40.夜の帳が落ちる頃
アナスタシアの着替えが終わるまで、氷の壁で頭を冷やしていた。
「⋯⋯ふう。大分頭が冷えたな」
1人呟く、と云うかこの氷思ったより冷たくないな。普通、この位の氷なら手をくっ付けたりしたら、手が張り付いたりするんだけどな、溶けてる感じもしない。魔法で作ったからかな?
実際の所は分からないな、魔法のある世界だし。
元の世界と物理法則違うだろうし。
そんな事を考えていると、扉の開く音が背後から聞こえて来た。
「ごめんね?もういいよ」
俺は呼ばれるまま、小屋の中に入って行った。
どうやらパジャマに着替えていた様だ。
髪色と一緒のピンク色をしていた。可愛い!
⋯⋯流石に俺も着替えないとまずいな。
という訳で、トイレを借りて俺も部屋着に着替える事にした。
俺のはシンプルにTシャツ長ズボン、何の面白みも無い格好だ。
部屋着に着替えたら一気に疲れが⋯⋯。
道案内のはずが、何故かハードモードになっていたんだから仕方ない。⋯⋯なんでぇ?
お互いゆったりした服に着替えたので、ゆったりタイムが流れる。
ホントウニキョウハツカレタ。
腹減ってきたな、⋯⋯キッチンあるな。
だったらあれもいけるか。
「ところで、そろそろ夕飯にしようと思うんだけど。キッチンて使ってもいい?」
「もちろん。今から作るの?」
「いや、事前に作ってあるから少し温め直したいのと、もう一品作りたいなと」
「いいね~。楽しみ。あ、キッチンの使い方教えるね」
キッチンの前に移動して説明を受ける。
「これが魔道コンロって云って、ココに指を置いて魔力を貯めるの。貯めた魔力の分、火がつくからそれを使ってね」
「ほー。コンロ有るのか便利だな」
元の世界では当たり前にあったコンロだが、この世界では基本、竈が主流なので久々の再会である。
取り敢えず〈
〈
温めている間に、パンとガーリックの匂いと味がする野菜を取り出す。
野菜をすり潰し、熱したフライパンにバターと一緒に入れ火にかける。
バターが溶けたら切ったパンを入れ、なるべく動かさずに焼く。
バターとガーリックのいい匂いがしてきたぞ。
焼き目がついたら取り出して完成だ。
ポトフとガーリックトーストの出来上がりでぃ!
出来上がった料理をテーブルに並べ、頂く。
「頂きます」
「いただきます」
んー。ポトフが良い感じに出来てるな。
ソーセージは噛めば皮がパリッとなり、中から肉汁が出てくる。
野菜もホクホクだ。
ガーリックトーストは⋯⋯。
ザクりと音を立てて噛めば、ガーリックとバターのコンビネーションが口の中に広がる。
更にトーストをポトフに漬けて食べれば、スープの染みたトーストが更に味を引き立てる。
スープにもガーリックとバターが溶け出すので、また味わいが変わって良い感じ。
「んー。美味しい~」
アナスタシアからも高評価を頂いた。
結局二人ともお代わりをしてしまい、全部食べてしまった。
ま、まぁ他の料理も有るし大丈夫でしょ。
その後は、まったりした時間が過ぎていく。
アナスタシアがお酒を出して来た。
夕食を取ったばかりだが、呑むならツマミが欲しい。
そういえば、ホーンラビットを焼いたのが有ったなと思いだし、それをツマミに呑むことにした。
「「カンパ~イ」」
お互いの色々な話をした。
アナスタシアが受けた依頼の話や、俺の設定上の育ての爺さんの話や、冒険に役立つ知識などを、酒瓶が空になるまで続けた。
そして2人っきりの夜は更けていく。
◇
そろそろ寝る時間だろうか。
時計なんて物はないから、今が何時なのか分からない。
アルコールが回った頭でボーっとしてると、アナスタシアおもむろに椅子から立ち上がり、ベッドへと歩いて行った。
アナスタシアも眠いんだな。
俺は〈
前回は野ざらしだったが、今回は屋根に床もあるからぐっすり寝れそうだ。
俺が床に寝袋を敷こうとしていた。
するとアナスタシアが口を開く。
「こっち来ていいよ?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯?!なん⋯⋯だと⋯⋯。⋯⋯夢か?頬っぺたを抓る、痛い。夢ではないな、現実か。まさか幻術?いや現実か⋯⋯。
予想外の出来事に、アルコールに浸った頭の処理が追い付かない。
「ベッド。広めだから2人で寝ても平気だよ」
「⋯⋯そうか」
それなら、しかた⋯⋯ないな?俺はベッドへと吸い込まれる様に歩みを進めた。
それはまるで、空腹時にラーメン屋の前を通った時の様な⋯⋯。違うな、押すなよと言われたボタンを押してしまった時の様な⋯⋯。駄目だ、頭が回らん。兎に角その魅力に抗う事が出来なかった。
某怪盗3世の様な、ダイブは決められないので静かにベッドインした。
うっわ。フカフカ。
宿のベッドの様な、木の枠組みに申し訳程度の厚めの布が乗ってるベッドとはわけが違う!体が沈む!ココで寝ては、この後の展開が終わる!
