48.問おう、貴方が(ギルド)マスターか?(不在)

 俺の傷も治り、早速ギルドマスターへの報告となった。


「あ、回復ありがとうざいます」

 ペコリと頭を下げて、新人ヒーラーは去っていった。


「さっ、早く行こうか」

 気を取り直して、先を急かす。


「ソラを待ってたんだけど?」

「君に殴られたのが原因だけど?」


「⋯⋯じゃ行こうか」


「そうだな」


 無駄な争いはしないに限る。主に俺が死ぬ。


 とは云え、ギルドマスターってどこに居るんだろうか。

 無難に二階か?まだ会った事無いからどんな人かわからんな。


 アイリさんの案内の元、ギルドマスターへ会いに行く。


 やはりと言うべきか二階への階段を上っていく。

 階段を上り、廊下の突き当りを右に曲がり、そこにある少しだけ豪華な扉を、アイリさんが開ける。


 扉を抑える様にして立つアイリさんの横を通り抜け。

 部屋に入ると、そこには対になったソファーとテーブル。

 さらに、その奥にデスクがあった。


 ⋯⋯誰もいないんだが。

 アイリさんがデスクの方をチラリと見て二度見し、叫ぶ。


「あの野郎!また居なくなってる!」


「⋯⋯えぇ」

 俺の初めてのギルドマスターとの出会いは、空振りに終わった。

 その後、アイリさんより謝罪を受け。


「ごめんなさい、2人共。明日また来てくれるかしら?お昼頃までには捕まえて縛っておくから、その時に報告でもいい?」


「あ、はい」

「私もそれで良いですが。いい加減、他の人に変えてもいいんじゃないですか?」


 [白金プラチナ]ランクのアナは、当然顔見知りな訳で。

 ⋯⋯そんなひどい人がマスターなのか。


「い、一応あの人も優秀ではあるので⋯⋯、代わりが効かないと云いますか⋯⋯」


「大変なんですね」

「そうなんです⋯⋯」


 組織勤めは何かと苦労するんだろうな。

 やる事も無くなっってしまったな。どうするか。


「やる事も無くなったんだし、宿に戻る?」

「⋯⋯そうだな。よし、帰ろう。我が家へ!」


「うん!」


 そうして俺達は、冒険者ギルドを後にした。


 ◇


 うーん、2日ぶりの宿屋。

 ここ何日かは部屋を留守にする事が多かったからか、なんだか久しぶりな感じだ。


 扉を勢い良く開け。言う。


「ただいま!」


「ん?ああ、お帰り」


 シャロの親父さんからのお帰りコール。軽いな⋯⋯。


「⋯⋯シャロは居ますか?」

「たしか、部屋に居ると思うぞ」


 今、俺が欲しいのは熱烈なお帰りムードだ。

 アナを連れて、シャロの部屋目指して進軍する。

 シャロの部屋の前に着く。


 ノックを数回。


 どうぞ~


 入室の許可を告げる声が聞こえた。扉を開け放つ。


「ただいま!」

「ん~?おかえり」

 シャロは道具の手入れをしていた。


 ⋯⋯軽いな。同じ死線を潜り抜けた仲間だと云うのに軽いなぁ。


「俺とアナが帰って来たぞ?」

「⋯⋯ふーん、で?ちゃんと稼いできたー?」


 コ、コイツは⋯⋯。

 なんか俺が出稼ぎに出た男みたいになってる。

 そうだとしても、俺の稼ぎをお前に使う事は無いぞ!。


「稼いできたならさー。あたし、新しい盾。欲しいんだよねー?」


「⋯⋯自分の蓄えあるだろ?」


「有るけどさぁー。ちょーっと足が出るんだよねぇ~」


「⋯⋯足、ねぇ。いくらだ?」

 まぁ、コイツはメイン盾だからな、少しくらいは出してもいいかと思った。


「んー。これ位」

 指で必要な額を示す。ふーん、結構足がでるな。


「ダメダメ!ダメに決まってんだろうが!幾らの買おうとしてるんだ!お母さん許しませんよ!」


「えー!良いじゃーん。アナちゃんとの依頼で儲けたんでしょ~?」


「いや、具体的な金額はまだわからん。報酬はほぼ、アナの物になるに決まってんだろうが」

 俺の発言に何故かアナが反応した。


「え?そうなの?」

「何でアナが驚いてるんだ?」


「一応、一緒に依頼受けたし。報酬は半分ずつかなって」

