103.シャーリー亭の厨房事情

 マリアさんが、盗みを働いた孤児を教会へと連行するのを見送りながら、俺はある事に気づいた。


 なんかナチュラルに、そうなっていたから言わなかったが。

 マリアさんと俺達、仲間認定されてる?

 アイリさんも、当然のように3人とか言ってたし。


「なあシャロ」

「なーにー?」


「マリアさんって、俺達の仲間って事でいいんだよな?」

「違うの?」


 そっかー、俺の知らない所で、話が進んでいたのかもしれない。


「いや、そんな話したかなーっと思って」

「してないけど、多分一緒に居ることになると思うよ、あたしがそうだったし」


 そういえば、シャロの時も何だかんだと一緒に居て、いつの間にか相棒みたいになっていたな。

 今回もそんな感じになるのか⋯⋯。

 ダメではないが、教会がなぁ、あんまり関わりたくないんだよな、あそこ。


 まぁいいか、なるようにしかならないんだし、深く考えずにいこう。

 俺は考えるのを放棄した。


 一通り買い物も済んだし、宿に戻ってアレックス君と、料理タイムだな。


「よし、帰るぞ」

「はーい」


 ◇


「という訳で、手伝って下さい」

「こっちも夜の仕込みで、忙しいんだけど⋯⋯」


 宿に戻り、早速アレックス君に協力を申し込む。

 そろそろ陽も沈み始める時間帯。

 これから夜の部に向けての、準備が行われる時間帯だ。


「いやいや、本格的に作るのは明日だからら」


 流石にこの時間から作るなんてことはしない、今のうちに、明日の予定を埋める為、事前に話しているのだ。


「明日?うーん、まあいいよ。その代わり今日は厨房手伝ってくれ」


 そういう事なら仕方がない。

 今日の俺はシェフになろうじゃないか。


 ◇


 アレックス君の動きが凄い、テキパキ動いていて俺なんかでは、もう太刀打ちできない領域に達していた。


 俺はまた、肉を網で焼く作業とスープを作る作業を任された。


 良い焼き加減だ、コイツは美味いぞ⋯⋯。

 スープもいい感じにできたな。

 鍋を見ながら、フッ笑みをこぼす。


「ポトフ3!ホーンラビットのステーキ1!」

「はーい!!ただいまー!!」


「空いた皿に〈清潔魔法クリーン〉!」

「はい!ただいまー!」


「ハンバーグ10!」

「はい!ただい10?!食いすぎだろ!」


 そんな感じで、厨房の中は慌ただしく動いている。

 最近ではウェイトレスも、キャロルさんだけでは足りず、妹のキュロルちゃんも雇い入れたみたいだ。


 まぁ、その原因は俺なのだが。


 シャーリー亭の夜の部は、酒を呑む客の他に、家族連れが割りと多い。

 原因はハンバーグだ、子供の好きな物ランキングトップを争う、ハンバーグが異世界に乱入して来たので、家族連れが多くなった。


 似た料理は有るだろうが、アレックス君がアレンジしまくった、ハンバーグはかなりの人気メニューになっている。


 そのお陰か、連日満席で俺たちがキッチンの一角に追いやられるほどだ。

 一応、酒飲みの席と、家族連れの席で半々になるようにはしているが、どうしても店に入れない客を外で待たせることになる。


 酔っ払い共に関しては、満席だと勝手に別の店に行くので気にする必要が無い。

 問題は家族連れで、子供も外で待つ為。

 親父さん達がどうにか出来ないかと、あれこれ考えていた。


 丁度その場面に出くわした俺が一言。


「皿とか鍋は向こうに用意してもらって、お持ち帰り出来るようにしたらどうです?」


 この世界、屋台の料理でもないと、持ち帰りは一般的ではないようで、お店の料理は店でしか食べられないという考えが普通だった。


 そこでテイクアウトという概念。

収納魔法アイテムボックス〉があるので、家に帰っても料理が冷めずに、出来たてホカホカを頂ける。


 その事を伝えると、その日の晩からテイクアウトが開始された。


 それにより店が満席なら、テイクアウトして家で食べるという選択肢が生まれた。


 それか、最初からテイクアウト前提で来るのもいい、それなら代表者1人が、料理が出来るまで待てばいい。


 それにより、普段満席で諦めていた客達は、テイクアウトを利用し始めた。


 その結果、この忙しさである。


 もちろん、メニューは絞ってあるが、それでも忙しい。

 アレックス君1人では、捌き切れないので、親父さんも食材を切る係として駆り出されている。

 シャーリーさんも配膳、会計と大忙し。


 最近では、シャロも持て成す客が居ない場合は、食べ終わると厨房を手伝い始める。

