102.仲間認定されてます?

 夜が明けた。


 何時もの様に、俺とシャロは冒険者ギルドへと来ていた。


 昨日は、アイリさんの頼みにより、教会のシスターマリアさんと共にゴブリンの森で狩りをした。


 加護の呪いのせいで、魔物を見ると襲いかかってしまうが。

 目を瞑る事で其れを回避出来るという事が解った。


 最初、〈盲目ブラインド〉をマリアさんに撃てばいいかとも思ったが、魔物が出る度にそれをしていたのでは、魔力の消費が無駄だ。

 目を瞑るだけで済むなら、そっちのが楽だし。


 そもそも効果が5秒位しか続かないので、目を瞑る方が遥かに効率がいい。

 コスパって大事よね。


 そんな訳で、俺とシャロは[アイアン]ランクの掲示板を眺めていた。


[ダイアウルフの討伐][ゴブリン討伐][ビリビリムギの採取][ヴゼコユリの実の採取]

 討伐系は一度倒した事がある魔物ばかりだな、結構俺達は格上を倒していたって事になるのかな?

 採取系は⋯⋯、見た事無いのばかりだ、ウゼコユリってなんぞ。

 基本ヒールポーションと、マナポーションの材料位しか、採った事無いからな。

 ここ等で一度、そういうのもやっておいた方が良いかもしれないな。


 そんな事を考えていると、後ろから声が掛かった。


「ソラさんにシャロさん。おはようございます」


 声のした方を向くと、マリアさんが立っていた。


「おはようございます」

「おはよー」


「マリアさんも何か受けに来たんですか?」

「はい、この街の周辺の地理を覚えたいので、色々と受けようと思いまして」


 真面目な人だ。

 俺ですら何んとなくで覚えたのに、自分から積極的に覚えに行くとは。

 そんな俺達3人の後ろから、スーッと誰かが近寄って来た。


「おはようございます!ソラ君にシャロちゃん、マリアさん!今お暇ですか?!」


 ⋯⋯アイリさんだった。

 手に何かの紙を持っている。


「⋯⋯おはようございます。何か用で『はい!実はお勧めの依頼がありまして』も」

 食い気味で来た。

 また何か依頼を押し付ける気の様だ。

 内容だけは聞いとくか。


「⋯⋯内容によりますね」

 流石にな、受ける、受けないは内容による。

 報酬が美味しい物なら良いのだが⋯⋯。


「はい、とある薬草の採取依頼なのですが、生息地が別の街にありまして。一応、全員に聞いて回っているのですが、皆さん受けてくれないんですよ。なので、もし良ければ受けて貰えませんか?」


「別の街ですか、それってどれ位の距離の街ですか?」

「ここから、乗合馬車で約4日程の所にある町ですね。それと、今回は移動の馬車代も、依頼主が出してくれるそうなので、そういった意味では少しだけお得ですね」


 なるほど、移動費も経費で出るのか。

 見た感じ報酬もそれなりにある。あるんだけどな⋯⋯、誰も受けないというのが気になる。

 アイリさんなら素直に教えてくれるか。


「皆さんが受けない理由って何ですか?」


「⋯⋯⋯⋯えーっとですね。その街を治める、領主貴族の評判があまり良く無いので、そういった意味で、皆さん嫌煙なされてまして⋯⋯」


 貴族がらみの問題か。

 流石に貴族がらみの問題は俺も避けたい、アナが一緒に行けば良いかもしれないが、そんな理由で着いて来てもらうのも悪いしな。


 俺が唸っていると、マリアさんが声を挙げる。


「でしたら、教会を頼ってみては如何でしょうか。教会所属の人間に手を出す貴族様はあまりいませんし、特に私の所の宗派は、揉めるのは面倒だと言われていますので」


 ⋯⋯ゲバルト派の力を借りるのか、改宗しろと迫られるんじゃないだろうか。

 そんな俺の不安を他所に、シャロは問題なしといった感じだ。


「それじゃあ、その依頼受けようよー。他の街にも行ってみたいしー」

「はい、教会には私の方で話を付けておきますね」

「本当ですか!いやー流石ですね。誰も受けてくれないので、報酬上げても誰も受けないので依頼主からも、かなり圧掛けられていたので本当に助かります」


「それじゃ―、準備していこー!」

「そうですね、今回もご一緒させていただきます」

「それでは宜しくお願いいたします」


 ⋯⋯俺の意見は?

「ねえねえ、俺の意見は?」


「良いじゃん、行くでしょ?」

「ダメ⋯⋯でしょうか?」

「兄さんに泣きつくかもしれません⋯⋯」


 3対1か。

 ハァ⋯⋯、仕方ない。報酬もそれなりに良いし、貴族関連も解決できそうな方法あるなら受けてもいいか。


「わかったよ、それじゃいつ出発する?」

「あー、何時がいいかな?」

「私は何時でも大丈夫です」

「早めの出発でしたら、何時でも大丈夫ですよ」


 それなら今日と明日は一日準備に当てるか。

 とある薬草の情報も調べたいし。

 アイリさんに聞けば教えてくれるだろうか。聞いてみるか。


「アイリさん、その薬草ってのはどんな物なんですか?」


「えーっとですね、名前が⋯⋯イキリマクリタケというキノコですね。要は精力剤の原料になるものですね。見た目の絵がありますので、明日までには写しを用意しておきますね」


 イキリマクリタケ⋯⋯、何て名前のキノコだ。

 コッチには女子が2名も居るんだが⋯⋯、シャロの教育に宜しくない、見た目をしていたらどうしよう。


「それっておいしいの?」

「味が良いと、いいのですが⋯⋯」


 この2人は、何故か食べる気満々だ。

 精力剤に使うのなら、食べさせないほうが良いな。


 それじゃ、今日はもう準備を始めた方が良いか。

 街まで4日だからな、料理もそれなりに用意しないといけない。

 マリアさんの分も作るべきか?


