105.お兄さんの情報提供

 教会に挨拶をし、宿屋に戻って来た俺達を待ち受け居たのは⋯⋯。


 アイリさんのお兄さんが居た。


「お、帰って来たか」

「どうも、どうされたんですか?」

 お兄さんの反応的に、俺等に用事があるっぽいが⋯⋯、何か約束してたっけか。


「シャロ、何か約束してたか?」

「あたしは知らないよー?」


「いや、俺が勝手に来ただけだからな、気にしないでくれ」


 そうだったか、良かった約束をすっぽかしたのかと思った。

 この人には、冒険者ギルド内で世話になっているからな。


 ⋯⋯尚更何しに来たのだろうか。

 そう思っていると、お兄さんが口を開く。


「お前達が今度、モルソパの街に行くってアイリから聞いてな。そこに住んでる知り合いを教えておこうと思ってな」


 何やら鉱山都市に行く時も、こんなやり取りをした気がするな。

 あの時はヴィーシュさんがヴァルカンさんにって感じだったが、今回は誰だろうか。


「どんな方なんですか?」

「どんなか⋯⋯。会ってからのお楽しみって感じだな。まぁ、今回の依頼のイキリマクリタケの生息地位は知ってる奴だ。この手紙を渡すといい」


 そう言って、お兄さんは〈収納魔法アイテムボックス〉から手紙を取り出し、俺に渡した。


 おお、ちゃんと手紙の封を蝋で止めてあるやつだ。

 映画やドラマなんかで見た事あるが、実物を見るのは初めてだ。

 そんな俺を、お兄さんが不思議がる。


「手紙が珍しいのか?変わったやつだなお前は」

「いやいや、こうやって手紙の封を蝋でしてるの初めて見ましたから」


「いや、それが一般的だろ?」

「山育ちなもんで!」

 時々、俺が山育ちの世間知らずだという設定を忘れそうになるので、たまにこうして念を押しておく。


 手紙を〈収納魔法アイテムボックス〉に収納しながらお礼を言う。


「ありがとうございます。ところで、相手方の名前はなんて言うんですか?」

 手紙を渡すにしても、相手の名前が分からないんじゃ、渡しようが無いからな。


「ローズガーデンというクランを探すんだな。お前も冒険者なんだ、1から10まで教えてたんじゃ成長できないだろ?クラン名まで教えるんだ、後は自分で探すんだな」


 ぐぬぬ、確かに一理ある。

 お兄さんが来なければ、向こうに行ってから生息地を探す事から、始めなければいけ

 なかったんだし、それがクランを探すだけで見つかるなら安いものか。

 俺的には、1から10まで教えてほしんだがな。


「分かりました⋯⋯。そのローズガーデンってのに居る人に渡せばいいんですね?」

「そうだ、まぁ、正直渡すべき相手は、会えば、分かる⋯⋯」


 ⋯⋯?なんだか歯切れが悪いな。

 会えば分かるか。そんなにキャラが濃い人物なのだろうか。

 いや待てよ⋯⋯、ローズガーデンって事は薔薇か。


 もしやすごい美人さんが待っていたりする?おほー、テンション上がってきましたな。

 そんな俺の心の声をシャロは素早く察知する。


「アナちゃんに」

「んなわけねーだろー!あくまで手紙渡して情報貰うだけだってのー!」


 何だコイツ⋯⋯。

 変な所で感が鋭すぎる、恐ろしい子⋯⋯。


「情報提供ありがとうございましたぁ!」

「お、おう。俺が出来るのはここまでだから、あとはがんばれ」


「ありあしたー!」

 アイリさんのお兄さんは帰った。


 そんな感じで、新しい情報を仕入れることが出来た。

 明日向かうモルソパの街。

 流石のアナも、この街に家は持ってないというので、宿屋を探すところから始めないといけない。

 毎度そういう当てがあるとは限らないので、仕方ない事だ。


 部屋割りどうするか⋯⋯。

 俺とシャロは最悪一緒でもいいが、マリアさんをどうするかだな。

 さすがに3人部屋はな⋯⋯。


 いくら考えても本人が居ないので、行きに考えることにした。なるようにな〜れ。


 その後は、アレックス君と夜の営業の仕込みを手伝い、早めに夕食を摂ってから寝る事にした。


 また明日から、馬車の旅が始まるのか。

 そういえば、マリアさんのクッションは、作ってないな⋯⋯。

 俺は自分の枕使うかな。



 ◇


「ソラー!起きてー!」


 扉をドンドン叩く音と、シャロの声で目を覚ました。


 ベッドから身を起こし、扉に向けて歩き出す。

 シャロに起こしてもらうのは、なんか久しぶりな気がする。

 最近は鐘の音で、自然と目が覚めるのでシャロが起こしに来る回数が減った。

 それ以外でも、宿屋の仕事が増えてる様なので、俺の世話にまで手が回らないのだろう。


 そんな訳で扉を開けると、シャロが立っていた。

「おはよう」

「おはよー!」


 朝イチで、シャロの元気な笑みが見れるのは、俺だけの特権なのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る