 アナは客なので、食べ終わると邪魔にならないようにと自室へと帰る。


 俺も宿泊客のはずなんだが⋯⋯。

 明日、料理手伝って貰うんだし仕方ないか。


 ◇


 家族連れが帰り出す頃、ようやくテイクアウトの注文も減り始めた。


「つ、疲れた⋯⋯」

「ソラ、お疲れ様。もう大丈夫だから休んでくれていいよ」


「そうさせてもらいます」

 実際働いたのは2時間くらいだろうか、ガンガン注文が来る為、かなり疲れた。


 キッチンの一角に、マリアさんが行儀よく座って居た。

 あれ、てっきりもう帰ったのかと思ったんだが⋯⋯。


「もしかして、待っててくれたんですか?」

「はい、食事は仲間と共に。それが私達の教えですから」


 この人、魔物との戦闘以外、まとも過ぎる。

 シャロはあんなんだし、アナも力こそが全てな考えしてるし。

 アウラお嬢様は頭イカれてるし⋯⋯、ようやく俺の周りでまともな考えの人が現れてくれた⋯⋯。


「そういえば、連れていった子はどうしたんですか?」

「教会の孤児院で、面倒を見ることになりそうですね。ですが、その前に今後犯罪者にならないように、徹底的にわからせるのが先ですね」


 わからせる?いや、あくまで子供の為だ。

 性根が曲がったまま育ってしまえば、また犯罪に手を染めるかも知れないからな。

 愛のムチってやつだな。


「なので暫くは、先輩方の魔物狩りに連行されると思います。勿論、ギリギリ勝てる相手を選ぶと思いますし、そこで魔物がいかに邪悪な存在なのかを、知って頂くのが目的でもあります。そうしている内に、身も心も私達の宗派を受け入れて貰えるようになるのです」


 やっぱ宗教関連の人間はやべーわ。

 俺が若干引いていると、シャロがアナを連れてやって来た。

「アナちゃん連れて来たよー」


 そういえば、アナに暫くここを空けると伝えてなかったな。

 夕食を食べながらその辺を話すかな。


「席も空いたから、向こうに移っても大丈夫だよ」

 アレックス君もこう言ってる事だし、移動しますか。


 俺達は、いつものテーブルへと移動した。


 テーブルに着くと、キュロルちゃんが注文を取りにやって来た。


「ご注文は決まってる?」

 この娘はキャロルさんの妹で、中々のメスガキだ。


「コレとコレとコレを御願いしますね」

「あたしはコレ―」

「私はこのお酒を」


「俺は⋯⋯」

「ハンバーグでいいでしょ?決まりね、ちょっと待っててくださーい」

 このガキんちょが⋯⋯、何時か絶対わからせてやる⋯⋯。

 あのメスガキは、何故か俺の事を舐めてる気がする。

 キャロルさんいわく照れてるとか言ってたが、俺に照れてるとか意味がわからん。


 いつか[白金プラチナ]ランクになって「キャー素敵!抱いて!」くらい言わせてやる。


 ⋯⋯今はそんな事どうでもいいか。

 俺は、アナに依頼の為、別の街まで行くことを伝えた。


「という訳で、何日か空ける事になったから」

「そうなんだ、また何日か会えない日が続くんだね」


 ⋯⋯そんな風に言われると、じゃあ一緒に来る?と言いたくなるじゃないか。

 ここは心を鬼にして。


「すまんな、必ず戻って来るから待っててもらえるか?」


「フフフ、わかった。ちゃんと戻って来てね」

「はい!」


 俺は決意を新たに必ず戻ってくることを誓った。

「はいおまちどー」


 キュロルが料理を持ってきた、ハンバーグには何故かソースでハートマークが描かれていた。

 アレックス君が悪戯したか⋯⋯、男のハートマーク程嬉しくない物はない。


「⋯⋯ん?どうしたキュロル突っ立って」

「別に!!」

 なぜか怒って行ってしまった。

 まぁいいや、それよりも今後の予定が優先だ。


「それで、マリアさんは教会の協力得られました?」

「はい、コチラをお2人に渡しておきますね」

 そう言ってマリアさんは、胸元からネックレスを2つ取り出した。

 手渡されたネックレスを握る、温い。


 コレを身に着けていれば、ある程度の争いは避けられそうだ。


 ⋯⋯勝手に入信させられてないよな?

 不安はあるが、今は深く考えない様にしよう。


 そんな俺の不安を他所に、マリアとシャロのフードファイトが始まった。


 一杯お食べ⋯⋯。





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次回更新予定日は12月16日となっております。

詳細は近所ノートをご確認ください。


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