39.アナスタシア流・スパルタ教育
ダイアウルフを蹴散らし、先に進んでいると。
またもやアナスタシアは足を止め、ニコニコ微笑ながらある方角を指差した。
⋯⋯今回は数を教えてくれないと。
鞘から剣を抜き、指差した方角に向き直る。
アナスタシアは、杖を体の後ろで持ちながらユラユラ体を揺らしていた。
観戦モードだろうか。
俺1人で対処する事になりそうだ⋯⋯。
前回よりも早く、茂みが音を立て始めた。
音を聞き、盾を体の前に構えて身構える。
茂みから2匹のダイアウルフが飛び出して来た。
またも、唸り声を上げながら警戒している。
俺を中心に、2匹は挟み込むような形を作り出そうと、ゆっくりと移動する。
相手の有利な状況にさせる程、甘くは無いんだがな。
前回の様に着弾点だけを意識し、魔法を発動させる。
「〈
俺の体の横から、黒く輝く魔法陣が浮かび上がる。
黒い靄がダイアウルフ目掛けて飛び出し、ダイアウルフの1匹に命中する。
よし当たった。
当たった方を無視して、直ぐにもう1匹に向けて駆け出す、それと同時にもう一つの呪文を唱える。
「〈
体が軽くなり、一気に速度が上がりダイアウルフに肉薄する。
不意を突かれたダイアウルフも、直ぐに口を大きく開け、飛び掛かって来る。
突進する様に盾を構え、ダイアウルフと激突する。
ガンッと云う音が鳴り、盾を持つ手に衝撃が走る。衝撃を耐える様に踏ん張り、一気に盾を横に振る。
盾を横にずらされた事により、ダイアウルフの首元が見える形になった。
即座に、首目掛けて突き刺す様に、切っ先を突き立てる。
多少の抵抗は有るもののズブズブと、ダイアウルフの体に剣が沈んでいき、3分の1まで刺した所で一気に引き抜く。
引き抜いた傷から血がブシャッと吹き出し、ダイアウルフは地面に横たわり、少しの間体を震わせたのち息絶えた。
ダイアウルフが地面に横たわるのを横目に、残りの1匹に向き直る。
〈
〈
先の戦闘で〈
周囲の空間に黒く輝く魔法陣が、3つ浮かび上がり。
魔法陣から、拳程の大きさの黒い魔力の弾丸が撃ち出される。
最初の1発が命中し、ダイアウルフがのけ反る。
2発目は外れたが、3発目はダイアウルフに命中し、大きく体勢を崩す事に成功した。
手に持つ剣に魔力を込める。
刀身を黒く染め上げ、使用者と同じ属性をその身に宿す。
両の手で柄を握り、頭の上に振り上げ。
ダイアウルフは体勢を直ぐに立て直し、牙と爪を立て飛び掛かって来た。
飛び掛かって来たダイアウルフに、振り上げた剣を力任せに振り下ろした。
振り下ろした刃は、ダイアウルフの鼻先に当たり、少ない抵抗で頭、そして胴体と一刀のもと両断された。
⋯⋯いや、グッロ!目の前で体を真っ二つにされていくダイアウルフを目の当たりにしながら、返り血を全身に浴びていた。
魔力込めた剣の切れ味がヤバすぎる。
ーーーーーーーーーーーーー
レベルアップしました。
ーーーーーーーーーーーーー
おっと、久しぶりのレベルアップか。新しい魔法は⋯⋯。
⋯⋯何も無しか、そんなポンポン覚える物でもないか。
其れよりも、これで少し身体能力が上がるな。
「〈
返り血で汚れた体に〈
さっきから血まみれになってばっかだな。
「今の魔法の使い方すごくよかったね。次はもう少し数が多くても行けそうだね」
「⋯⋯え?もしかしてスパルタ教育始まってる?」
「スパルタ?スパルタってのが良く分からないけど⋯⋯。ソラならきっとやれるよ」
アナスタシア流スパルタ教育が開始した。
「待て!4体同時はまだ無理!!」