昼間の疲れと、アルコールのせいで瞼が⋯⋯。
ああぁぁ⋯⋯Zzzz。
俺は眠りに落ちた。
**********************
ソラとの夕食を終え。
一緒にお酒を飲みながら、色々な話をした。
楽しいな、この時間がずっと続けばいいのに。
何時も野営の時は、1人で過ごすが今日は違う。
初めて私を認めてくれた人。
血濡れの魔女としてでなく、アナスタシアとして接してくれた人。
そろそろお酒が空になる⋯⋯。
普段読んでいる小説では、酒に酔った男女が1つのベッドを共にし⋯⋯。
そこから先は、恥ずかしくて読み飛ばしてしまうけど⋯⋯。
それでも憧れていたシチュエーションの1つ。
今日ここで、それをやってみせる。
グイッとコップの中身を飲み干し。
ソラと自分のコップに、酒瓶の残りを注ぎ込む。
これを飲み終わったら⋯⋯。
フ~、お酒のせいか、顔が熱い気がする。
残りもグイッと飲み干し。
ソラを見つめる。
なんかボーっとしている?
もしかして⋯⋯、私と同じ事を考えてたりする?
⋯⋯よし。
覚悟を決めて、ゆっくりと椅子から立ち上がり、ベッドに向けて歩き出す。
靴を脱いで、ベッドに乗る。
大丈夫、このベッドは大きめだから、2人寝る事が出来る。
普段から大きめのベッドで寝てるから、小屋の中のベッドも大きめのにしていてよかった。
⋯⋯ソラは〈
そ、そうか!?
流石に一緒のベッドで寝るのはまだ早いと思われてた!?
どうしよう⋯⋯。
考えを巡らせる。
ええい、ココはストレートに!
「こっち来ていいよ?」
ソラの手から寝袋が落ちた。
あ、頬っぺた抓ってる。
ゴクリと唾をのみ込み、言う。
「ベッド。広めだから2人で寝ても平気だよ」
⋯⋯言ってしまった。
ついに。
「⋯⋯そうか」
ソラはそれだけ言い、スススとベッドに近づき。
私の横に寝転んだ。
心臓の鼓動が早い、ブリザードドラゴンと戦った時でさえ、こんな胸の高鳴りはしなかった。
初めて人を殺した時でさえ、何も感じなかったのに。
隣にソラが寝ている。
只それだけで、かつて無い程。
私の胸は高鳴っていた。
今は仰向けだけど、意を決してソラの方に体を向けた。
「ねぇ、ソ⋯⋯ラ?」
ソラは目を瞑り、寝息を立てていた。
あまりにも呆気ない結末に、思わず吹き出してしまう。
「ッフ、フフフ。疲れてたんだね。⋯⋯お休み、ソラ」
⋯⋯ソラ。
私の愛しい人。
頭をひと撫でして自分も寝る事にした。
焦る必要はない。
これからもチャンスは幾らでもあるのだから。
待つのは慣れてる。
あの小屋に居た頃に比べたら、この位の事はなんてことはない。
「おやすみ⋯⋯。ソラ。」
もう一度、そう告げると目を瞑った。
初めて、寝るのが楽しいと思えた。
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