99.教会のシスター[マリア]
「初めまして、マリアと申します」
そう名乗る女性は、どうやらシスターさんの様だった。
⋯⋯シスターか。って事はこの街の教会の関係者だよな。
この世界にも宗教はある。
世界を作ったとされる創造神、それを崇めるのがこの世界の主な宗教だ。
俺は一度教会に行ったことはあるが、入ったことはない。
入り口付近を、フルプレートの鎧を着た人達がうろついていたから、入りづらかった。
てっきりお祈りに来た人達かと思ったが。
シャロが言うには、あれがこの街の聖職者の姿らしい。
そんな人達が所属する宗派が、この街の教会の運営を担当している。
元の世界でもそうだったように、崇める神が1つでも考え方や捉え方の違いによって宗派が別れる。
この世界では、大きく分けて3つの宗派が成り立っている。
1つ、シンビオシス派
2つ、スプレマシー派
3つ、ゲバルト派
シンビオシス派。
この世界を作った創造神の元、皆が手を取り合い生きていくことを目的とした宗派。
中立的な思考の持ち主が多い。
スプレマシー派
創造神より作り出された、人類こそがこの世の至上とする宗派。
過激な思考の持ち主が多い。
ゲバルト派
創造神が作り出した、この世界に沸く蛆虫(魔物)を、1匹残らず根絶やしにする事が使命と考える宗派
魔物絶対殺すべしの思考が殆ど。
基本はこの3つで、殆どの人がどれかの宗派に入っており、そこから更に創造神以外の神を信仰する考えに、枝分かれする感じになっている
創造神+農業の神、或いは鍛冶の神など、それぞれの分野の神を信仰する人が殆どだ。
そしてこの街にある教会の宗派は、ゲバルト派。
冒険者ギルドに冒険者として登録もしている、生粋の武闘派集団。
武闘派集団だが、仲間を大事にする意志が強く。
身内が1人でも、誰かに危害を加えられたのなら、総出で囲み棒で叩くとか。
右の頬を打たれたのなら、左の頬を集団で殴り返す。
やられたらやり返す、そんな宗派だ。
その宗派の所属であろう、女性が目の前に居た。
他の人達が断ってた理由はこれか⋯⋯。
「ソラといいます」
「シャロでーす」
「本日は私のお願いを聞いて頂き、ありがとうございます」
⋯⋯あれ?思ったよりまともだ。
もっとヒャッハーな感じかと思ったのだが、実際他の人達はそうだし。
「ええっと、ゴブリンの森に案内。で、いいんですよね?」
「はい、お手数おかけします。何分この街に来たばかりなので右も左も分からない状態でして⋯⋯」
なるほど、そういう感じね。
いや待てよ⋯⋯、なんで同じ教会の人達と行かないんだ?
詳しく聞かない方がいいか、面倒事になりそうだし。
「もう出発しますか?それとも明日とかでもいいですが」
「今からでも大丈夫です。お2人はそれでもよろしいでしょうか?」
「俺達は問題ないです」
「オッケーでーす」
そんな訳で、俺達3人はゴブリンの森へと向けて出発することになった。
◇
森の入り口付近に到着。
ここまで、魔物に出くわす事も無く平和に着くことが出来た。
道中でシスターさん、もといマリアさんの話を少し聞くことが出来てた。
年は俺の2つ上で19との事で、3日前にこのドレスラードに来たのだという。
色々と教会での手続きも終え、今日ようやく冒険者としての活動を始めたのだそうだ。
そんな感じの話を道中していた。
「教会の人と一緒に行かないんですかー?」
シャロが効きづらい質問をする。
俺でも触れるか迷ったのに⋯⋯。
「ええ、お恥ずかしながら。私、他の方々から避けられていまして⋯⋯」
⋯⋯⋯⋯気まず。
ボッチな事を本人の口から聞くのはきついって。
「そうなんですねー、あたしもソラだけが組んでくれたんですよー」
「まあ、そうなんですか?では私も、ソラさんが初めての方ですね」
ふーん、俺が初めての男ねぇ。
意味合いは違うが、まぁ、悪くないかな?そういう意味では、アナもそうなるのかな?
森の中を話しながら歩いていた俺達だったが、不意にマリアさんが立ち止まり、ある方向をジッと見ていた。
「どうかしましたか?」
俺とシャロも足を止め、マリアさんが見ている方向を見る、これと云って違和感は感じないな。
マリアさんは無言でジッと、見つめたまま動かずにいた。
「多分、あっちに魔物が居ますね」
⋯⋯もしかして索敵出来るのか?
