27.デカい亀

 シルバーファングと一緒に、ロックタートルの狩りをしていた俺達は、シールさんよりある知らせを受けた。


「ロックタートルの変異種が居た」


 変異種?⋯⋯なんだっけか。ギルドの講習会で聞いた気がする。


「どんな奴だった?大きさは?数は?」

 マルコさんがシールさんに詳細を確認する。


「デカいのが1匹。周りに他のロックタートルはいなかったな」


「デカい奴か⋯⋯」

 詳細を聞きマルコさんが考え込む。デカいってどの位なのだろうか。


「どの位の大きさ何ですか?」


 素直に聞いてみた。


「そうだな⋯⋯。ロックタートル、何体分かな⋯⋯。遠目からだったが、少なくとも10倍以上はあるな」


「10倍!?」

 俺は端に積まれたロックタートルの死骸を確認し、大きさを想像する。

 えぇ⋯⋯デカくない?異世界やば過ぎない?

 改めて、異世界のヤバさを実感することになった。


「変異種って上位種とは違うの?」


 シャロが疑問を投げかけた。俺もその辺気になる。


「変異種ってのはな、同種の魔物が別の魔物になる事だ。今回は普通のよりもデカくなってるから、そう言っただけなんだが」


 なるほど。

 別の種類に思えるくらいの変化があった訳だな。


「と云うか、そんなのがいるならギルドで話題になりません?」


 ギルドや街でそんなヤバいのが居るなんて聞いたことないし。シルバーファングの面々がそれを知らないというのも変な話だ。


「俺等もそんな情報は聞いてないな」

 他の3人も頷く。


「じゃあ、つい最近自然に生えてきた魔物ってことですか?」


 この世界では、魔物は何もない空間からいきなり出現する。

 さっきまで居なかった場所に、何時の間にかに魔物が居るのは良くある話だそうで。

 なので、植物などと同じ様に、生えてくると表現したりする。


 人間が近くに居ると生えてこないので、家で寝ていたらいきなり魔物が居るなんてことは起きない。

 そして、その生えてくる瞬間はいまだ誰も観測出来ていないのだという。

 魔物の生態の中で、1番の謎とされている。


 話を戻そう。


「その可能性が一番高いな。何処かから流れて来たってのも考えられないし」


「道理で狩りの効率が良いわけだ」


 デカいのが他の、ロックタートルの縄張りを奪っている感じだったのか。


「これからどうします?」


 変異種とは戦わなければいいんじゃないだろうか。

 刺激しなければいい話だし。

 そう考えていたが。俺の頭の中に閃きが走る。


「もしかして鉱石を、察知する範囲も広がってたりします?」


 ロックタートルは何故か鉱石を持ってると襲ってくる習性がある。

 例え〈収納魔法アイテムボックス〉に入れていても、どういう訳か襲ってくるのだそうだ。


 魔法的な奴か、超感覚的なのが有るのか分からないが兎に角、鉱石を持っていると襲ってくる。

 因みに地面に置いているとスルー判定らしく、人間が持った時だけ襲ってくる。

 意味分からん過ぎる⋯⋯。

 そんな俺の閃きを聞き、シルバーファングの面々が考え込む。


「可能性は、あるよな⋯⋯」

「あるな」

「此処からどれ位離れてるんだ?」

「あそこの岩場の向こう側に居たな」


 そう言ってシールさんが指を指した所は、ココからそれなりに離れている場所だった。


「一応、俺も見ておく必要があるよな。シール案内頼む」

「わかった。こっちだ」


 リーダーのマルコさんも確認の為に見ておくようだ。

 2人は岩場を駆け上がって行った。

 暫くしてふたりが戻ってきた。


「ハァ⋯⋯。街に戻るぞ。俺達じゃ敵わん」


「だな、ギルドに報告してどうにかしてもらうしかないな」


 方針は決まったので、行動を開始することになった。


「俺は死骸焼いてくるわ」


 アルさんがロックタートルの山積みになった死骸を焼きに向かった。

 甲羅は燃やさないのか、燃えなさそうだしな。


「じゃあシール。悪いが鉱石を一つ持ってくれないか。この距離でも察知するのか確認しておきたい」


「わかった。向かってきたら離れた所まで行くから。お前らも逃げろよ?」


 シールさんを囮にしてデカいロックタートル⋯⋯。ビッグタートルって事にしておこう。

 ビッグタートルの鉱石を察知する能力が何処まで効くのか探る様だ。


「よし⋯⋯、持つぞ?」


 シールさんは纏めて置いていた鉱石の一つを手に持つ。

 ⋯⋯ゴクリ。一同固唾を飲んで見守る。


「どうだ?」


「⋯⋯大丈夫そうだ。 何かが移動している音も聞こえない」

 ふー。大丈夫そうだ。


「よーし。ハルクは鉱石を。アルは魔石を持ってくれ」


 マルコさんが俺とシャロに対して向き直る。


「すまんな。2人とも、本当ならもう少し狩りたい所なんだが。緊急事態だ、直ぐに街に戻るぞ」


「わかりました」

「りょうかーい」


 まぁ、今回はしゃーない。誰も予想できなかった事態だし。

 各々荷物を纏める。


 ⋯⋯あの甲羅。ちょっとほしかったな。聞いてみるか。


「マルコさん。あの一番小さい甲羅貰ってもいいですか?」


「ん?甲羅?別にいいが盾とかには使えないぞ?重いし、加工して使う位なら鉄の盾のが遥かにマシだぞ?」


「別の用途で使いたいので、完成したら声掛けますね」


「???、分かった。」

 マルコさんは頭に?マークを浮かべながら作業に戻った。


 俺は一番小さい甲羅を〈収納魔法アイテムボックス〉に入れる。

 街に戻ってからが楽しみだ⋯⋯。


 各自荷物も纏まったので下山を開始した。


「少し急ぐからな。小走りで行くぞー」


 ⋯⋯え?


 こうして登山よりも疲れる下山が始まった。

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