12.エルフの友人。エル雄君

 ゴブリンとの遭遇から数日。


 街周辺の魔物の生息地に変化が起きているか調査する為、ギルド主導により周辺の調査が行われていた。


 俺とシャロがワイルドボア討伐の際に、ゴブリンと出会った為である。


 本来、魔物が出現する場所はある程度決まっているようで、1種類のみ生息している所もあれば、複数種生息している所もある。


 何処にどの魔物が現れるのか、法則などは分かっておらず。

 そういうものとして捉えられている様だ。


 因みに、基本的に人の村や街の近くには弱い魔物が住み着く様で、村や街から離れれば離れる程、魔物の強さはそれに比例して強くなっていく様だ。


 都合が良い様な気もするが、そういう風にこの世界は出来ている。


 そんな事情もあり、調査が終わるまでは魔物を狩るのを控えていた。

 とは言え、ハイゴブリンの報酬があるのだが、何もしないで居るのは不味い。

 生きてるだけで、金は減る。


 俺とシャロは、それぞれ別々に雑用の依頼を受ける日々を送っていた。

 畑の収穫から店の手伝い。

 果ては庭の草むしりなど、割と手広く受けていた。


 アイリさん曰く、[ブロンズ]ランクになりたての、イキリ散らかした冒険者が雑用の依頼など受けないので、俺達が依頼を受けてくれることに対して助かる、的な事を言ってくれていた。


 俺には、この世界で身寄りと呼べる存在が無い。

 少しでも街の住人の、印象を上げようという下心もあった。


 冒険者は乱暴で礼儀がなっていない、などと言われているからだ。

 勿論まともな人も多いが、一部の人間が全体の印象として、とらえる人は一定数居る。

 なので、その辺に気を付けながら、丁寧に接するように心がけていた。


 そのお陰か、時折店の人や以前依頼を受けた人達に声を掛けられ、雑談をしたりする様になっていた。


 そんなこんなで今日も声を掛けられた。


「おい。そこのヒューマン」


「あ”ぁ”?」


 聞き覚えのある声がしたので振り返る。


 そこに立っていたのは、顔の良い金髪の男だった。

 髪は太陽の光でキラキラと輝いており、元の世界ならモデルをやったら直ぐに売れっ子になるであろう美貌をしていた。

 細身の体は足が長くスラっとしていて、そして何よりも特徴的な長い耳。

 そう、皆さんご存じ異世界定番の顔面偏差値クソ高種族、その名もエルフである。


 そんな面の良いエルフが、腕を組みながら言い放つ。


「ハイゴブリンを倒したっていうのは本当か?ただの太ったゴブリンを、見間違えてたんじゃないのか?」


 初っ端から喧嘩を売る様な物言いをしてくるコイツは。


 そうだな⋯⋯。

 俺がこの世界に来てから3週間くらいだろうか、カレンダーなんてないので正確な日数は分からないが。

 まぁ、それくらいに出会ったエルフだ。


「勿論ちゃんとしたハイゴブリンを、狩ったに決まってんだろぉ!?」


 ヤンキー漫画の様に、顔に血管をビキビキ浮かべながら返事をする。

 どこからともなく!?マークが現れる。


「なんだ。僕はてっきりヒューマンのホラ話かと思っていたよ」


「こっちには優秀なタンクがいるんでねぇ!?ついでにゴブリンメイジも仕留めてやったよ!?」


 ビキビキ言わせながら、ガチ恋距離まで顔を近づける。いや、近いな⋯⋯。


「なるほど~。なら、その辺の話を詳しく聞かせて貰おうじゃないか。

 ⋯⋯本当の事ならね」


「上等だ!?あそこの飯屋行くぞ!?」


 近くの飯屋を親指でクイッと指さす。


「いいだろう」


 その後、俺達は仲良く飯屋で飯を食いながらゴブリンと遭遇した時の話をした。


「マジで死ぬかと思ったわ~。シャロが頑張ってくれたって訳よー」


 コイツには何時もこういう感じの対応をしていた。



 コイツとの出会いはこんな感じだった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい。そこのヒューマン」


