101.知り合いで終わればいいね

 疲れた体をベッドから起こし、普段着に着替えた俺は夕食を摂る為に、1階へと向かった。


 1階へ降りると、既に4人掛けのテーブルにマリアさんとシャロが座っていた。

 マリアさんは先に座ってもらったが、シャロはもう着替えを終えたのか。

 RPGゲ―ムの女性用鎧の様な感じだったが、それでも俺の防具よりも身に着ける物が多い。

 多分部屋に脱ぎ散らかしているんだろう。


 その2人の座っているテーブルへと向かい、俺が普段座っている位置に着席する。

 よっこらせ。


「お待たせ、シャロ着替えるの早かったな」

「脱ぐだけだからねー」


「あの⋯⋯。料理を注文してもよろしいでしょうか?」


 俺が席に着くまで、マリアさんはずっとメニューを見ていた。

 多分俺達が戻って来るまで、注文するのを我慢していたんだろうか。


「いいですよ、何にします?」

「ええっと、コレとコレとコレとコレとあと、コレも⋯⋯こっちも追加で」


 ⋯⋯めっちゃ食うな。 

 シャロでもそんなに食べないんだが。


「あ、その⋯⋯。加護のせいで、その、お腹が凄く空きやすいので⋯⋯、すいません」

「そうなんだー、じゃあ一杯食べないとだね!」


 折れた腕を即座に治せるレベルの加護だからな、それ位のデメリットで済むなら問題ないな。

 回復に使った分のカロリーを、欲している感じかな?


 マリアさんの分とは別に、俺とシャロの分も注文する。

 しばらくして、料理が続々運ばれてきた。


 テーブルの上が凄い事になっている。

 その光景を見て、マリアさんは目を輝かせていた。


「わあ、すごいですね。初めて見る料理ばかりです」

「どれもお兄ちゃんが、作ってるから美味しいよー」


「そうなんですか?では、創造神様に感謝を⋯⋯」


 そう言ってマリアさんは手を胸の前で組み、何やらブツブツ唱え始め、祈りを捧げた。

 聖職者っぽい⋯⋯。


 元の世界に居た頃は、宗教何て微塵も興味なかったし、食事の度に祈りを捧げるのもめんどうじゃね?と思っていた。

 異世界であり、魔法も使えるこの世界は、もしかしたら神様と云うモノを身近に感じる事が出来るのかもしれない。


 そもそも、日本人である俺に一神教というものがあまり理解できない。

 神様何て1人よりも、一杯居た方がお得じゃね?と思ってしまう。

 この辺の感覚は、日本人特有のものなのかもしれないが、俺はお得な方が良い。


 転移時に、創造神に出会っていない訳だし、折角異世界から来た、外来種の俺に何か寄越せよと言いたくなる。


 無い物を強請っても仕方ないので、今あるモノで生きて行くしかない。

 そう考えている内に、マリアさんの祈りが終わり。


 フォークを握りしめ、言った。


「創造主様の作り賜った、魔物以外の。この世の全ての命に感謝を」


 俺とシャロもそれに続き。

「「いただきます」」


 夕食が開始された。


 ◇


 いやー、マリアさんめっちゃ食うな。

 シャロ以上に、食べる食べる。

 聖職者だから粗食を重んじるとか、そんな事は無く、肉だろうと何だろうと食らいついていた。

 良い食いっぷりだし飲みっぷり。

 これはシャロをも超える逸材やもしれない⋯⋯。


 そう思って酒を片手に眺めていた、俺の肩に冷たい物が乗った。


「ソラ。その女、誰?」


 ⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯。

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯酒でポカポカしていた体が、一気に冷えるのを感じた。


 コップを口に付けたまま固まる俺は、シャロに目配せをする。

 お前から事情を話してくれ。その思いを目に込めシャロを見る。


 そんな俺の視線を受け、シャロは一つ頷き⋯⋯。

 食べるのを続行した。


 ⋯⋯はー、っつかえ!

