10.シャロ

 あたしの名前はシャロ!


 ドレスラードって街で宿屋を経営している、両親と共に住む女の子!


 冒険者ギルドに登録するには、15歳にならないといけないんだけど、つい最近15歳になったからやっと登録することが出来たんだよねー。


 普段からお父さんの狩りに付き添っていたから、いくつかの魔物の対処は出来るし、解体も出来る。


 なのにギルドに登録しても、だーれも一緒に依頼をこなしてくれなかったんだよね。


 理由はあたしが女のタンクだから。


 そりゃぁ登録したての[ブロンズ]ランクをパーティに入れてくれる人はいないけど。同じ[ブロンズ]ランクの人も、あたしが女のタンクだからって理由で組んでくれない。


 ムカつくー。


 仕方なしに実家の宿屋を手伝いながら、1人でも出来る雑用の依頼をこなす日々。


 そんなある日、うちの宿屋に併設している酒場の常連である[シルバーファング]のマルさんから、薬草の群生地を知っていると聞き出した。


 マルさんが狙っている女の子の好みと引き換えに教えてもらう約束を取り付けた。

 勿論お酒に酔っているうちに。


 ひっひっひ。


 釈然としないマルさんを連れて、早速薬草採取の依頼を受けにギルドへと向かったんだけど。

 そこで掲示板の前に居る人に、マルさんが肩を叩き声を掛けたの。誰?

 どうやら知り合いみたい。


 うーん?というか昨日から、うちの宿屋に泊ってた人?

 宿に泊る人は覚えるようにしているから、間違いないかな。

 それに髪が黒って珍しいんだよね、初めて見た気がする。


 [ブロンズ]ランクの掲示板見てたってことはあたしと同じなのかな?


「マルさんに薬草採取の依頼に同行してもらうんだけどいっしょにどお?君うちに泊ってる人でしょー?」


 どうせ断られるだろうけど。一応聞いてみた。

 ⋯⋯え?一緒に行ってくれるの?。


 一緒に行くことになった。もしかして良い人?


 道中話してみて分かったことは、すんごい世間知らずってこと。

 世間知らずというか、何も知らないって感じ。

 生活魔法すら知らない人なんて初めて見た。

 やばすぎて笑っちゃった。


 アハハハハ


 そんなこんなで一緒に薬草採取をしてー。

 マルさんが冒険者の心得的なのを決め顔で言ってた。

 お父さんも似たようなこと言ってたっけ?臆病なくらいが丁度いいとか。


「うちに泊ってる人もたまに帰ってこない事あるんだよねー」


 冒険者をやっている以上は死ぬのはよくあることなんだよねー。


「ソラはちゃんとうちに帰って来てよね!うちの宿屋の収入が減っちゃうしね」


 末永く利用してもらわないと。普段はそんな事を言わないけど、何となく言いたくなった。



 そうして、あたしとソラは出会った。


 ◇


 それからあたし達は、一緒に依頼をこなしていった。


 街の雑用がメインだったけど。

 それ以外の時間はギルドに併設されている訓練場で模擬戦闘をする日々。

 結構楽しい。

 いや、大分楽しい。


 ソラはあたしが女なのに、タンクをしていても気にしないみたいだった。

 むしろ「メイン盾として頑張ってくれ」なんて言ってたけど、メイン盾ってなんだろう?。


 そんなソラと訓練場で模擬戦闘をよくするんだけども⋯⋯。

 正直弱い。

 最初の頃は動きも遅いし、練習用の木剣での攻撃もよわよわで。

 最初、えぇ⋯⋯。って思っちゃった。


 盾で殴ったりするとそのまま転がって吹っ飛んで行ったりするし⋯⋯。

 それでも最近はそれなりに出来るようになってきたよねー。


 それとは別で、回復魔法の修練に来ている人にも、顔と名前を憶えられてるみたいだった。

 なんならソラが訓練場に来ると、何人か近くに寄って来てるし。

 他の人達がそんなに怪我をするような訓練をしないってのもあるのかな。骨がどうとか聞こえてくる。

 あ、追い払った。


 意外とソラの周りは人が集まってきたりするんだよねー。

[ゴールド]ランクの厳つい3人と、仲良く喋っていたりするし結構すごかったりするのかな?