「あん?」


 その日は、市場に行こうと思い街を歩いていた俺は、いきなりヒューマン呼びされたので声に反応して振り返った。


 振り向いた先には。

 金髪で顔の良い男と、隣には同じく金髪の前髪で目を完全に隠している女が立っていた。


「⋯⋯何か用ですか?」


 一応初対面という事もあり敬語で対応する。


「冒険者ギルドはどこにあるんだ?」


 めっちゃ上から目線。

 若干なんだコイツと思うが異世界だからな、元の世界でも態度が横柄な輩は幾らでも居るわけで。

 そういう輩だろうと思う事にした。


「あっちの道を真っ直ぐ行って、鳥の旗がある建物がそうですよ」


 俺は市場に行く途中だったので、場所の説明だけでその場を離れようと考えていた。

 こういう輩には関わらんとこ。


「案内しろ」


 なんなんコイツ。

 この異世界に来て初めてだぞこんな奴。

 俺が顔をしかめるのを見て、もう1人の女の子が頭をペコペコ下げて来た。


「すいません!私達この街に来たばかりで、冒険者として登録したいのですがギルドの場所がわからなっくって。出来れば教えて頂けないでしょうか!」


「⋯⋯しょうがない、付いてきてくれ」


 俺はかわいい女の子には弱い男だ⋯⋯。

 いや男なら誰しもそうだろう。

 エルフなんて可愛いのが、確定している以上無下にするわけにはいかない。


 しょうがないよね元の世界ではピュアな高校生男子だったもの。

 それに俺も、最初はこんな感じでカールさん達と出会ったしな。


 俺はエルフ2人を連れて、ギルドに向かった。


 ◇


 道中無言。


 特に問題無くギルドに到着したので、受付まで連れていく。

 アイリさんが居たのでそこに向かうことにした。

 別に押し付けようなんて思ってはいなかった。


「アイリさん、冒険者志望のエルフ連れてきました」


 アイリさんにエルフ2人組の対応をパスする。

 勿論押し付ける気は無い。


「ようこそ。冒険者ギルドへ。冒険者へ登録という事でよろしいですか?」


「ああ。僕とコイツの登録をしてくれ」

「よ、よろしくお願いします」


 正直帰りたいが、この後のエルフ(男)がどういう対応をするのか、気になるので残ることにした。


「では、先ずこの紙にお名前と職業をお書きください。

 その後に魔力の属性を診断いたしますが、事前にわかってる場合は自己申告でも構いませんよ」


 俺の時と同じだな。そんな事を思いながら眺めていた。


「書いてくれ」

「はい、わかりました」


 マジかお前。

 エルフの男が女の方に紙を渡して、書く様に指示していた。

 女もそれを受け取り書こうとするも、アイリさんより。


「ご自分でご記入を、お願いしますね」


 有無を言わせない笑顔の圧力で注意していた。


「なぜ僕が書かないといけないんだ」

「いいから書け」


 俺はビクッとした。


 アイリさんって怒ると怖いなんて言う噂を耳にしていたがマジで怖かった。

 笑顔から無表情にスッと変わるんだもの。

 俺に向けられたわけじゃないのに、顔を反らしてしまった。


「う⋯⋯。⋯⋯わかった」


 渋々用紙に記入し始める。

 ふと思ったことがあったので、口に出して聞いてみた


「そう言えば名前なんて言うんだ?

 」

 ここに来るまで、名前のやり取りはしていなかったのでお互い知らなかった。

 そもそも無言だったし


「ん?あー。⋯⋯!!エル雄だ。そう僕の名前はエル雄だ」


 ぜってー偽名だろ。

 その言葉を言いそうになるが、何とか飲み込む。


「そうか。俺はソラって言うんだ」


「それでこっちが⋯⋯あー、そう!エル子だ」

「リリアーヌといいます」


「事前の打ち合わせ位しておけよ」

 思わず声に出た。


「偽名で登録される際は、ギルドに事情を説明してもらわないといけませんが、どうします?」


 俺達のやり取りに、アイリさんのフォローが入る。


「⋯⋯わかった。事情は後で説明する。今はこれで登録してくれ」

「お、お願いします」


 2人は記入した紙をアイリさんに渡す。


「はい。⋯⋯では登録はこれにて終了です。カードを発行しますので少々お待ちください」


 アイリさんが奥に引っ込んでいった。俺の時もそうだったがこの後の展開は⋯⋯。


 ⋯⋯あれ来ないな。

 筋肉モリモリマッチョマン3人組が来ない。

 周りを見渡す。

 居た、近寄ってこないな⋯⋯。


 近寄って聞いてみる事にした。


「いや。まぁ⋯⋯あれだ」

「エルフ族はナチュラルに俺等を、短命種呼ばわりして見下してくるからなぁ⋯⋯」

「へっへっへ。見た目は若くても、俺等よりも遥かに年上だしな」


「だよなぁ。あの人らのちょっと前は10年前のことだったりするから話合わねえんだわ」


「わかる。これ今流行ってるよね。とか言って見せて来たのが、俺が子供の頃流行ってたのだったりするしな」


 知らない人2名も参加してきた。

 エルフに対しての口コミがわかった。

 あんまり関わらない方がいいか⋯⋯?


 俺はそのままギルドを離れる事にした。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんな出会いだったが。

 俺が幾ら関わらないようにした所で、向こうから来られたら無意味なわけで⋯⋯。


 時折ギルド内や、街で出会ってはヒューマン呼ばわりの上から目線な物言いなので、顔に血管をビキビキ浮かべながら対応していた。


 シャロと一緒に居る時も、遭遇するわけで。


 目隠れエルフことエル子、もといリリアーヌはシャロと交友を深めていった。

 時折休みを合わせては2人で出かけてたりしているようだ。


 仲が良さそうで良かった。

 シャロは何だかんだで人懐っこいからな。


 俺とエル雄はギルドの訓練場で時々殴りあっていたりしている。

 理由?ムカつくからだよ。

 煽ると素直に乗って来てくれるし。


 エル雄は弓と魔法がメインだが。

 近接メインの俺と、いい勝負を繰り広げる事が出来る。

 俺が弱いわけではないと思いたい。


 そういう事もあり、街で会えば話をする程度の関係にはなっていた。

 なっていたんだが⋯⋯。


 時折ギルド内で、ヒソヒソ声の会話が耳に入ってくる。


「あいつエルフ国の⋯⋯」

「⋯⋯あぁ第三⋯⋯」

「⋯⋯行方不明って⋯⋯」


 聞きたくない情報が時折聞こえてくる。

 極めつけは、街に住むエルフの対応だった。


 エル雄が近くを通る際に。

 一歩下がり手を胸に当て頭を下げていた。

 それに対してエル雄は、片手を挙げる仕草をする。

 王族がお忍びだから気にするなとかそんな感じの対応か?真実は闇の中⋯⋯。


 もしかしたらエルフ達が悪乗りしている可能性もある。

 その可能性に賭ける事にした。


 エルフ族のゴタゴタに、巻き込まれない事を祈ろう。


 そんな感じの日々を送っていると。


 冒険者ギルドより、周辺地域の調査結果が発表されることとなった。

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