100.2度目のハイゴブリン

 茂みの中からハイゴブリンが現れ。


 何でこんなタイミングで出てくるかな⋯⋯。

 距離はまだあるし、コチラに気づいた様子はない。

 ハイゴブリンを視認できたので、マリアさんの様子を見る。


 ⋯⋯よし、襲い掛からないな。

[魔物を見ると襲い掛かる]やはり、この呪いには穴があるタイプか。


 加護の呪いは、割とこういう穴があったりする。

 シャロの様に[恐怖心の欠如]といった、初めから何かを無くしている呪いはどうしようもないが、こういう[何かをすると何かが出来ない]みたいなのは回避できる場合がある。


 例を挙げるなら。

 アウラお嬢様は、呪いで[武器の類が持てない]だが、籠手を武器の様にして殴る事が出来る。グローブに関しても同様だ。

 籠手が武器ではなく、防具判定をされているのだろう。


 そういった理由で[魔物を見ると襲い掛かる]も、要は魔物を見なければ、襲い掛かるという部分が発動しないのだろうと思った。

 実際成功した。


 成功したが、ソロで魔物を目の前にして目を瞑るなんて出来ないので、あまり有効な手段ではないか。

 パーティならいけそうだが、同じ教会の人達からは避けられてるらしいからな⋯⋯。


 まぁ、遭遇時の突撃が無くなるだけでも大分マシ、か?シャロがタゲ取った後に目を開ければいい訳だし。


「やっぱり目を瞑ってると襲い掛からないな」


「という事は、魔物がいるのですか?」

「気づかれてないけど、ハイゴブリンが居るねー」


「ハイゴブリンですか?私まだ、見た事無いんですよね」

「あっ」


 ⋯⋯目を開けやがった。


「!?」

 マリアはシャロの後ろから飛び出し、ハイゴブリンへと襲い掛かりに行った。

 こ、この女!ふざけやがって!

