11.討伐報告
ハイゴブリン、ゴブリンメイジとの戦いを終えた俺達は、街に戻ることにした。
ギルドへの報告用にハイゴブリンとゴブリンメイジの死体を〈
「ん?ソラ~、あれって人の足じゃない?」
足?シャロが指さした方を見ると。
ハイゴブリンとゴブリンメイジが元々立っていた場所の近くに人の足が見えた。
全然気づかなかったな⋯⋯。
念の為に確認に向かうと、そこには1人の冒険者の死体が転がっていた。
体の一部が焼け焦げ、顔は潰されており個人の特定をするには難しい状態になっていた。
俺達より先にハイゴブリン達と遭遇した冒険者だろうか⋯⋯。
初めて見る人の死体はグロかったが、思ったよりも平気だった。
この世界に来てから魔物を殺したりしていたからだろうか。
生き物の死に慣れてしまったのかもしれない。
名も知らない冒険者の側で、手を合わせ合唱をする。
もしかしたら、この冒険者と戦っていたからハイゴブリン達は消耗していて、俺達でも倒すことが出来たのかもしれない。
本当の所は分からないが、冥福を祈るぐらいはしておこう。
そんな俺の姿を、シャロは不思議そうに眺めていた。
「何してるの?」
「なにって⋯⋯。仏さんに手を合わせてるんだよ」
死ねば皆、仏さんになる。
日本で生まれ育った俺には、それが常識だと思っていたのでそう答えた。
「仏さん?良く分かんないけど。冒険者が死ぬのは、そいつが弱いのが悪いんだから、仕方ないんじゃない?」
シャロの言葉に少々面食らったが。
そうか⋯⋯、この世界は死が常に隣り合わせになっているような世界なんだったな。
シャロは俺が思っている以上に、人の生き死にを目の当たりにしてきたんだろうな⋯⋯。
「まぁ、あれだ。死んだら皆あの世に行くから取り合えず祈っておこう的な奴だ」
ごまかす様にそう告げたが、実際手を合わせる事に深い意味なんてなかった。
俺のいた世界ではそうしていたから、そうしていただけの事なんだし。
俺は自分でも思っている以上に薄情な奴なのかなぁ。そんな事を思った。
「取り合えず、この人も〈
「⋯⋯そうだな。帰りを待っている人もいるかもしれないからな」
というか人間の死体も〈
実際に試してみたが問題なく入った。
名も知らない冒険者を〈
これ以上の問題が起きませんように。
そんな事を思いながら森を進んでいった。
◇
幸運にも何も起きず、街の門が見える所まで戻ってくることが出来た。
「あー、やっとここまで帰ってこれた」
安堵のため息を漏らしながらそう呟く。
「でも、ワイルドボアは一匹も狩れなかったね~」
「そうなんだよな〜」
まじで一匹も出会うことが無かった。
はぁ⋯⋯、初めての依頼未達成か。
今まで何だかんだ、受けた依頼はちゃんと達成できていただけに気が重いな⋯⋯。
それから俺達は何事も無く街の門に着き、そころから冒険者ギルドを目指して歩いた。
◇
冒険者ギルトに着き、早速受付へと足を運んだ。
理由は、上位種であるハイゴブリンを見つけ、討伐したからだ。
シャロが俺より先に、受付に駆け寄って行った。
アレだけの戦いをしていたのに元気だなぁ。
シャロの元気っぷりにそんな事を思った。
「ねぇねぇ!アイリさんすごいの倒したよ!見て見てー!」
何時もの様に、受付に居たアイリさんにシャロは報告を行う。
「シャロちゃん達は、確かワイルドボアの討伐でしたよね?大きい個体でも倒せたんですか?」
俺達が受けていた依頼は、ワイルドボアの討伐だからな。
それに関係する話題と思っていたんだろうな。
「違うよ~。なんとハイゴブリンを倒したんだよ~!」
「⋯⋯ハイゴブリンですか?うふふ、シャロちゃんも冗談を言うんですね」
冗談だと思われている。
冗談だと思われてもしょうがないよな。
本来ワイルドボアの生息地の森にゴブリンが居るなんて情報は無かったんだし。
尚且つ上位種のハイゴブリンが出た、何て信じられないよな。
「あのですね⋯⋯、アイリさんも一緒に解体の受付まで来てもらってもいいですか?」
受注用のカウンターで、ハイゴブリンの死体を出すわけにはいかない為。
解体の受付カウンターまで来てもらう事にした。
◇
解体の受付まで移動したので〈
「⋯⋯え!?あ、ほんとに?え?」
アイリさんがあからさまに狼狽えてた。
「ほんとなんだなー」
シャロが口をV字にしながら、ドヤ顔を続ける。
とは言え、そんなに驚かれることなのか?
