106.向かうはモルソパ

 久しぶりに、シャロのモーニングコールで目を覚ました俺は、寝間着から冒険用の服へと着替えた。


収納魔法アイテムボックス〉内を漁り、忘れ物が無いことを確認してから、1階へと降りていった。


 1階に降りると、鎧を着たシャロと、寝起きでフニャフニャしているアナが椅子に座っていた。


「おはよう。アナ」

「おは⋯⋯、むにゃむにゃ」

 ⋯⋯まだ眠いんだな。

 シャロと2人で、アナの部屋のベッドへ運び、アナを寝かしつけてから、俺達は宿屋を後にした。


 朝もまだ薄暗いうちに、乗合馬車へと辿り着いた。


 マリアさんは、まだ着いていないようだ

 先に、モルソパ行きの札を買っておくか。

 今回は、交通費を依頼主が出してくれるので、無駄な出費が抑えられるな。


 冒険者が依頼で他の街に行く場合は、徒歩か乗合馬車しかない。

 その時の代金は、当然自分持ちだ。

 時折、今回の様に馬車代を出してくれる人もいる。

 それくらい、今回の依頼主はイキリマクリタケが必要なのだろう。何に使うんですかね?


 昔は、媚薬といわれていた植物や食べ物も、今では普通の食べ物として、出回っていたりするんだし、このイキリマクリタケもそんな感じだろう。


 今回の依頼が終わったら、加工の仕方を調べておくか。マルコさんあたりが知ってたりするかな?


「モルソパ行き、3人分お願いします」

「あいよー、魔女の眷属さんか、無事帰ってきてくれよ?じゃないと魔女が暴れるかもだからな。ハッハッハ」


 アナは理由も無く、暴れたりはしないんだけどなぁ。

 この前、訓練所で暴れたが、アレはアウラお嬢様に対してキレたからだし。


 俺はあの時シャロが言った言葉を忘れないだろう。


(止めに行った時に、どさくさに紛れておっぱい触れるかもよー)


 俺はその言葉を聞いて、迷いなく突っ込んだ。

 いや、本当によく突っ込めたわ。

 今思い出しても、なんであんな言葉で行こうと思えたのか⋯⋯。

 お互い、頭を殴られてたから、おかしくなっていたんだろう。


 結局触れずに、腰にしがみつくのがやっとだったし⋯⋯。


 そんな事はどうでもいい。

 俺は受け取った札のマークを確認した。今回は髑髏マークじゃありませんよーに!


 ×のマークだった。今回も駄目って事?


