30.新たな宿泊客
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己の無力さを嘆き、2度とこの様な事を起こすまいとシャロと誓い合い。
バーコードハゲへ、恨みの怨嗟を呟きながら宿屋への道を歩いていた。
まぁ実際は、そんな事微塵も思って無く。
俺達の実力的にも、ギルドマスターへの報告の場に居た所でやることも無い為、素直に家に帰る事にしたのだ。
昨日から走りづめで、一刻も早く休みたいという思いもあった。
シャロもその考えには賛同してくれたので、こうして宿に戻る事にしたのだ。
報酬に関しても、夜に宿へ持って来てくれるらしいし。ココは素直に休ませ貰おう。
夜にはアレックス君に料理を作ってもらって、今回の打ち上げをする予定だしな。
シャロと並んで宿に向かっていると、宿の周りに軽い人だかりが出来ているのが見えた。
「なんか人多くない?」
シャロも気づいたようで疑問を口に出していた。
「何かあったのか?」
時間はお昼時に近くなっていたが、この宿の食堂は宿泊客以外への、昼はやっていない為。
食事目当ての客という事も無いだろう。
もしかして事件でも起きたのだろうか。
シャロと視線を交わしお互い頷くと、同じタイミングで宿に向かって駆け出した。
シャロが人を掻き分けて宿の入り口の扉を開ける。
遅れて俺も宿に入る。
其処に居たのは、筋肉で服がパツパツで長身の強面の男が立っていた。シャロの親父さんである。
その傍らに。
薄桃色の髪の女の子が立っていた。
[
「あ!アナちゃんだ!」
シャロも気づいたようで、随分とフレンドリーな呼び方をしていた。
「ん?ソラにシャロちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
アナスタシアがニコリと笑いながら、挨拶をしてくれたので俺も挨拶を返す。相変わらず可愛い。
「えー。今日はどうしたの?お昼は食堂やってないよー?」
「ご飯食べに来たわけじゃないよ?今日からこの宿に泊ろうかと思って」
「え?!この宿に?!」
「え?!うちのボロ宿に?!」
「ボロくは無いぞシャロ」
すぐさま親父さんの修正が入った。
「そんな事よりも、この宿に泊まるの?なぜ?」
「ソラ。そんな事とはなんだ。ん?」
親父さんに睨まれ。目を反らしてシャロの後ろに隠れた。
なんでもないです⋯⋯。
「そうだね。私の育った小屋よりはキレイだよ?ココはちゃんと窓もあるし」
「そうなんだー。」
シャロはサラリと流したが、俺も深くは突っ込まないでおこう。
「と云うか[
「私はココが良いかな。ご飯も美味しかったし。それに、前の所はもう引き払っちゃったんだよね」
「え~。じゃあ今日からうちに泊まれるね!良いでしょお父さん?」
「んー。いや、まぁ良いんだが。本当にいいのか?あんた程の冒険者がうちの宿に泊まるのはだな⋯⋯。その、外聞が悪くなったりしないか?」
親父さんが珍しくしどろもどろだ。もしかして噂を気にしているのか?
「私が黙らせるので問題ありませんよ?」
親父さんの返答に、アナスタシアは笑顔で恐ろしい事を言っていた。
「そうか⋯⋯。そこまで言うならわかった。シャロ部屋に案内してあげてくれ。場所はソラの部屋の右隣だ」
「はーい。アナちゃんこっちだよー」
シャロがアナスタシアの手を引き、2階へと連れて行く。
「⋯⋯良かったんですか?」
俺は親父さんに問いただす。明らかに泊めたくない感じがしていたしな。
「仕方ないさ。[
流石の親父さんでも、[
「それに⋯⋯。シャロが懐いてるみたいだしな。悪い娘では無いんだろ?」
「俺は最初からそう思ってましたよ。血濡れの魔女って言っても、本人じゃないんですから。噂は噂ですよ」
実際俺は本気でそう思っていた。
会ったことも無い奴の所業を自分のせいにされたんじゃ、堪ったものじゃないだろうし。
「フッ、そうか⋯⋯」
「ええ」
「ソラァアー!上来てぇー!!」
声でか。ハイハイ。今行きますよ。呼ばれたので2階に行くことにした。
「後は任せるぞ」
親父さんの声を背中に受け階段を上って行った。
俺の部屋の隣の部屋からシャロが顔を出していた。
「こっちこっち」
「はいはい」
部屋の中を見るとベッドにアナスタシアがちょこんと座っていた。
改めて思うが本当にこの部屋でいいのだろうか。シャロに聞いてみた
「なぁシャロ。もっといい部屋ってなかったっけ?」
「無いねー、部屋のつくりは全部一緒だし」
「そうか、なら仕方ないか」
俺は納得した。俺は納得したが⋯⋯アナスタシアさんはぁ~?
「私も問題ないよ?育った所よりは狭いけど。自由に出入りできるし」
「あっ⋯⋯。そ、そうだ!ベッドはどう?硬くない?大丈夫?」
アナスタシアの幼少期の闇が垣間見えた気がしたので話題を変える。
「うん。寝具は一通り買ってあるから大丈夫かな」
「⋯⋯なら大丈夫だな」
「そうだ!今日の夜打ち上げするからアナちゃんも一緒にどお?」
シャロが思い出したかの様に言う。
「確かに。歓迎会も兼ねてってのもいいかもな」
俺も便乗する。
「ほんと?2人が良いならお邪魔しようかな」
「もちろん~」
2人でキャッキャしている。
女の子のこういう光景は良いものだ。
俺は笑みを浮かべながら頷いていた。
「それじゃあ。夜にまた食堂で集合ってことで」
正直疲れが出てきていた。そろそろ横になって休みたい⋯⋯。
「あ、そうだね。依頼で街出てたんだよね?ごめんね引き留めて」
「そうだねー。あたしも少し寝ようかな」
「だな」
お互い別れを告げて、自分の部屋へと向かった。
俺は自分の部屋でベッドに横たわり一息つく。
⋯⋯ん?何で俺達が依頼で街を出てたって知ってるんだ?
⋯⋯まぁいいか。親父さん辺りが言ったのかもしれないし。それよりも疲れた。
横になると自然と瞼が落ちてくる。俺も夜まで少し寝よう。
ZZzzz…。
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