「えーっと。そんなに驚く事なんですか?」
確かに[
「ええ。ゴブリン自体、この街の近くにある[
「あー、なるほど。だから驚いてたんですね」
本来居ない魔物を狩って来たから驚いていたんだな。俺は暢気にそう思った。
「⋯⋯少し、此処で待っていてください。上の人間を連れてきます」
そう言ってアイリさんは、小走りで奥に引っ込んでいった。
大事になる感じですかね⋯⋯?
◇
暫くして、アイリさんは中年の男性を連れて来た。恐らく上司にあたる人だろう。⋯⋯バーコード。
視線が上の方に向かうも、改めて相手の顔を見る。
普通の中年のおじさんって感じの人だ。
「ほ~、ハイゴブリンにゴブリンメイジか、よく倒せたね」
「ええ、なんとか」
「それじゃあ。話を聞いてもいいかな?詳しく聞かないといけなくてね」
「分かりました」
俺はゴブリンと遭遇した経緯をなるべく詳細に伝えた。
それと同時に、近くに他の冒険者の死体があったことも伝え、〈
「なるほど⋯⋯。君達の話が本当なら少し面倒な事になるねぇ」
「面倒とは?」
俺達の話が本当かどうか疑っている節は在るが、面倒な事って一体何だろうか。
「アイリ君、説明は任せていいかな?この件をギルドマスターに報告してくるから」
そう言うとバーコードの人は、一瞥することも無くサッサと奥に引っ込んでいった。
[
それはそれとして、バーコードの本数が減ってしまえばいいのに⋯⋯。
過ぎ去る後ろ姿を見つめながら。
俺の心の中に芽生えた思いを送る。
「ごめんなさい。あの方も他の冒険者の依頼で、忙しい人だから許してあげてくださいね」
「はーい」
アイリさんがそう言うなら仕方ない。
俺は素直に返事を返した。
「それで、面倒な事ってのは一体どういう事なんですか?」
バーコードの事はサッサと頭の中から追い出して、面倒な事について問いただす。
「さっきも言いましたが。本来、ゴブリンがこの街の周囲に生息している、なんて事は今まで無かったんですよ。」
「なので、今回ソラ君とシャロちゃん達がゴブリンに遭遇した事で、街周辺の魔物の生息地が変わった可能性が高いんです。」
「なるほど⋯⋯ってことは、ワイルドボアが今後出ない代わりに、ゴブリンが出るようになるってことですか?」
今後ワイルドボアの肉が食えなくなるのは困るな。
そんな事を思った。
「ええ。生息地がいきなり変わったりする事例はあるらしいのだけど。この街では、今まで無かったことなんですよ」
「なので、暫くは周辺に生息している魔物の変化を確認する依頼が、ギルド内から出されることになると思います」
思ったよりも大事になりそうだな⋯⋯。
アイリさんの説明を聞く限りだと、今後の俺達の収入源が変わる可能性が高くなったのか。
毎度ゴブリンを倒しても討伐部位と魔石の分しか実入りがない。ワイルドボアやホーンラビットの様に肉や毛皮も売れる魔物が出てきてくれてると良いのだが。
今後について考えている俺を他所に、シャロは俺がバーコードに説明をしている段階で近くの椅子に座って休んでいた。
⋯⋯コイツ、寝てやがる。
「ちょっと失礼します」
寝ているシャロを起こす為に、近づき頭を軽く叩いて起こす。
「なにー?話終わった?」
「お前も聞いとけよ」
一応シャロも冒険者なんだし、話は聞いておいてほしいんだがな。
「えー。それよりさーアイリさん。このゴブリン達の報酬って、どれ位出るの?」
「そうねぇ⋯⋯。魔石はギルドに売る、でいいんですよね?それなら、討伐報酬と魔石の代金なのでこれ位かしら」
「イイネ!」
アイリさんの提示した金額に満足したのかシャロは満面の笑みを浮かべた。現金だなぁ。今後が不安なのは俺だけか?