 ◇


 しばらく待ち、マリアさんがやって来た。


「おはようございます。すいません遅れてしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


「おはよー!」

「はい、シャロさんもおはようございます」


 マリアさんは、今日も物腰柔らかだ。

 ゲバルト派の人は、意外と物腰が柔らかいんだよな、魔物が相手だと修羅になるが。


 そんな訳で、我がパーティが全員揃った。

 出発まで、まだ時間があるし、今の内に朝飯にするかな。


「マリアさん、もう朝食は摂りました?」

「いえ、まだですね。道中で食べようと思っていたので」

「それじゃー、一緒に食べよー」


 俺達は、×印の掛かれた乗合馬車に乗り込み、朝食を摂った。

 マリアさんの朝食は、フランスパンみたいなパンに切れ込みを入れて、そこに肉を詰め込んだパワータイプなやつだった。

 ほんと、シャロ以上に食べるな⋯⋯。


 食事を終えたタイミングで、他の乗客も集まり出した。

 何人か見かけた事がある人がチラホラ、そんな感じだった。


 しばらくして。


「モルソパ行き発車しま~す」


 やっと出発か。

 馬車が動き出し、ドレスラードの街から離れ始めた。


 相変わらず振動がお尻に響くな。


 マリアさんが少し座り心地が悪そうにしている。

 俺は〈収納魔法アイテムボックス〉からクッションを取り出し、マリアさんに渡すことにした。


「良かったらどうぞ、大分マシになりますよ」

「良いんですか?ありがとうございます」

 マリアさんにクションを渡すと、シャロが袖を引っ張る。


「あたしのはー?」

「ちゃんとあるから、ほら」

「ありがとうー!」

 以前鉱山都市へ、行く時に使ったやつをシャロに渡す。


 俺の分は、枕使うことにした。

 寝る前に〈清潔魔法クリーン〉かけないとな。汚れてないけど。


 ◇


 馬車は街道を、ガタガタ音を立てながら進む。


 何もする事がないな。

 シャロとマリアさんは、お互い寄り掛かりながら眠っていた。

 俺は眠気がないんだよなぁ。


 なにか暇を潰せる物を、買っておけばよかったか⋯⋯。

 スマホやゲーム機何て物は存在しないし、小説はあるが、漫画という物は無い。


 でもなあ、本は高いんだよな。

 打ち込んだ文字を、紙に写せる魔道具が王都にあるらしいが、生産量が少ないから流通が少ない。


 しかも大体が、ラブロマンス物で貴族令嬢なんかが好んで読んでるとか。

 アナも結構持ってるらしいが、あれは[白金プラチナ]ランクの稼ぎがあるから出来る事であって、俺には1冊でもかなり悩んでしまう。


 紙を作り出す魔道具は結構な数あるから、手書きで本を作る人もなかにはいる。

 そういう人は趣味だったり、秘伝の書的なやつなので、一般では御目にかかれない。


 何が言いたいかというと、暇なのである。


 他の人達も、大体が寝てるか、無言で景色を眺めてる感じだ。


 魔物が現れたりしたら、慌ただしくなるだろうが、それで移動中が楽しくなるかといわれれば、そんな事は無い。

 むしろ到着時間が伸びるので、出来れば遭遇したくない。


 今回はそれなりに遠い街なので、昼食で止まることはせずに、そのまま野営地まで直行するそうだ。

 空を見てみると、そろそろ太陽が真上に差し掛かって来る頃だ。


 今日もいい天気だ。

 そろそろ2人を起こして飯にするかな。

 腹も膨れれば、少しは眠くなるだろう。


 俺は2人の肩をゆさぶり起こした。


 ◇


 夜。

 野営地予定に辿り着き、各々野営の準備を進めていた。


 昼間は特に何も起こらず、スムーズに移動する事が出来た。

 今回は、知り合いもすくないので、俺が料理番をする必要は無さそうだ。


 まぁ、その分夜の見張りをしないといけない。

 馬車の中で話し合い、俺達は2番目を担当することになった。


 夕食も摂ってあとは、見張りまで軽く寝ておこうか。

 最悪、昼間の馬車で寝ればいいから、そこまでキツいことも無いだろう。


 俺達は3人で、テントに入り寝る事にした。




「⋯⋯ちょっと待て」

 凄いナチュラルに、マリアさんも一緒のテントに入って来たので待ったを掛けた。


「どしたのー?」

「どうかされましたか?」


「マリアさんも一緒のテントで寝るんですか?」

 思えばマリアさんは、テントを出していなかったので、その時に気づくべきだった。


「え、ダメでしょうか?」

「いや、ダメというかなんというか⋯⋯」

 正直シャロだけなら問題ない、鉱山都市の時も何も起きなかった。

 マリアさんは歳上の女性で、スタイルも良いときた。堪らんよなぁ?


 出会ってまだ日が浅いから、変に意識してしまう。俺もお年頃なのだ。


「あたしが真ん中で、寝れば良いんじゃない?」

「なるほど」

 俺が真ん中で、寝る事を前提で考えてしまっていた。

 シャロを緩衝地帯にしたら、全て後丸く収まるか、その案で行こう。


「よし、シャロは真ん中で寝なさい」

「はーい」

「では、シャロさんお隣失礼しますね」


 俺達3人は、文字通り川の字ですこし仮眠を取ることにした。


 ◇


「おーい、交代の時間だぞ」


 テントの外から声がした。

 ⋯⋯交代の時間か。


「今行きます。シャロ、マリアさん起きて下さい」

 2人に声を掛けてから、テントの外に居る人の元へと向かった。


「じゃ、あとは頼むな」

「おやすみ〜、また明日ね」

「寝よ寝よ」

「ああ、そうだ。ほら、御者からの借り物だから壊すなよ?」


 そう言って渡されたのは、砂時計だった。

 ようはコレで、交代までの時間を管理しているのだ。


 コレも魔道具らしく、魔力を込めながらひっくり返すと、砂が落ち切るまで再度ひっくり返すことが出来ないという。


 交代の際に寝る側が、魔力を込めてひっくり返して渡せば、不正は出来ないという仕組みだ。


 そんな訳で、俺達3人だけの夜の見張りが始まった。

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