれ氷の雪崩の中から抜け出した。


 ⋯⋯辺り一面、薄桃色の氷で埋め尽くされていた。

 その場で回りも見渡す。

 見える範囲全てが、氷で埋め尽くしていた。やばすぎぃ。


 丁度、窪みの様な地形ってのもあったが、これはヤバイ。生き物の気配がしない。


「ほら、早く魔石取りに行こ?」


 首を少し傾け、かわいらしい仕草をしながら。

 アナスタシアが急かしてくる。可愛い。


「お、おう」

 怒涛の様に起こる状況の変化に、俺のキャパを越えつつあるのだが⋯⋯。

 取り合えず指示に従おう。


 アナスタシアに手を握られているので、手を繋ぎながら魔石への道を進む。


 足元が氷の塊なので滑ってしょうがない。

 慎重に進む俺に合わせてか、ゆっくりとしたペースで進んいた。


 ◇


 そうしてやっとの事で、魔石の真下まで辿り着いた。


「⋯⋯ふう。やっとついた」

 ため息を一つ吐き、そう呟いた。


「フフ。御疲れ様です」


 アナスタシアは終始嬉しそうにしていた。

 思ったよりも、魔石が大きいから上機嫌なんだろうか。そう思った。


 実際、真下から見上げた魔石は結構な大きさだった。


「で、あれどうやって取るの?」

 氷で支えられているとはいえ、かなり高い位置にあるし、登って取るのは無理そうだ。


「こうしたらいいよ?」

 そう言ってアナスタシアは氷の根元を、杖で打ち抜いた。ヒュー。やり方が脳筋のそれだ。


 根元を崩された氷の柱はガラガラと崩れ、それを支えにしていた魔石も落下し始めた。


 アナスタシアに手を引かれ数歩後ろに下がると。

 目の前に魔石が落ちて来た。


 衝撃で一瞬、体が浮いた。


 落ちて来た魔石はかなり大きく。とてもじゃないが1人では持つことも出来ない大きさだった。

 こんな大きさ初めて見た。


 以前解体したロックタートルの魔石の、何十倍あるんだろうか。

 魔石の大きさに度肝を抜かしていた俺に、アナスタシアが語り掛ける。


「ソラの〈収納魔法アイテムボックス〉に入る?私のは空きがあんまり無いから、お願いしたいんだけど」


「俺のか、わかった」

 俺は〈収納魔法アイテムボックス〉に魔石を押し込む。容量的には問題ないな。


「よっし!それじゃ。街に帰ろっか」

 アナスタシアが朗らかに笑い告げる。


「そうだな、帰ろう。俺達の街に」

 俺とアナスタシアはその場を後にした。


 ⋯⋯辺り一面に広がる氷の後始末は、考えない様にしよう。


 俺は何も見なかったことにした。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る