 弱いけど。


 それから何日かたって。


「ねぇー、ソラっち今日はどんな依頼受けるの?」


 掲示板の前に来たあたしたちは、どんな依頼を受けるか相談していた。


「そうだなー。今日はいよいよ魔物の依頼を受けてみるか」


 おー。ついにこの時が来たか。


 ⋯⋯それなら。


 時々お父さんと狩るホーンラビットを提案してみた。

 うちの宿屋でもホーンラビットのお肉は良く使ってるし。

 なにより、手軽に数狩れるってのがいいよね!


 あたし達の、初めての魔物討伐はホーンラビットになった。


 早速お父さんの時と同じ様に、魔道具を使ってホーンラビットをおびき寄せる。

 ホーンラビットって、こっちに向かって勝手に突っ込んで来てくれるから楽だよねー。


「え?あー、この魔道具使うとホーンラビットが好きな匂いが出てきて、大量に襲ってきてくれるからウハウハなんだよねー。」


 ソラも頑張って狩ってくれてる。楽しいねー。


「アハハハ!どんどんかかってこーい!」


 魔物と戦ってる時は何も考えなくていいから楽だなー。


「ぐっあぁぁ⋯⋯」


 ⋯⋯ん?小さく悲鳴が聞こえたから見てみたらホーンラビットの角がソラのお腹に刺さっていた。


「あ!ソラ大丈夫?!」


 あたしは直ぐに駆け寄りながら、<収納魔法アイテムボックス>からヒールポーションを取り出す。

 チョーっと我慢してね。それー!


 直ぐにソラの傷を治す。


 ハプニングもあったけど、大量に狩る事が出来てあたし的には大満足。

 ソラも魔法を覚えたみたいだし、あたしも早く〈挑発タウント〉以外のスキル覚えたいなー。


 それからも、宿屋の手伝いもあるから朝はあたしの方が早く起きる。

 だからソラを起こして、そのまま一緒にギルドに行って依頼を受けたりする日々が続いていった。


 ワイルドボアを2人で狩りに行ったりもした。

 うーん、お父さんは一発で首を落としていたけど⋯⋯。

 あたしもまだまだだなー。


 他にも色々あったなー。


 マルコさんに鍛冶屋を紹介してもらったり。


 初めてお酒飲んでみたりしたなー。

 最初はソラと[シルバーファング]の人達と飲んでたけど、皆帰って行ったからソラを引きずって、ソラの部屋でそのまま飲み続けることになったり。

 ソラはお酒に弱いみたい、あたしは全然だったけど。

 そのままソラの部屋で寝てたら、朝起きた時にお父さんが、ソラと肩をくっ付けながら食堂の隅で何か話してたなー。

 何を話してんだろ?


 え?昨日はあの後、あたしがソラを引きずって部屋に行った後に少し飲んで、ソラが「床が冷たくて気持ちー」って言って先に寝てたでしょ?



 そんな感じで日々を過ごしていて。最近ではソラも慣れてきたのか、ワイルドボアを狩る事になったんだけど。


 まさかゴブリンに遭遇するなんてびっくり。

 街の近くの森に出るなんて聞いたことないのに。初めて生で見た。

 うん、さっさと殺しちゃお。死ねやー!


 ソラと連携して3匹撃破!ソラが2匹倒してくれたから、あたしは1匹倒して終わり。

 ゴブリンは討伐部位と魔石位しか旨味無いって話だし、さっさと討伐部位と魔石を取ってワイルドボア狩りに戻ろー。


 その後もワイルドボアを、探したけど全然見つかんないし⋯⋯。


 なんか変な感じする。うーん?


 見つからない物はしょうがないから、街に戻る途中に見つければラッキー位の感じで戻ることにした。

 暫く森を歩いていると。


 いる。なにあれ。


 先頭を歩いていた、あたしの視界に入った瞬間。

 すぐにその場にしゃがみ込んだ。

 後ろから付いて来たソラも、直ぐにしゃがんで側に寄って来てくれた。

 無言でスッと前を指差す。


 あれは⋯⋯、多分ハイゴブリンってやつ、かな?