「⋯⋯俺は料理ぐらいしかしてないんで。それに他の魔物の素材と魔石貰えるんだろ?それでトントンだろ」


 道案内という体だったが、見つけたのもアナだし。

 本当ご飯の用意くらいしかしてない訳で。


「それじゃソラに悪いんじゃ⋯⋯」

「悪くないです、俺じゃあの亀は倒せないんだし。それはアナの功績だ、俺のじゃない」

 そんな俺等のやり取りを聞き、シャロが口を挟む。


「じゃあソラの分を、あたしが貰うってことで」


「ダメに決まってんだろうが!」

 シャロのアホな提案を却下する。


「ちぇー。しょうがないなー。お兄ちゃんに打ち上げの料理作ってもらうように言って来るねー」

 シャロは手入れしていた、道具をポイッと投げ捨て立ちあがる。

 丁寧に扱えよ。


「⋯⋯ふむ、アレックス君に宜しく伝えて置いてくれ」

「はいはい」

 シャロは手をヒラヒラさせながら、振り返らず部屋を出て行く。


「よし、俺等も部屋に戻るか」

「そうだね」

 俺達はそれぞれ自分の部屋へと戻った。


「あー、疲れた」

 部屋に着きベッドに横たわると、自然と声が漏れた。

 この2日間は色々と濃い内容だったな。


 魔法の新しい使い方を学んだり。

 ダイアウルフも1人で相手出来たな⋯⋯。

 詠唱を唱えての魔法も見る事が出来たし。


 ⋯⋯何だか眠いな。


 馬車でも寝たはずなんだが⋯⋯。


 瞼が⋯⋯、グゥ⋯⋯。




 ◆


 ⋯⋯なんだ?


 周りが暗い。


 宿のベッドで、眠ったのまでは覚えている。


「寝てたハズなんだが⋯⋯」

 そう呟く俺は、見覚えのない場所に立っていた。


 見覚えのない場所と云ったが、周りは真っ暗で、ここが何処なのかも解らない。

 まさに一寸先は闇という状況。

 眼を開けている感覚はあるが何も視えない。

 その場に立っているのかすら、判らなくなるほどの闇が広がっていた。

 手を伸ばしてみても、何も手に触れず、何も掴めない。


 屈んで足元を触ってみると、地面の感触はある。


 不思議と焦りは無かったし、恐怖もなかった。


 夢の中だろうと思ったからだ。


 ⋯⋯何処からともなく、水の音が聞こえて来た。


 初めはチョロチョロと小さい音だった。

 その音は徐々に勢いを増し、激しい川の様にその音を響かせた。


 音は聞こえるが、何処で流れているのかが解らない。


 周りを見回しても、暗い闇が広がるだけだった。


 俺はその場から動けずにいた。


 ⋯⋯水の音が五月蠅い。


 ⋯⋯考えがまとまらない。



 不意に辺りに男と女の声が響いた。


【おや?誰かいるね】

『本当だ、ああ。彼だね』


 不思議な声だった。

 低音とも高音とも取れる声、子供なのか老人なのかもわからない。

 色々な声を内包する様な、一人の個人を特定出来ない様な声色。

 一音一音が別の音に聞こえた。

 しかし不快には感じなかった。


【彼が来るにはまだ早いよね?】

『そうだね、もう少し先でないと』


 アレだけ五月蠅かった、水の音が止んでいた。


【でも、折角来たんだから⋯⋯ねぇ?】

『甘やかすのは、感心しないが。折角だからね』


 声は響いているが、周りは未だに何も見えない。


 響く声も近くで聞こえる気もするが、遠くから響いている気もする。


 ⋯⋯両の眼に、ナニかの手が触れた。


 片方は女の様に柔らかく、もう片方は男の様にゴツゴツした手だった。

 不意の接触に体が強張ったが、不思議と恐怖は感じなかった。


【これでいいね】

『ああ、これでいい』


 手が離れていく。


【その目に映るはまこと姿すがた

『その目が暴くは虚偽きょぎ姿すがた


【見極めなさい】

『見定めなさい』


【今後が楽しみね】

『どうなるのか、楽しみだね』


 その声を最後に、俺の意識はそこで途絶えた。

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