47.緊急依頼達成報告

 アナの笑い声が、馬車の中に響く。


 そんなに面白かったか?分からない。

 もしかして俺が知らないだけで、異世界ジョークだったのかもしれない。

 ⋯⋯無いな。

 アナの笑いの沸点が低いだけかもな。


 暫く待ち、笑いが収まった。


 起こされた理由は、何となくわかる。

 街に着いたんだろうな、窓の外の風景でわかる。

 外壁が見えたからだ、結構寝っちゃってたのか⋯⋯。


「はーっ。それじゃ。門に付いたから手続きしよ」

「だな、悪いな寝ちゃってて」


「いいよ、気にしなくて」

「ありがとう」


 早速、手続きの為に馬車を出る事にした。


 扉を開けると御者の人が居た。

 なんかビクビクしてる。

 ⋯⋯ああ、そうか。

 門に着いたが、俺達が中々出て来ないから不安になったのかな?。


 フフフ、可愛い奴め。⋯⋯おっさんだから可愛くは無いか。

 サッサと中に入ってしまおう。


 俺が列に並ぼうとすると、アナに手を引かれた。おや~?

 列の人達をサッサと抜かしていき、門番の前に立つ。


「通して?」


「は、はい!」

「どうぞ!」


「ん。ありがとう」


「あー、お疲れ様でーす」


 頭をペコペコ下げながら、門を潜った。

 え、なにこれ。


「アナスタシアさん。手続きはー」

 御者の人が、事前にしてくれた感じかな?。


「んー?私は何時もしてないよ?」

「そうなの?」


「うん。門番程度に、[白金プラチナ]ランクの冒険者を止めれると思う?」


「無理っすね」

 無理だな。力づくで押し切られたら普通に死ねる。


「そっ。だから[白金プラチナ]ランクは基本、顔パスみたいなものだよ」


「なるほど~」

[白金プラチナ]ランクってすごい。改めてそう思った。(小並感)