 ギルドの講習で見た気がする。確かゴブリンの上位種だったかな?


 さっきのゴブリンみたいに、特に怖いとは感じないしいけるかな?


 ソラに提案する。

 あたしがハイゴブリンを抑えてるから、その間にもう1匹の方をソラが倒して、その後ハイゴブリンを2人掛かりで倒す。完璧な作戦だ。


 片方は普通のゴブリンっぽいし、ソラが直ぐに倒して2対1に持ち込めば問題ないよね。


 ソラは心配してるみたいだけど、冒険者をしてる以上は不測の事態は何時でも起こりうることだし、魔物の討伐に出たっきり帰ってこない人は、うちの宿屋でもたまにいるんだよね。

 よくある事よくある事。

 前払いで何日分か収めてる人ならおいしいけど。

 でも、ソラにはそうなってほしくないかな。


 それじゃいっちょやっちゃいますかー。

 あたしは茂みから勢いよく飛び出して注意を惹く。

 へいへーい!


 小さい方のゴブリンを、ソラが魔法で引き付けてくれた。

 その拍子にハイゴブリンもソラに向かおうとしたから〈挑発タウント〉で敵意をこっちに向かせる。


 ソラが来るまで耐えないとなー。


 ハイゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる。

 ドゴンと鈍い音が響く。痛ったー。


 盾で受け止めたけど、すごい衝撃。手が痺れる⋯⋯。


 正面から受けるとキツイなー。今度は盾で威力を受け流そう。


 またすぐに棍棒が振り下ろされる。よいしょ!


 よし!うまく受け流せた。でもやっぱり威力やばー、攻撃する隙出来るかなー。


 あー!ムカつくー!全然攻撃の手緩めないし、なんなのコイツ!

 そうしてると、不意に黒い靄がハイゴブリンの顔に掛かった。


 黒い靄が掛かったハイゴブリンは、棍棒を滅茶苦茶に振り回し始めたので、直ぐにその場を離されソラの近くに駆け寄った。


「うへー、腕痛いしキッツいねー」


 愚痴を零しながら駆け寄ると、ソラがポーションを渡してくれたから、腕に半分掛け残りは飲み干す。


 向こうも〈盲目ブラインド〉の効果が切れたみたい。

 態勢を立て直して二人掛かりで一気に決めよー。


「〈挑発タウント〉!」


 再度自分に注意を惹き、ハイゴブリンが向かって来た。

 突っ込めー!


 振り下ろされた棍棒を盾で受け止め。一気に力を入れて弾き返す。


「〈闇の棘ダーク・スパイク〉!」


 盾で弾き返し、のけ反ったタイミングで、ソラが新しい魔法を唱えた。

 連携の為にお互いの魔法やスキルは教えあってたから。

 隠してたなんてことは無いだろうし、もう1匹を倒した時に覚えたのかな?いいなー。


 地面に浮かんだ魔法陣から棘の様な物が飛び出してきて、ハイゴブリンの足に突き刺さった。

 おおー、かっけー!


 チャーンス。

 直ぐにソラが後ろから飛び出しハイゴブリンの腹を切り裂いた。

 あたしが狙うのは首。死ねオラー!!


 ソラが背中を切りつけるのと同じに、首に斧を打ち付ける。

 首の途中で刃が止まったけど、ハイゴブリンはその場に倒れた。


 ⋯⋯死んだよね?


 ーーーーーーーーーーーーー

 レベルアップしました。

 ーーーーーーーーーーーーー


 おおおぉ!レベルアップしたー!


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 <筋力増加ストレングス>を習得しました。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


 新しいスキルだ!やっだぁ⋯⋯だだだだ!。

 新しいスキルを覚えた事で頭に頭痛が走った。


 いったー。

 ん?ソラがこっち見てる⋯⋯。

 あたしは笑いながら、手を挙げてハイタッチを求めた。


「イエーイ!」


 その後は<収納魔法アイテムボックス>に2匹の死体を収納して街に帰還することになった。


 ソラと一緒なら何でも倒せる気がするね!


 あたしは、今まで感じた事のない感情が芽生えた気がした。

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