「違う!3体倒して直ぐ3体は6体同時と変わらんって!!」
「あああああ!5体は無理ー!」
「1体?こいつ上位種じゃない?違う?よく見ろデカさが倍あるぞ!?」
噛まれ、切り裂かれる度に回復ポーションで回復してもらい。
ダイアウルフとの戦いを生き延びた。
最後の上位種は結局アナスタシアが倒してくれた。速さが今までの3倍はあるし、何よりエンチャント無しの剣では浅くしか切れなかった。
「御疲れ様。そろそろ日も暮れて来たから、野営の準備しようか?」
俺を守るとは何だったのか⋯⋯。
こういう戦いからしか得られない経験値と云うものがあると思うが、それは今ではない気がする。
道案内と云う体なんですがねぇ。
前回シルバーファングと野営をした場所へと何とか辿り着き。
野営の準備をすることにした。
そういえば、前回はハルクさんが石の壁を作ってくれたが今回はどうしよう。
「そう言えば野営ってどうするの?」
昼の時みたいに氷の壁を作るかと思い、アナスタシアに尋ねる。
「ちょっと待ってね」
そう言うとアナスタシアは〈
「あった」
ズルっと〈
え、なにそれ。
「え、なにそれ」
思わず思ったことが口から零れる。
「私は野営する時に使ってる小屋だよ?中に道具とかいろいろしまえるから、〈
あー、なるほど。
そういう使い方も出来るのか。
思わぬライフハック的な使い方に唸った。
「後は念のために。〈
四方を囲むように、氷の壁が地面から凍り付きながら迫り上がって来た。
そのまま天井も包み、氷のドームが完成した。
アナスタシアの髪色と同じ色の氷が、太陽の光を反射させキラキラと輝いていた。
昼間も見たが相変わらず奇麗だな。
俺は暫しの間、氷をじっと見つめていた。
「どうかしたの?」
アナスタシアが隣に、ピタリと寄って来た。
ふわりと花のいい香りがした。
香水だろうか、この世界にもシャンプーとか有るのかな。
見かけた事は無いが。
そんな事は脇に置いといて、尋ねられたので素直に答えた。
「アナスタシアの髪みたいでキレイだな、と思ってな」
正直、元の世界で同級生にこんなセリフ言おうものなら「キモイ」だの言われるんだろうな⋯⋯、悲しい。
そしてお互い無言。⋯⋯つらい。セリフが臭過ぎたか。
唐突に肩に何かが当たる感触がした。横目で見ると、アナスタシアは自分の頭を俺の肩に乗せ、寄り添うように体を寄せて来た。
おっふ。え?いいんですか?今日頑張ったご褒美的な感じ?えー、なんか悪いなぁ。
俺は予想外の出来事に、心の中でてんぱっていた。
お互い無言のまま、暫くそのままでいる内に日が傾き始めて来た。
そろそろこの時間も終わりか⋯⋯。
名残惜しいがしかたない。
「そろそろ中に入るか?」
「⋯⋯そうだね」
アナスタシアは、パッと離れ小屋に歩みを寄せる。俺は、その背中を追うように着いて行った。
小屋の中はシンプルな造りをしていた。
窓際に机と椅子が置いてあり、少し大きめのベッドが1つ。
そしてトイレと小さいキッチンも付いていた。
普通に住めそうな小屋だな。
「ソラ。ちょっとお願いが有るんだけど」
「えっ」
俺はドキリとした。さっき良い感じの雰囲気だったし、もしかして何かある感じ?ドキドキしながら答えを待つ。
「えーと。着替えたいからちょっと、外出ててもらっていい?ごめんね」
「⋯⋯あ、はい」
外に出た俺は、誰に言うともなく呟いた。
「ま、そういうオチよな」
少し氷の壁に、頭を押し付けて冷やす事にした。
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