6.続・異世界の日々。ー突撃ワイルドボアー
眠っていた俺の耳に鐘の音が聞こえて来た。
眠い目を擦りながら体を起こす。
この世界では、街の中央に大きな鐘がある。
日に3度鐘が鳴るようになっている。
それぞれの時間帯で鳴らす回数が違っており。
日の出とともに1回。
日がちょうど頭の上に来る頃に2回。
夕暮れ時に3回。
朝昼晩と3度鐘の音を聞くことになる。
街の人達も、その鐘の音を基準に仕事や店の準備をする。
それ以外でも鐘が鳴る時は何度も鳴らし、街に脅威が迫っていることを知らせるようになっている。
まだ眠いが〈
俺とシャロは昨日の晩飯の際に、今日1日は休みにして体を休めようという事で一致した。
そのおかげで朝一で、部屋に襲撃を受けることはなかった。
内側からしか鍵は掛けれないが、奴は俺が扉を開けるまで扉を叩き続けるので、毎日無理矢理起こされている感じになっていた。
そんな事を思いながら、ふと昨日受けた傷の事を思い出し服を捲る。
ホーンラビットに刺された傷も、少し痕が残っているが奇麗に完治していた。
これぞ異世界クオリティ。
目も覚めたので朝食を食べに食堂へと向かった。
「おはざーっす」
俺が泊まっている宿の主人であるシャロの父親に挨拶をした。
用意された朝食を食べながら思う。
お米と味噌汁が恋しい……、日本食が食べたいな。
無理だけど。
朝食を食べ、軽くホームシックになったが、部屋に戻って出かける準備をする。
今日は何をするか……。
唐突だがこの異世界は、〈
あるにはあるらしいが、貴族や金持ちの趣味程度のものらしい。
一般人からしたら〈
他にも驚いたことに、トイレにはスライムを使う。
色んな所に住み着き何でも食べると言われており、別名[森の掃除屋]。基本的に無害な魔物だ。
トイレの中に一匹入れておけば排泄物を食べてくれるらしい。
実際食べてるシーンは見た事ないが……。
因みに2匹以上入れると、排泄物を栄養に繁殖し数を増やしてしまい、トイレからあふれ出てくる事があるらしい。
トイレで大きい方をした際は〈
流す時は〈
生活魔法が相変わらずチートである。
現代日本の様に、上下水道がちゃんとしている世界では無いが、匂いはそこまで気にならない。
これも〈
〈
俺は1ヶ月程前に、この世界に転移して来たが、言葉も通じるし文字も読めて書くことも出来る。
魔法も使えるようになっている、その事を考えると。
もしかしたら俺の体はこの世界に転移してきた際に、この世界に適応できるように体を弄られているのではないだろうか。
誰がそうしたかなんて分からないが、そういった事が出来る存在なんて神様的な奴位なものだろう。
会ったことないけど。
適応云々は、この世界の食べ物を食べても腹を壊したりしていないのが証拠だろう。
元の世界でも、海外の食べ物が体に合わずに苦労する、といった話をよく聞く。
紫色のキノコと、青い葉っぱの炒め物なんかが宿屋の食事で出て来たりもしたが……。意外とおいしかった。
勿論お腹が痛くなることもなかった。
毒……に関しては知らない、流石に食用だろうし。
そんな事を考えながらギルドまでの道のりを歩いていた。
◇
ギルドに着いて早速訓練所へと向う。
朝一だからか人もそんなに居ないな。
今日は昨日覚えた〈
効果時間は5秒程と昨日判明したが、何回も同じ対象に撃つと効果時間が短くなっていった。
4回目位から当たってもすぐ消えるようになっていた。
射程距離や命中率、色々調べる必要がある。
闇魔法の使い手が少なく、情報が全然ない。
マイナーな属性はこういう時に不利だよな……。
他の属性は沢山いるので、それだけで使い方や応用が本に残されていることが多い。
それに人に聞くことも出来る。
俺は今後、闇魔法を覚える度に検証しなきゃいけない。
大変だろうがワクワクもしている。
だって魔法が使えるのだから!