 俺は直ぐに後を追うように駆け出しながら、シャロに指示を飛ばす。


「シャロ!あいつのタゲ取り頼む!」

「はーい!〈挑発タウント〉!!」


 ハイゴブリンはシャロの〈挑発タウント〉により、コチラの存在に気づき襲い掛かって来る。


「〈盲目ブラインド〉!」


 マリアさんとハイゴブリンの接触が先に起こる為、ハイゴブリンの視界を奪う為、〈盲目ブラインド〉で牽制する。


盲目ブラインド〉を受け、視界が奪われたハイゴブリンはその場で立ち止まり、手に持つ棍棒を滅茶苦茶に振り回し始めた。


 そんな事、意にも介さずにマリアさんは、ハイゴブリンへと殴りかかった。

 マリアさんのメイスは、ハイゴブリンの頭を、ハイゴブリンの棍棒は、マリアさんの左腕に当たり、お互い相打ちの形で武器を叩きつけ合った。


 お互いの武器の威力により、ハイゴブリンは頭の半分を損傷し。

 マリアさんは棍棒の勢いを受け、近くにあった木に叩きつけられた。


 俺はマリアさんの攻撃により、ふらついているハイゴブリンの首に向け、剣を振る。

 ハイゴブリンの首へと刺さった刃は、思いのほかあっさりと、首を両断した。


 斬り飛ばした首が飛び、胴体は力なくその場へと崩れ落ちた。


 俺は思いのほか、あっさりと倒せた事に感動する暇もなく、すぐさまマリアさんの側へと駆け寄った。


「マリアさん!大丈夫ですか?!」

「はい~、私は平気です~」


 思ったよりも軽い返事が返ってきた。

 木に叩きつけられた衝撃で意識が変になっている、という訳でもなさそうだ。

 マリアさんはメイスを杖変わりにし、平然と立ち上がった。


 立ち上がったが⋯⋯、左腕が変な方向に曲がっていた。


 俺は直ぐにヒールポーションを手に取り、マリアさんの腕に掛けようとしたが、マリアさんはそれを手で制すると、こう言った。


「あ、大丈夫です。ほっといたら治るので」


 ???いや、確かにほっといたら完治するだろうが、それだと時間がかかり過ぎるし、形も整えないといけない訳で。俺は頭に?マークが浮かんでいる。


 そう言ったマリアさんの腕は、少しの赤い煙と共に元に戻り始めた。


「⋯⋯へぇ?」

 思わず間抜けな声が漏れた。

 う、腕が治っていく、回復魔法やヒールポーションを使っていないというのに、一人でに曲がった腕が、元の腕の向きへと戻り始めている⋯⋯。


 俺はその光景を、ポカーンと見つめる事しかできなかった。


「えー!なにそれ、いいなー!」

 遅れてやってきたシャロが、その光景を目の当たりにし、能天気な感想を述べた。

 ⋯⋯確かに、傷が勝手に治るのいいよね。俺は考えるのをやめた。


「申し訳ありません。折角うまくいっていましたのに⋯⋯」

 マリアさんからの謝罪を受け。

 ハイゴブリンから何とか討伐部位を剥ぎ、魔石を回収してから、今日の狩りを終える事にした。


 帰り道も、魔物を見つける度に、マリアさんは襲い掛かっていった。


 もうこの人、目隠しして連れて帰ろうか⋯⋯。

 そんな考えが頭を過る。

 そりゃ同じパーティ組みたくないよな⋯⋯、やり過ごすってことが出来なくなるわけだし。


 なんか変に疲れる一日だったな。


 ◇


 何とか街へと戻ってこれた。

 最後は布で目隠しすることになった。

 変態チックだが、そんなこと言ってる余裕はない。


 目隠しをされて、シャロに手を引かれながら歩くシスター。

 ⋯⋯悪くなかったな。

 あの光景が見れただけで、今日は良しとしよう。


 3人で冒険者ギルドへと向かい、今日の成果を収めた。

 大半の魔物を、マリアさんが仕留めていたので、報酬は向こうに大目に渡すつもりだったが。


「いえ、今日は私のお願いを聞いていただいたわけですので、3等分でお願いします」


「⋯⋯わかりました。あ、それじゃあ夕飯一緒にどうですか?」

「サービスするよー」

 俺とシャロは殆んど何もしてないんだし、夕飯を御馳走する位はいいだろう。

 もっとも来てくれればだが。


「そうですね⋯⋯。では、お言葉に甘えますね」


 そういう事になった。


 ◇


 流石に冒険終わりの格好のままでは、ゆっくりできないので。

 マリアさんは一度教会へ戻り、着替えてから行くことになった。


 教会に着き、マリアさんが着替え終わるまで待っていると、教会の人だろうか、年配の神父さんがに話しかけられた。


「もしかして、あの子と一緒に組んでくれたのかい?」


「あー、組んだというか。ゴブリンの森を案内した感じですね」


「そうだったのか。あの子は加護の呪いのせいで苦労しているからね。⋯⋯それ以前もだが」


 最後の言葉はよく聞き取れなかったが、やっぱりあの呪いじゃ苦労するよな。

 取り合えず、今日分かった対処法を教えておいた。


「なるほど⋯⋯、魔物を見ない様にするだけでいいのか。本当にありがとう。今日1日一緒だっただけで、そこまで分かるなんてきっと相性がいいのかもしれないね」


 ⋯⋯押し付けようとしている?いや、神父さんなんだし、本当にそう思っているだけか。

 神父さんと話していると、マリアさんが戻って来た。

 シスター服、ではなく普通の街娘みたいな恰好だった。

 普段着がシスター服というわけでは無いのか。


 戻って来たんだし、サッサと宿に戻りますかな。

 俺は神父さんに別れを告げ、その場を後にした。


 陽も暮れ始めた頃に、俺達3人は[シャーリー亭]へと戻って来た。


 店も混み始める時間帯だが、何時もの机には誰も座ろうとしていなかった。

 理由は明白、アナが何時もその席に座っているからだ。今日はまだいないが。


 俺とシャロも着替えたいので、その席にマリアさんを座らせ、自分の部屋へと着替えに戻った。


 俺は自室に戻り、防具を脱ぎ捨て、〈清潔魔法クリーン〉で一日の汚れを落としてから、ベッドへ倒れ込んだ。

 あー、疲れた。

 皮の防具から鉄の防具に変わり、結構負担が増えたのもあるが、一番疲れたのがマリアさんの魔物に対する、問答無用の突撃の対処だ。


 集団だろうとお構いなしに突っ込むので、普通に攻撃が集中する場面が多々あった。

 最後ら辺は、さん付けで呼ばなくなっていた気がする。


 最終的には、マリアさんが駆け出すとシャロも一緒に駆け出す様になっていたし、並走しながら〈挑発タウント〉で、マリアさんへの攻撃をかなり減らす戦い方をしてくれていた。


 俺は外側から〈盲目ブラインド〉と〈闇弾ダーク・バレット〉での牽制を主にしていた。


 そんな事もあり、正直疲れた。

 今日は、飯食って早めに寝よう。

 そう結論ずけ、俺は部屋着に着替えてから1階へと降りて行った。


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