だとしたら、今俺達のパーティに欲しい人材だ。
これは思わぬ掘り出し物と出会ったか?
そう思っていると、遠くの茂みが揺れているのが見えた。
おお!まさか本当に魔物が居たのか?
そして、茂みからゴブリンが3匹現れた。
俺は、本当に魔物が出たと驚いたが。
それよりも驚く行動をする者が居た。
「ヒャア!殺してきます!!!」
マリアさんがその場からダッと駆け出し、ゴブリンへと向かって行った。
その瞬間、俺は理解した。
コイツはヤベ―女だと。
ゴブリンとの距離を詰めたマリアは、腰に下げていたメイスを手に持ち、ゴブリンの顔面目掛けてフルスイングした。
ゴブリンの1匹は頭が爆ぜ、そのまま絶命。残りのゴブリンも直ぐに、マリアに向かって襲い掛かるも。マリアは1匹の頭を手で鷲掴みにし、もう1匹には前蹴りを食らわせ蹴り飛ばす。
そのまま、鷲掴みにしたゴブリンを振り回し、近くの木に頭を叩きつけ、まるでトマトを潰す様にゴブリンの頭を叩き潰した。
メイスを両手で握りしめ。最後の1匹の頭上へと振り下ろされた。
瞬く間に、ゴブリンの首から上が無い死体が3つ出来上がった。
⋯⋯なるほど、戦闘力は問題なしと。
「おー、すごいねー」
シャロが暢気な声をあげている。
さて、教会のシスターで、尚且つヤベ―女だと分かった訳だが。
⋯⋯なんで俺の周りはヤベ―女が多いの?シャロとアナは、うーん、一応除外しておこう、そうなると。アウラお嬢様とマリアさんだけになるか。
そう考えると別に多くはない、か?シャロとアナ入れたら4人になるが⋯⋯。
取り合えず、マリアさんの元に行くか。
「シャロ、行くぞ」
「はーい」
俺とシャロはマリアさんの元に行くと、マリアさんは俺達に頭を下げた。
「す、すいません!私⋯⋯、魔物を見ると襲い掛かりたくなるんです」
あの宗派ならそうなんだろうな。
たしか、魔物は積極的に殺せ。だったか?
頭おかしいのしか、居ないってもっぱらの噂だ。
見た目は清楚なシスターさんなのに⋯⋯。
その後も、マリアさんと共に森を散策していると、魔物が出る度にマリアさんは突っ込んでいった。
ゴブリンは基本頭を潰されるので、討伐部位の採取が不可能な個体が多く。
ワイルドボアくらいだな、原形をとどめているのは。
うーん。マリアさんのコレって、もしかして。
俺はある事に気づいたので、本人に聞いてみる事にした。
「マリアさん。マリアさんのそれってもしかして加護のせいですか?」
俺がそう言うと、マリアさんは驚いた様な表情をし、認めた。
「⋯⋯はい、私の加護の呪いが[魔物を見ると襲い掛かる]というものなんです」
「そうなんですね⋯⋯」
加護の呪いか⋯⋯、それなら俺にはなにもできんな。
しかし、[魔物を見ると襲い掛かる]か、多分相手が強くても問答無用で、襲い掛かりたくなるんだろうな⋯⋯。
仲間達に避けられてる原因コレか。
[魔物を見ると襲い掛かる]、見えなかったら襲い掛からないんじゃ?
加護の呪いは、割とそういう穴があったりすると聞く。
試してみるか。俺はマリアさんにその考えを話した。
「マリアさん、次魔物の気配がしたら目を瞑ってもらってもいいですか?」
「目を、ですか?⋯⋯いいですけど、何かお考えでも?」
「ええ、[魔物を見ると襲い掛かる]っていうなら、見なきゃ良いんじゃない?と思いまして、まぁお試しって事で」
マリアさんは少し考える仕草をし。
「分かりました。私もその方法は試したことが無いのでやってみます」
よし、これで解決すると良いが。
そりゃ魔物を前にして目を瞑るとか自殺行為だしな、そりゃ試さんわな。
そこから更に探索をおこない。
不意にマリアさんが立ち止まり、視線を別方向に向ける。
「マリアさん、目を瞑ってください。
シャロ、マリアさんを守ってくれ」
「わかりました」
「はーい」
マリアさんは、シャロの側に移動し目を瞑る。
茂みがガサガサと音を立て始め、1体のハイゴブリンが現れた。
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