という訳で訓練所にある案山子に魔法を打ち続け検証を重ねた。
最大射程は20メートル程。
〈
一番は目視して撃つのが命中率が高い。
しかし射程が長くなるほどその精度も落ちていき、確実に狙った箇所に当てるなら10メートル位がベストな距離だった。
それ以外では、連続して何回撃てるのかを試してみたが1発撃つと5秒程のクールタイムが発生してしまう。
そのまま撃ち続けてみたが、15発撃った辺りから頭痛がしてきた。
因みに魔法使用後にする頭痛は言わばストッパーの様な物で、自分の残り魔力が少なくなっている状態であり、それ以上魔法を使用し続けると気絶してしまう。
なので頭痛がしたら即座にマナポーションを飲むのが魔法使いの常識だ。
時間が経てば魔力自体は回復はするので、マナポーションを飲むかその場で休むかして回復を待たなければならない。
……ふう。
訓練所で出来る事はこれくらいだろう。
あとは実戦でどれ位使い物になるかだな。
明日シャロを誘って魔物討伐で試してみよう。
正直魔法が使えるようになって、テンションが上がっているので今すぐ行きたいところだが、一人では危険が多すぎるので我慢。
シャロはタンクなので盾になってくれる。
実際、一緒に訓練で打合う時にアイツが盾を構えると俺の攻撃は一切通らなかった……。
盾で受け止めたり盾で弾かれ、そのまま訓練用の木斧を叩きこまれたり。
そのまま盾でぶん殴られたりしている。
実際ホーンラビットの時も無傷で俺より量を狩っていたしな。
助けられたし……。
同じような時期に冒険者になったが、あっちは子供の頃から鍛えてるようだし……。
平和な日本生まれと魔物が蔓延る異世界とでは差があるのは当然の事だ。
……少し悔しい。
魔法の検証も済んだので訓練場を後にした俺は街をブラブラ歩いているとシャロと出会った。
「あー!ソラ~おはよ~何してたの~?」
「おはよう」
覚えた魔法の検証していたことを告げるとブーブー言われた。
「それならあたしも誘ってよー。あたしだけ休んじゃったじゃーん」
「いや、休みにするって昨日言ったじゃん」
検証は俺が好きでやってる事なんだし。
その後、肘で小突かれながらブーブー言われ、シャロの買い物に付き合わされた。
なんだよ、まったく……。
◇
次の日
朝の鐘が鳴り響く。
ん……あと五分。
「朝だよー!」ドンドンドン!
うるさ……。
「起きます、起きますよ!」
「おはよう!朝ごはん食べたらギルド行こう!」
「おはよう……。分かったから。着替えたら下行くから……」
準備をして食堂へ通りると、シャロが待っていたのでササっと朝食を食べて宿を後にした。
◇
ギルドに着き、2人で[
どの依頼にするかな。
「シャロは受けたい依頼ある?」
「うーん。このワイルド ボアの討伐は?」
「ほぉ……ワイルド ボアねぇ……。どんな魔物?」
「ホーンラビットよりは確実に強いかな?」
「そうか~。因みに戦ったことはある?」
そう尋ねるとシャロは力強く胸を叩いた。
「もちろん!お父さんの狩りに何度かついていった事あるし大丈夫だよ!」
親父さんとか……見た目はかなり強面だしなー。
シャロが言うには、昔冒険者をしていたらしく引退して、今の宿屋をやっているとの事。
元冒険者という事もあり定期的に、宿で使う食材を自分で狩りに行くそうだ。
シャロは昔からそれに付いて行っているんだとか。
そんなわけで、早速依頼を受け指定された場所まで移動を開始した。
◇
街を出て1時間程の距離を歩き、ワイルド ボアが生息している森に到着した。
今からこの森の中で指定された数の、ワイルド ボアを狩るのが今回の依頼だ。
前回の様に、ホーンラビットを誘き出す様な魔道具は無いので地道に探して狩るしかない。
見つけ方に関しては、シャロが知っていたので教わることにした。
「うーん……。あ!あったあった、この足跡。この後を辿れば辿り着けるよ」
シャロが見つけた足跡、この足跡を辿るだけでいいのか。
なんて思っていたが、その足跡を辿るのが難しかった。
他の生き物の足跡も交じっており、目的のワイルド ボアの足跡を辿るも、他の足跡に上書きされていたりする。
しかしシャロはすいすい森の中を移動していった。
「んー。慣れかな」
慣れれば何となくで分かるとのこと。
俺はまだその領域に居ないので素直にシャロの後を着いていった。
森の中を10分程進み。
