107.異世界知識で無双しようとしたら、異端扱いされた件

 思えば、夜の見張りを俺達だけでするのは初めてか。


 焚き火を3人で囲みながら思う。

 周囲の警戒をしないといけないが、この野営地の周りは石の壁でぐるりと囲まれている為、そう簡単に魔物が襲ってくることは無いだろう。


 それでも警戒はしないといけない。


 うーん、何だかレべルが上がるにつれて、夜目が効くようになってるな。

 これはあれか?闇属性だからレベルが上がると、体がそっち方面に慣れてくる感じか?


 とはいっても、ハッキリ見える訳では無いが、部屋の電気を豆電球にした時と、同じ位の薄暗さはある。


 端までうっすらと見えるから、これでもかなり便利だな。


 それに。

 俺はそのまま顔を上に向け、夜空を見上げた。


 夜空に輝く星々が、キラキラ輝いている。

 元の世界では、見たことも無いような星空を、この世界に来てから見る事が出来ていた。

 やっぱりスモッグとかが無いからかな?


 俺が夜空を見ているのが不思議なのか、シャロが俺の顔を覗き込む。


「どうかしたのー?」

「何がだ?」


「さっきから上ばーっか、見てるからさー」

「ああ、星を見てたんだよ。キラキラしてて綺麗だろ?」

 俺は素直に答えると、シャロも上を見上げながら答えた。


「星?星ってなに?あの光ってるやつ?」

「そうだよ、俺達の居る場所も星の1つなんだから」


「んー?どういう意味?」

「私にも、よく分からないのですが、どういう意味でしょうか?」


 あー、そうか。

 俺の知識は、元の世界基準だから天体の知識が有るが、この世界の人達はそういうのが分からないのか。


 という事は、この世界はもしかして地動説じゃ無くて、天動説が主流か?下手なこと言ったら異端扱いされるやつか?


 危ねー、[異世界知識で無双しようとしたら、異端扱いされた件]、が始まところだった。

 2人には、フワッとした答えで乗り切るか。


「あれよ、星ってのはな。⋯⋯そう!今まで偉業を成し遂げた人達の魂なんだよ。だからキラキラ輝いているんだよ」

「へー、そうなんだー」

「なんだか素敵ですね」


 よし、信じたな。

 俺の異端者ルートは回避された。


 その後、特に何も起きる事無く交代の時間となった。

 時々マリアさんが、何もない空間をジッと見つめていたが、きっと魔物の気配を察知していたのだろう⋯⋯。


 次の人達に見張りを引き継いだし、さっさと寝よう。

 再度俺達は川の字になって眠りについた。


 ◇


 ガランガランと鐘の音が聞こえた。

 全員起きろという合図だ。


 眠い目を擦りながら身を起こし、テントを丸ごと〈収納魔法アイテムボックス〉へと収納する。

 アナも小屋をこうしていたが、このやり方便利でいいな。


 準備を終えた人から馬車に乗り込み、全員が乗り終えたら馬車は出発した。

 今日も暇な時間が始まる⋯⋯。


 今日はシャロとマリアさんは朝から元気なようで、2人でアレコレ話していた。

 男の俺には理解できない内容もあるので、その光景をただ眺める事しか出来ない⋯⋯。

 俺の心の中のギャルはまだ寝ている様だ。


 そうしていると、不意にマリアさんが一点を見つめ出した。


 出会ってから何度も見た光景。

 加護による、魔物を見たら襲い掛かるというバーサーカーまっしぐらな呪いの副産物で、魔物の気配が何となくわかるのだそうだ。

 魔物を目視するまでは、物静かな清楚なシスターさんだが、魔物を目にすると奇声を発しながら襲い掛かる。


 これに関しては、最初に目を瞑るか、襲い掛かろうとした瞬間に〈盲目ブラインド〉で視界を塞げば、対処できる。

 抜け穴の有る呪いで助かったよ、ホントニ⋯⋯。


 そんな訳で、マリアさんが見つめる先には草原が有り、その向こう側には木々が生い茂る森がある。


「マリアさん、魔物居る感じですか?」

「はい、何となくですが。あそこに向かいたい衝動が有りますね」

 OK、マリアさんを止めるのを優先しよう。


「マリアさん、目を瞑っていてください」

「わかりました」

 そう言ってマリアさんは静かに目を閉じた。


 マリアさんが目を閉じるのを確認した俺は、馬車の屋根で周囲を警戒している狩人の人に、この事を伝えた。


「あん?俺は何も感じないが⋯⋯、あっちの森か?」

 そう言った狩人の人が、俺の指示した方角をジッと見つめる。


「おー、マジか。ホントに居たわ、お前良く分かったな」

「俺じゃなくて仲間が察知したんですけどね。それでどうします?」


「うーん、アレはこっちから手出さなきゃ大丈夫な奴だな。無視が一番だ、もっとも戦いたいなら話は別だが。どうする?」

「無視でお願いします」

 無駄な戦闘は避けた方が無難だしな、ここは無視一択だ。


「ハッハッハ。だろうな、一応警戒はしておくよ。知らせてくれてありがとな」

 そう言って狩人の人は、弓を手元に置き警戒を強めてくれた。


「マリアさん、目を開けてもいいですが森の方角は見ないでくださいね」

「はい、分かりました。危険はないという事で宜しいでしょうか?」


「ええ、手出ししなければ襲ってこないそうなので」

「そうですか。分かりました」

 そう言って、マリアさんは森とは別の方を向いた。


 シャロが森の方をジッと見つめ一言。

「あたしには見えない⋯⋯。何かコツとかあるの?」

「コツっていうか、呪いのせいで分かるってだけだろ。適材適所だ、お前は自分の仕事をしてろ」


「適材適所?ソラって変な言葉よくしってるよねー」

「⋯⋯爺さんが教えてくれたからな」

 俺の保護者の名も無き爺さん⋯⋯、そろそろ名前を考えておいた方が良いか?

 いっそ、アーサー・ペンドラゴンにしてみるか?この世界にアーサー王伝説何て無いんだし。

 どうせ架空の爺さんなら、設定を増し増しにしても良いだろう。


 良いな、俺の保護者がアーサー王。

 人目を避けて山奥で暮らしている時に、赤ん坊の俺を拾い、育て上げた。

 自分は王であった事を隠して、1人の赤子を立派に育てあげ、そして死んでいった。

 その赤子はいずれ、[白金プラチナ]ランク冒険者となり、世界に名を轟かせる。

 そうなったら草葉の陰の爺さんも、微笑んでいるだろう⋯⋯。


 俺は、居もしない架空の爺さんの設定を固めつつあった。


 正直、それ位しかする事がない。

 要は、スッゴイ暇なのである。


 馬車はガタガタと音を立てながら街道を進む⋯⋯。

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