 買い出しに付き合ってもらうか。


 俺達はアイリさんに別れを告げ、市場へと向かった。


 ◇


「行きと帰りの分の食材買うぞー」

「おー!」

「はい」


「あ、私の分はちゃんと出しますので。会計は別でお願いします」

「わかった」


 俺達は、市場をブラブラしながら色々と食材を買い込む。

 目新しいのはあんまりないな。

 未だに醤油や味噌は見つかっていない訳で、次行く街に有ると良いな。

 味噌汁飲みたい⋯⋯。


 そうしていると、何処からともなくビービーっと、けたたましい音が鳴り響く。

 この音は⋯⋯。

 俺達は音の鳴った方を見る。


 そこには、身なりの汚い子供が、店員に取り押さえられていた。

 この世界に来てから、何度か見た事のある風景だ。


 その子供は、〈収納魔法アイテムボックス〉で、不正に商品を盗もうとしたのだろう。

 100年前の勇者がばら撒いたチート魔法、生活魔法は一度見るだけで誰でも使う事が出来るという、病原菌みたいな性質を持っており、尚且つ性能もチート級。

 そんな魔法で、真っ先に悪用されたのが〈収納魔法アイテムボックス〉だ。


収納魔法アイテムボックス〉に物を入れさえすれば、本人以外には取り出せない為、出回り始めた当初は商人がかなりの痛手を食ったという。


 一応発動させる際に声に出して〈収納魔法アイテムボックス〉と唱える必要が有り、同時に魔法陣も出現するので割と分かりやすい仕様だが、それを巧妙に隠す輩が居る。

 そうすると何が起こるか、万引きが横行するのだ。


 そうした損害を受けた商人たちにより、とある魔法が開発された。

[万引き防止魔法]である。


 その魔法が掛かった物を、〈収納魔法アイテムボックス〉に入れようと、魔法陣に触れると。

 けたたましい音と共に、魔法陣に弾かれてしまう様になる。


 詳細な効果は商人達の中で秘匿にされている為、詳しくは分からないが。

 俺達が店から物を買う際に、商品を直接触れるのは、店員の目の前で行うのがマナーだ。

 露店などでも、欲しい物は指を指してコレが欲しいと伝え、コチラがお金を渡してから、店員が魔法を解除するという流れになっている。


 そもそも万引きや窃盗は、元の世界よりも重い刑罰が待っているので、切羽詰まった人間以外はしないのだが⋯⋯。


 今回の捕まった子は孤児なのだろう。

 日本ではめったに見る事が無い光景だが、この世界では割とよく見る光景だ。


 ハッキリ言うが、俺はこの光景をどうこうする気はない。

 元の世界で見ていた異世界物で奴隷を無くすだの、孤児院を作るだのあるが、俺にそんな力はない。

 何も出来ないし、何も関わらない。

 俺が、この世界に来て決めた事の1つだ。


 そんな中、1人の女性がその子の元へと駆け寄った。


「申し訳ございません。その子を引き取っても宜しいでしょうか?もちろん商品の代金もお支払いします」


「アンタ、ゲバルト派の人間か?」

「はい、そうです」


「⋯⋯そうか、ならこのガキもちゃんと躾けろよ」

 そう言って店員は子供を地面に投げつける様に放り、マリアから金を受け取ると自分の店へと戻って行った。


「⋯⋯ぐっ」

「大丈夫ですか?さあ、私と共に教会へ行きましょう」


 マリアさんは子供へと手を差し伸べたが、子供はそれを振り払った。


「うるさい!お前らみたいな奴らの手なグエ!」

 マリアさんは、悪態を着く子供の首を殴って黙らせた。


 おいおいおいおい、死んだわアイツ。

 ⋯⋯いや何やってんのこの人!!


「なにやってんっすか!」

 思わず声に出る。


「え?私たちの教えでは駄々をこねる子供は、殴って黙らせるとあるので」


 あるので、じゃーねよ怖いわ。

 ゲバルト派が頭おかしいと、言われている一端を見た気がした。

 グッタリしている子供を担ぎ挙げると、マリアさんは言った。


「では、私はこの子を教会に預けてくるので、後ほど宿に夕食を摂りにまいりますね」

「あ、はい」

「じゃーねー」


 ペコリと頭を下げマリアさんは教会へと向かった。

 心無しか、俺達を見る周りの目に憐れみを感じた。


「あいつ、魔女だけじゃなくて教会にも目を付けられたのか」と。


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