シャロがピタリと止まりその場にしゃがみ込んだ。
俺もそれに習いその場にしゃがみ込んで静かに近寄った。
「あれ」
シャロが小声で前の方を指さした。
いた。
日本に居た頃のイノシシに似ていたが、テレビなんかで見たイノシシよりも大きく口元に鋭い牙が飛び出ていた。
あれがワイルド ボアか。
デカいな……。
思っていたのより1周りもデカい。
「初めて戦うけどどうするよ」
経験者のシャロに小声で相談すると。
「あたしが〈
「腹ねわかった。それじゃあ頼む」
〈
このスキルは発動者が指定した対象の敵意を自分に引き付けるスキルだ。
このスキルを受けると……。何というか理由は説明できないが兎に角〈
お前のかーちゃんでーべそと言われて頭がカッとなる感じに似ている。
兎に角ムカつくのである。
俺もかけて貰ったが、ホント……野郎ぶっ殺してやる!という気持ちになる。
そんな効果があるので、敵に向かって発動すると敵の攻撃を一手に引き受けることになうる。
他の仲間がその隙に攻撃を与える。
パーティーにタンクがいる場合の基本戦術になっている。
「〈
茂みから飛び出したシャロは〈
後ろを向いて、草を食べていたワイルド ボアは体の向きを変え。
シャロを視界に捉えた。
俺はその隙にワイルド ボアの側面へと回り込みむ。
いつでも攻撃に移れる様に身構えておく。
シャロは盾を構えたままワイルド ボアを見つめる。
ワイルド ボアが前足で地面をザッザッと踏み締め、シャロ目掛けて一直線に駆け出した。
金属製の盾はドゴンと、鈍い音を立てながらワイルド ボアの突進を受け止めた。
正面から突進を受け止めたので、シャロも勢いに押されて少し後ずさるも、体勢を崩すことはなかった。
俺はワイルド ボアの動きに合わせて、茂みから飛び出し駆け出した。
突進を盾に阻まれ。
勢いの止まったワイルド ボアの胴体掛けて、腰の位置に固定した剣を両手で握りしめ、体当たりの要領で胴体に剣を突き刺した。
剣を突き刺した瞬間、ホーンラビットよりも硬い手応えを感じた。
それでも剣は3分の1程胴体に突き刺さっている。
そのまま剣の柄に体重を乗せ地面に向かって押し込む。よいしょぉ!
プギィっという鳴き声と共にワイルド ボアはよろけるもまだ息はある。それなら……。
「〈
左の手の平をワイルドボアに向け〈
左の手の平に魔法陣が浮かび上がり黒い靄が真っ直ぐにブラウンボアに向かって飛んで行き、顔に纏まり付き視界を奪った。
「おりゃー!」
視界を奪われたワイルドボアに対してシャロも即座に攻撃に転じた。
ワイルドボアの頭目掛けて斧を振り下ろした。
頭に斧がめり込むもワイルドボアが倒れる事は無かった。
シャロが斧を引き抜くのと同時に、ワイルドボアは再度シャロに向かって突進を繰り出す。
シャロは冷静にその突進を盾で受け止め勢いを殺す。
その隙に俺は再度腹に向けて剣を突き立てる。
最初に付けた傷の近くに剣を突き立て今度は真横に振り抜き、ワイルドボアの内臓が零れ落ちる。
「おら!死ねー!」
シャロがワイルドボアの頭に向けてに斧を振り下ろす。
2度斧を力任せに叩き付け、ようやくワイルドボアは動きを止めた。
「やっと死んだか……」
毛皮のせいで刃の通りが悪いし、何度も斬るはめになった。
「いや~、結構大変だったね。お父さんが何時も1発で首落としてるから、もうちょい楽かと思ったんだけどね~」
「そうか……」
あの人見た目通り強いのか……。
1匹でも結構体力使うな……。
あと何匹位狩れるやら。
ギルドの依頼では後2匹だ。
「よし!残りを探すか!」
「おー!」
◇
ーーーーーーーーーーーーー
レベルアップしました。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
〈
〈
ーーーーーーーーーーーーーーー
その後、休憩を挟みながら2匹のワイルドボアを倒したところで、俺のレベルが上がった。
オレハマホウヲオボエタ……。
今回は戦闘中じゃなかったから助かったな。
「レベルも上がったし、依頼の数だけ狩れたから今日はこれで帰ろっか~」
目標の数も達成したし、シャロの提案を飲んで帰ることにした。
倒したワイルドボアは収納魔法に入れて持ち帰るのでかなり楽だ。
〈
そうして俺達は街へと帰って行った。
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