その後ギルドでハイゴブリンとゴブリンメイジの魔石を取り出してもらい、ギルドにそのまま収める。
普通のゴブリン単体ではワイルドボアに及ばなかったが、上位個体の2体は普段の収入を遥かに上回る金額になった。
「今夜はごちそうだ~」
報酬を受け取ったシャロは小躍りしていた。
シャロが踊っている間、俺は筋肉モリモリマッチョマンの3人に囲まれていた。
「ソラ~。お前ハイゴブリンを倒したんだって?」
「やるじゃね~か。俺はお前がやる男だと思っていたぜ~」
「へっへっへ。ゴブリンメイジも倒したんだってな。成長したなぁ」
「うす。ありがとうございます。あ、詳しい話ですか?」
俺は詳しい経緯を3人に話した。
3人から解放された俺は、シャロを引き連れ宿屋に帰ることにした。疲れた⋯⋯。
「ねー、今日は派手に打ち上げしよー」
「そうだな。というかお前の実家なんだしお前の分の食事はタダみたいなもんだろ、俺の分もサービスしてくれよ」
シャロの提案を受け入れ、あわよくばという思いで聞いてみる。
「それはお父さんに言って」
ピシャリと返された。
親父さんにねぇ⋯⋯、無理だろ。
俺は諦めた。
◇
「お父さん!今日ハイゴブリンとゴブリンメイジ倒したよ~!」
宿屋に着くなりシャロが、宿屋の主人であり父親の親父さんに報告をする。
「ハイゴブリンにゴブリンメイジ!?何でそんなもんと戦ってるんだお前たちは!」
シャロの報告に、親父さんの怒号が飛んでくる。
「ワイルドボア狩りに行ったらー、遭遇したからソラと一緒に倒したー」
一方シャロは怯む様子もなく、その時の状況を伝える。
強いなコイツ。
「本来[
そう言って親父さんはシャロを抱き締める。
娘が冒険者をしているのが、心配なんだろうな。
俺も元居た世界に、残して来た両親の事を思い出す。
俺がこんな生活をしていると知ったら、どういう反応をするんだろうか⋯⋯。
少しだけホームシックになった。
2人を見つめる俺の目が、羨ましい物を見る目に見えたのか。
親父さんが無言で両腕を広げて迫って来た。
「あ、大丈夫っす⋯⋯。ホントニ」
「遠慮するな」
「⋯⋯〈
体が軽くなり、通常よりも早く動けるようになった俺は、その場から離脱する事にした。
グルンと後ろを向き、直ぐにその場から離れるよりも速く、親父さんは先回りしてきた。
うっそだろおい!
回り込み。
体勢を低くし。
そのままの体勢で、タックルを仕掛けてくる。
うおぉおお!。
親父さんを躱す様に真横に飛び回避する。
直後に親父さんが俺目掛け、直角に曲がって来た。
「う、うわぁぁぁああ!」
その後、捕まった俺は親父さんにより熱い抱擁をされた。
⋯⋯まぁ悪い気はしなかった。
そのまま、シャロと今日の戦果を祝って打ち上げをすることになった。
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