 門を潜ると、そのまま歩き続けた。

 御者の人を待つとかはしないんですね。

 遠目で御者の人と、眼があった気がした。

 頑張れ。


「このままギルドに行く感じ?」

 目的地はそれ位しかないが、一応聞いてみる。


「そうだね。先に行きたい所とかある?一応報告するだけだし、後回しでもいいよ」


「いや、そのまま報告に行こう」


「うん♪」


 そのまま手を繋ぎながら、冒険者ギルドへ向かった。


 ◇


 なんか周りの視線が⋯⋯。

 知ってる人とかが二度見してきたりする。

 店の前を通ると、声を掛けてくれるオバちゃんも無言だ。


 エル雄でさえ、腕を組んだままこっちを眺めている。

 ⋯⋯何してんだアイツ。


 あ、マルコさんだ。

 ⋯⋯俺に気づいて手を挙げたが、その体勢のままクルリとUターンしていった。


 街の人達とアナの溝は深いな⋯⋯。


 ⋯⋯ん。何だ?今黒い靄みたいなのが。

 ⋯⋯気のせいか。


 寝起きだから、まだ頭が働いていないのかな。

 取り合えずサッサと、報告を済ませてしまおう。


 それにしても、アナは何時もこんな感じの視線を受けてるんだな⋯⋯。

 皆が自分を避ける様に、道を開ける。

 視線を向けると、顔を反らされる。なるほど、結構キツイな。


 俺の顔に出てたのか。

 アナは繋いだ手を離そうとした。


 握る手に力を入れる。


 離すものか。


 なめんなよー!元の世界でイケメンの親友の横で、何度「お前が邪魔だ」という視線を受けて来たと思ってんだ。

 まぁ、言われた事も有ったが。これ位蹴散らしてやるわ。フーハハハハハ。


「俺は離さんぞ?」

 その思いを口に出す。


「うん!」

 アナスタシアは、自ら離そうとしたその手を握り直す

 ⋯⋯お互いの握る手に力が入る。ちょいタンマ、もうちょっとお手柔らかに。


「アナ、すまん。もうちょっと力を抜いてくれると⋯⋯」


「え、あ!ご、ごめんね?」


 あーその感じです。凄くいい力加減です。

 心の中ではそう呟く。そしてキリッとして言う。


「気にするなって」

 早く強くなろう⋯⋯。俺の手が潰れる前に。


 ◇


 その後、無事ギルドに着いたわけで。


 報告はっと⋯⋯。

 受付にアイリさんが居るな。

 2人で近寄る。


 俺等に気づいたのか、真っ直ぐコチラを見ながら微笑む。


「お帰りなさい。依頼の報告、でいいですよね?」


 アナが口を開き。

「はい。討伐が完了したので、ご報告に。魔石は何処で出します?結構大きいですが」

「そうですね。では、あちらの受付までお願いします」


 アイリさんは、そう言って解体の受付を手で示す。

 持ってるのは俺だから俺が行くか。


「俺が行ってくるから、コッチは頼む」

「うん。御願いね」


 その場を離れて、解体の受付に向かった。

 受付には何時もいる人が居たので声を掛ける。


「こんちわ。例の緊急依頼の魔物の魔石持ってきました」


「おう、例の奴か。どんな感じだ?」


「めっちゃデカいっす」


「ハッハッハ。そうかそうか、お前も災難だな。魔女に⋯⋯ってデカ!」

 言葉を遮る様に〈収納魔法アイテムボックス〉から魔石を取り出した。取り出したと云うよりは、転がり落としたって感じだが。


「おぉぉぉ、マジかよ、どんだけデカい魔物だったんだ?」


「うーん。最低でもこの建物よりはデカい?かもですね」


「そうか⋯⋯。流石に魔女の名は伊達じゃないな」

 皆、魔女魔女いうなぁ。ちゃんと名前あるのに。⋯⋯俺も少しフォロー入れるか。


「魔女じゃなくて、アナスタシアですよ。噂程の怖さは無いんですから、魔女呼ばわりは可哀そうですよ」

「うーん。そうか?」


「そうですよ。それに、結構可愛いですよ?」

「そうかそうか⋯⋯なら、大事にしろよ」


「ええ、愛想つかされない様頑張ります。⋯⋯話変わりますけど、この魔石幾らになります?」

 正直、このデカい魔石の買取価格が気になる。

 普段買い取ってもらっている魔石の、何十倍以上も大きいし。


「あー、そうだな。うーん、正直俺だけじゃ判断出来んな。ギルドマスターにも意見を貰わんとな」


 やっぱりこの魔石は規格外だったか⋯⋯。

 最も俺に貰う権利は無いんだが。

 取り敢えず魔石は預けたって事で。


「それじゃこの魔石お願いしますねー」

「おう、任せとけ」

 魔石を預け、アナとアイリさんの元へ戻る。


「魔石預けて来たよ、値段はギルドマスターと相談だってさ」

「ありがとう。アレだけ大きいとそうなるよね」


「ホントに大きいですねぇ。討伐大変だったんじゃないんですか?」


「いえいえ、アイリさん聞いてくださいよ」

 俺はアナの活躍を話した。魔法の一撃で倒した事、その光景のキレイさなど。

 アナを褒める様に、アイリさんに語って聞かせた。


 アイリさんに言う。


「ほら、照れてるでしょ?可愛いんですよこの子は」

 顔を赤くしたアナを茶化す


「もう!」

「あ”っ”!」


 バキッという音と共に脇腹を小突かれ、軽く吹き飛びゴロゴロ転がる。

 たまたま近くに居た、ヒーラーの人に回復してもらう。


「⋯⋯何時もすいません」

「いえいえ、お気になさらず」


「うわぁ!ご、ごめんね!」

「気にするな、転がされるのは慣れてる」


 キリッとした表情で、地面に横たわりながら答える。

 回復魔法の効きが遅いな、君もしかして新人?焦らなくていいからね?冒険者の先輩として、後輩を気遣う。

 俺は冒険者の先輩だからな、余裕を持たないと。


 治るまで地面に横になっているが。

 アナが膝枕をしてくれたのでトントンって事で。


「ソラ君が治ったら、ギルドマスターの所に行きますからね?」


「「はーい」」


 俺とアナは元気よく返事を返した。

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