 マリアさんが、自己紹介をしてくれるかと思ったが、コチラも口いっぱいに頬張っていた。


 俺はコップを静かにテーブルに置き、肩に置いた手を握り、振り返りながら言う。


「お帰りアナ、コチラの女性は。最近この街に来た教会の方でな、アイリさんからの頼みでゴブリンの森を案内したんだよ。まぁ、折角だからな、夕食でも一緒にしようと思ってな、ここに招待したんだよ。別に変な意味とかではなくな、ただ一緒に夕飯でも?的な?変な意味はないんだよ。本当にただ夕食をってだけなんだよ。ほらシャロからも何か言ってくれよマジで、頼みますよホント」

「概ねそのとおり」


 「クッソみたいな肯定をありがとう」

 俺達のやり取りを見ていた、マリアさんが口を開く。


「初めまして、私はマリアと申します。お2人に案内を御願いしたのは私なので、あまり責めないであげてください」


「⋯⋯アナスタシア・ベールイです。[白金プラチナ]ランクの冒険者をしています」


 心なしか、[白金プラチナ]ランクを強調していたように聞こえた。


「まあ![白金プラチナ]ランクの方だったのですね、私の様な者に声を掛けて頂き、ありがとうございます」


 おお、動じないのか。

 アナもマリアさんの態度に、少し対応を軟化させていた。


「⋯⋯それなら、まぁ。あの、その、ごめんなさい」

「何か謝られる様な事をされましたか?」


 強いな⋯⋯。

 アナ相手でも、グイグイいける人物は貴重だ。

 そこで、シャロがコップをグイッとあおり、テーブルに置くと、言った。


「アナちゃんも一緒にご飯食べようよー」

「え?ああ、そうね、そうします⋯⋯」


 アナも普段の定位置に座り、メニューを手に取り、顔を覆った。

 少し耳が赤くなってる。

 なんか勘違いして、恥ずかしくなったのかな?可愛いね。

 俺は肩を摩りながらそう思った。


 その後4人でテーブルを囲み、夕食の続きをした。


 ◇


 俺達は食事を終え、各々の帰る場所へと帰って来た。

 シャロは寝る様だし、アナは何か最新刊を読むとか言ってた。

 マリアさんも教会へと帰るというので、送ろうかと言ったが。


「いえ、自分の身は守れますので。それにこのネックレスを付けてると、そういった輩に襲われることはありませんので」


 ああ、そうね。ゲバルト派の証である。

[メイスを握り締め、血の様なモノが足れている紋様の施されたネックレス]

 これを身に着けているという事は、教会所属の人間である証だ。


 1人で勝てぬのなら、2人で。

 2人で勝てないのなら、4人で。

 4人で勝てぬのなら、教会全員で。


 その教えの元、やられたらやり返す。

 それがゲバルト派。

 関わり合いになりたくない⋯⋯。


 関わり合いたく無かったが、知り合いになってしまった。

 マリアさんも結構美人なんだよな。

 年上で、物腰柔らかく。少しタレ目がちな赤い瞳でじっと見られるとドキッとしてしまう。

 アナより胸は小さめな感じもするが、それでもデカい。


 戦闘中は胸当てで、動かない様にガッチリ固めていたみたいだが。

 私服に着替えた後は、なかなかだった。良いおモチをお持ちで。


 他の人達よりはマシだろうか。

 ヤッベ―女だがそれは魔物に関してだけだし。

 知り合いのポジションを、キープしておけばいい話だな。


 そんな訳で、マリアさんは1人で教会へと帰って行った。


 俺もそろそろ寝よう。

 ベッドに横になり、今日一日の出来事を振り返る。

 そういえば、ハイゴブリンをあっさり殺す事が出来たな、俺もちゃんと成長出来てるんだな。


 最初の頃に比べて、自分が着実に強くなっていると実感しながら。


 俺は眠りについた。

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