46.アルコールって怖いよねって話。

 アナの過去を聞き。

 俺は彼女を裏切らないと誓った。


 眼と眼が合う。

 お互いを阻むのはテーブルのみ。


 結果だけ言えば。


 何も起きませんでしたけど?

 良い雰囲気ではあったが、知り合って間もないわけで。

 あんな話を聞いた後で、手を出す勇気が俺にある訳が無い。


 5歳から小屋に1人暮らしとか意味わからん、異世界の子供の扱いってこんな感じなの?先生とか云う人はいたらしいが、1日2-3時間程度しか居なかったみたいだし。

 日本では考えられない事だ、俺が知らないだけで、そういう事例があるのかもしれないが。


 彼女の過去を聞き。


 俺は悩む、真実を話すべきか。

 俺がこの世界の人間ではなく、勇者と同じ異世界の人間であると。


 悩んだ末。


 俺は秘密にする事にした。


 卑怯な人間だと罵られてもいい。

 正直、彼女を怖がらなかった理由が、血濡れの魔女を知らなかった。

 という点もある。後々知る事にはなったが、それでも彼女を怖がる理由にはならなかった。


 そして、彼女を異世界召喚のゴタゴタに、巻き込まない為の嘘だと。自身に言い聞かせた。


 その内問題も解決した時には、真っ先に告げよう。

 シャロには⋯⋯、その後でもいいかな、「ふーん、で?」とか言われそうだし。

 そんな事を考えていた。


 今現在、俺はアナに抱き着かれている。


 ベッドの上で。


 ベッドに腰掛けている俺に、正面から抱き着く感じで。

 ギュッと力強く抱き着かれている。


 ⋯⋯力強すぎません?骨がきしんでる気がするんですけど??口には出さないが心の中で悲鳴を挙げていた。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!

 胸の感触とか全然楽しめない!なんで俺は弱いんだよ!ふざけるな!


 痛みに耐えて、そろそろ限界が来る頃にパッと離れて解放された。


「ごめんね!もう大丈夫!あー、えー。あっ!コ、コレ飲も!」


 そう言って、アナは〈収納魔法アイテムボックス〉から酒瓶を取り出した。

 ⋯⋯そうね、痛みをアルコールで紛らわせようか。


「ご、ご一緒させてもらうよ⋯⋯」


 再度テーブルへ集合し、酒盛りが始まった。


 ◇


 つまみを作るべく、フライパンを振るっていた。


 お互い酒が進み、つまみが欲しいとなり。

 俺が作ることになった。


 うひょ~。

 俺の〈収納魔法アイテムボックス〉内にあった、適当な野菜と肉を炒めて、塩とスパイスで炒める。

 なんかニンニクと同じのを大量に入れた気がするがわからん。

 何故なら俺は今、酔っているから。

 でも食欲をそそるいい匂いが部屋に満ちる。


「おあがりよ!」

 料理を皿に盛り、テーブルにドンと出す。


 アナが大きな口を開けて頬張る。


「んー!おいしい!」


 美味しい。

 その一言は、作った側からしたら最高の返しである。


「うん、おいしい!」

 ニンニクが凄い気がするがそれがいい。


「ワハハハハッハ」

 アルコールが回って来てフワフワする。


 ◇


 ふむ⋯⋯。

 昨日の記憶が無い。

 ⋯⋯何で、俺は外で寝てるの?


 小屋は⋯⋯ある、中に入るか。


 扉を開け中に入ると、ベッドにはアナが寝ていた。

 服は⋯⋯、良し着てるな。

 お互い何も無かった。

 一線は越えて無い様だ。


 外で目覚めた時は、何が起きたのかと思ったが、何も問題は無かったようだな。

 良かった良かった。


 ふー。

 ⋯⋯なんで俺外で寝てたの?


 良く分からん謎だけが残った。


 その後、起きて来たアナに聞いてみたが。

 最初は一緒にベッドに行ったが、直ぐに寝てしまい、それ以降は覚えていないそうだ。


 ⋯⋯真相は闇の中。


 軽く朝食を食べ、お互い着替えてから帰り支度を開始する。


「それじゃ街に戻ろうか」

「そうだね。帰り道どうする?行きみたいにする?」


 行きみたいってことは、あのスパルタの事か⋯⋯。

 俺は腰を曲げ悲願する。


「出来れば、安心安全でお願いします」


「フフフ。はーい。じゃあ魔力出しとくね」


 俺の渾身のお辞儀で、スパルタ教育は回避されたのであった。


「よし!帰ろう!わが家へ!」

 俺は元気よく野営地を出発した。


 ◇


 マジで麓にある、街道まで何も無かった。


 一度寝転がってる魔物と遭遇したが、俺達を見ると即座に逃げ出していった。

 そんなにアナが出す魔力が恐ろしいのか。


 俺には肌がピリピリする位にしか感じないが。

 人と魔物では感じ方が違うのかな。


 そんな事よりも麓に着いたので後は、街道に沿って帰るだけだな。


 ⋯⋯見覚えの有る、馬車が居るな。


「別の人を待ってるのかな?」

 アナと顔を見合わせ頷く。


 スルーする事にした。

 帰りの迎えは不要と言ってたしな。


 スルーして街道を歩きだした、俺達を呼び止める声がした。


「ア、アナスタシア様!ソラ様!お迎えに上がりました!」


 うーん、スルーしてくれてた方が良いと思うんだが⋯⋯。


 アナはピタリと足を止め、御者に向き直る。


 チラッと見た顔は、無表情だった。


「帰りは不要。と、言わなかった?」

 肌のピリピリが強くなる。

 コレ隣に居る俺が一番被害受けてない?


「は、はい!勿論承知しております!ですが、わたくしめの不手際で、お二方に大変不快な思いをさせてしまいましたので、その罪滅ぼしとお受け取り下さいませ!」


 アナは何も言わず御者を見ている。


 ⋯⋯これは俺が仲裁した方が良いか。


「アナ、この人もこう言って居る事だし、お言葉に甘えないか?」


「⋯⋯わかった。ソラがそう言うならいいよ」


 無表情から一転、可愛い笑顔を向けられた。カワイイヤッター!

 アナの鶴の一声で、馬車で帰る事になった。


 アナが先に乗り込み、俺も後に続く。

 チラッと御者の人を見ると、ホッとした顔をしていた。


 目が合う。

 俺は無言で頷いた。

 頑張れ御者の人。


 アナが俺の襟首をガッと掴み、中へと引きずり込む。


 行き同様、隣同士で座る事になった。

 行きと違う点を挙げるなら⋯⋯。


 やたらと密着されていた。


 そのまま馬車はガタガタと、揺れながら街道を進んでいった。

 良い馬車だからだろうか、振動が全然来ないな。

 後は街に帰るだけだからか、馬車の揺れも相まって眠気が⋯⋯。


 グゥ⋯⋯。


 ◇


「起きて」

 体を揺さぶられて目を覚ます。


「⋯⋯ハッ。ココは、良かった室内か」

「フフフ。何それ」


「いや、また外なのかと思って」

「えー、フ、フフフフ。アハハハハ」


 アナって変な所でツボるよな。笑いが収まるまで待つ事にした。

 こうやって、笑い合える関係が続くと良いな⋯⋯。


「アハハハハハハハ」


 笑い過ぎでは?

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