28.ヒールポーションをキメる

 ロックタートル狩りをしていたら、変異種とも呼べるようなデカイやつを見つけてしまった。

 即狩りは中断。

 ギルドへ報告する運びとなった。


 現在、俺達は街へ戻って報告するべく、駆け足にて絶賛下山中である。


 速い。速いって。着いてくのがやっとだ。

 ヒィヒィ言いながら必死について行く。

 後ろに居るシャロをチラッと見ると割と余裕そうだった。


 シルバーファングは息も乱れていない。

 流石は[シルバー]ランクと云うだけはある。鎧を着込み武器を持ちながらでも、問題なく走り続けている。


 先頭を走る3人は、出合い頭の魔物を難なく薙ぎ払っていく。


 〈収納魔法アイテムボックス〉の容量に余裕があるので、解体はせずにそのまま空いてるスペースにぶち込まれていく。


 走り始めてから1時間程で、野営をした場所まで戻ってきた。


「よし、少し休憩にしよう」

 マルコさんの号令により、その場で休むことになった。


 俺はその場にドサッと腰を下ろし項垂れる。

 つ、疲れた⋯⋯。いくら道があるとはいえ、下り坂を走って降りるのは膝への負担が凄い。


「疲れたー。因みに、今日あとどれ位走るの?」

 そう言いながら、シャロも俺の横に腰を下ろし脚を広げて座る。


「取り敢えず、日が暮れるまでは進むぞ」


 そうか⋯⋯。

 これが本来の冒険者の在り方ってやつか。


「ヒールポーション飲みながら走れば、ある程度体力回復するからそうしてみな」


 冒険者のライフハックみたいな情報だが、果たして其れは正しい使い方なのだろうか⋯⋯。

 早速1本飲み干す。

 ⋯⋯おお!本当に足のだるさが消えた。こういう使い方もあったんだな。


「シャロも飲んでみな」


「ふーん?ゴクゴク、プハー。おー、本当に足が軽くなったー」


「割と使える方法だから覚えときな」


 全員ヒールポーションを、キメてから移動を再開した。

 さっきよりも足が軽く感じる。ヒールポーションの効果が続いているんだな。


 ヒールポーションは、飲めば一定時間効果が切れるまで回復してくれる。

 回復してくれると言っても回復量には限界があるわけで。

 切り傷、刺し傷などは、直ぐに回復の効果が切れるので、追加で使わなければいけなかったりする。


 走る事で蓄積される足の痛みを回復し続けてくれる為、飲み続けていればずっと走れるって訳だ。

 ヒールポーションをキメた事により、全員の走るペースが少し上がった。


 は、速いって。

 ヒールポーションをキメた所で俺の身体能力が上がるわけでは無いので、再度ヒイヒイ言いながら付いてくことになった。


 森の中をドンドン進む内に少しずつ日が傾いてきた。


「今日は此処までだな」

 マルコさんがそう言って止まる頃には、日も大分傾き辺りが暗くなり始めていた。


「ハルク。壁を頼む」


「おう。〈石の壁ストーンウォール〉!」


 野営をした時の様にハルクさんが石の壁を作り出す。

 今回は前回と違い、俺達を囲むように四角形に壁を作った。


「前みたいに、一か所開けなくていいんですか?」

 俺が思ったことを口にする。


「ああ。今回は全員一緒に寝るからな。夜明けと共にまた街に向かって走るからだ」

「危険が来たら俺が察知するから安心しな」


 なるほど。下手に夜の見張りで体力使うよりはそっちの方が良いのか。

 それに狩人のシールさんの索敵で、何か来ても直ぐに起こしてくれるわけか。

 俺は納得した。


「そんな訳だから。飯食ったらサッサと寝るぞ」


 全員が頷き。夕食を取る事にした。

 そしてまたシャロに飯を奪われた。

 すまんなアレックス君、君が妹の為に作ったご飯は俺が食べる羽目になったよ⋯⋯。


 夕食を食べ終わる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 塞がれていない天井を星空が彩る。


 壁に囲まれた内側で、各々好きなように眠りについていた。

 シャロを壁際に寝かせ、野営の時の様に一緒に眠ることにした。4人がなんかニヤついていた。


「⋯⋯なんですか?」


「いや。お前ら仲良いなと思ってな」

「懐かれてるな~」

「大事にしろよー」

「相談事が在ったらのるからな?」


「???。別にそういうんじゃないですよ?」

 なんか勘違いしているみたいだ。俺とシャロは別にそういう仲では無いのだけれど⋯⋯。


「わかった、わかった。おやすみ」


「⋯⋯おやすみなさい」


 誤解は解けてない気がするが、今日は疲れた。

 寝れるなら直ぐに寝よう。

 シャロはもう寝息を立ててるし、さっきの会話は聞かれてないよな⋯⋯。

 そう願おう。


 瞼を閉じると、直ぐに意識が遠のいった。Zzz⋯⋯。


 ◇


「ソラー。起きてー」


 う⋯⋯ん。誰かに体を揺さぶられて眠りから目を覚ます。


「おはよう!」


「おはようございまぅ」


 ね、寝みい。二度寝キメたい。⋯⋯ここ何処よ。

 ⋯⋯ああ。街に戻る途中だっけか。


 眠気で頭の回転が悪くなっている中、現在俺の置かれている状況を思い出す。

 そうだった。デカい亀が居たからギルドに報告に向かっているんだった。

 上を見ると丁度、空が白み始める時間だった。


 4人もボチボチ起き始めていた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう。ふわ~」


 朝の挨拶を返したマルコさんは一つ大きなあくびをした。


「よし!飯食ったら出発するぞ」


 全員が頷き。各々朝食を取り始めた。

 ⋯⋯シャロは。自分の用意した物を食べていた。


「3食同じのは飽きるかなって」


 そうですか⋯⋯。

 俺は久しぶりに自分の作った料理を食べた。


 朝食を食べ終わり。

 ハルクさんが壁を崩し終えた頃、地獄のマラソンが開始された。


「ソラ、シャロ。今日は街まで行くからな。気合入れてけよー」


「⋯⋯はい」

「はーい」


「出発!」


 ◇


 ヒィッヒィッ⋯⋯。昨日よりもキツイ。

 ヒールポーションをキメても延々と走るので、在庫も少なくなっていた。


 後ろに居るシャロをチラリと見ると、シャロも息が乱れていた。

 流石にシャロもきつくなってきた様だった。


 きついが、それも終わりが見えて来た。

 なぜなら、ようやく街道に出る事が出来たからだ。やったー!


「よっし。一旦休憩にしよう」


 マルコさんの指示を聞いた瞬間にその場にへたり込んだ。

 キ、キツイ⋯⋯、ぜぇぜぇと息を切らしていた。


 シャロも同じように地面に大の字に寝転がって、息を切らしている。


「し、しんどぉ⋯⋯」


 2人してグッタリしているが、シルバーファングは全員ピンピンしていた。


「懐かしいな。俺等も昔はこうだったな」

「アルが毎回、死にそうなってたよな」

「ハルクに何度かおんぶされてなかったっけ」

「⋯⋯覚えてない」


 ⋯⋯何時かは俺達もこれ位になるのだろうか。想像できないな。

 ヒールポーションを飲んで体のダメージを和らげる。

 ああ、痛みが消えていく⋯⋯。


 目を瞑りヒールポーションの効果が体の隅々まで行き渡るのを感じていた、頭の天辺から足の先まで。

 傷ついた体が徐々に回復していくをの感じる事が出来た。


 ああ⋯⋯。体が軽くなる。


 その後休憩を少し挟み街を目指して再度移動を開始した。

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