異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~

ノエ丸

1.異世界転移は草原スタート。(チュートリアルはありません)

 夢を見ていた。


 何の夢なのかわからないが一人の男と対峙していた。


「なぜ君と戦わなければいけないんだ!!」


 目の前に居る男は、苦悶に満ちた顔をしながら声を荒げ、叫んでいた。


「他に方法があったはずだ!」


 続けて言う男に、自分が何かを返答しているのがわかる。

 わかるが——。どんな言葉を発しているのか分からなかった。

 夢の中特有のフワフワした感じがする。

 俺は腕を持ち上げ、男に掌を向ける。すると黒い魔法陣が浮かび、黒い槍の様な物が高速で打ち出された。

 男はそれを寸前で回避し、直ぐに剣を構え身構える。

 何だか楽しい気持ちが沸き起こっていた。

 まるで——。目の前の男との戦いを望んでいたかの様に。

 直ぐに、幾つもの魔法陣が出現する。

 先程と同じ黒い槍を、何本も男に向けて打ち出す。

 男はそれも回避し、幾つかは手に持つ剣で弾き。防いでいた。


 男の目が。


 顔つきが。


 覚悟を決めた者のそれに変わる。


 良い顔をするじゃないか——。俺は心の中でそう思っていた。

 男が掌を此方に向ける。

 黄色く輝く魔法陣が現れ——。


 ——瞬間。


 空気を切り裂く稲妻が迸る。


 寸前の所で其れを回避し、コチラも次の魔法を打ち出す。

 地面に黒く輝く魔法陣が浮かび上がり、棘と呼ぶには太く長いソレが幾つも飛び出し、男を襲う。

 男はこれを飛び上がる事で回避し。何もない空中を蹴り、距離を取る。


 距離を取った男は何かの呪文を唱えた。

 男はその体にバチバチと音を立てながら、稲妻を纏った。

 そして、一気に此方に向けて駆け出してくる。


 ——ちっ。速いが対処出来ない程じゃない。

 男が振り下ろした剣を受け止め。此方も反撃の為の魔法を即座に打ち込む。

 あっさりと回避された。

 続け様に雷の魔法を打ち出される。

 直撃を食らい。体が痺れる。


「ぐぅぉおお!」


 何度も食らうのは不味いな


 苦し紛れに自分の周りに幾つか魔法をばら撒くもことごとく避けられる。

 痺れはまだ残っている。

 男が剣の切っ先を此方に向け構える。

 速度に任せた一点突破をする気だろうか。


 受けて立とうじゃないか


 俺は、迎撃するべく肩に剣を構える。

 男が地を蹴り。

 光の軌跡を引きながら向かってくる。

 時間にしたらほんの一瞬だが、俺達にとっては永遠とも言える様な時間だった。


 そして——。


 ——男の剣はあっさりと俺の胸を貫いた。


 想像以上の痛みが俺の胸に走った。


「な、なんで——」


 男は驚いた顔をしてこちらを見ている。


 ——そりゃそうだろうな。

 なんせ俺は、自分から刺さりに行ったのだから。


 向けられた切っ先に、自ら身を沈めた。


 口から血を吐きながら倒れこむように、男にもたれ掛かる。


 抱き止めた男は震えていた。


「どうして——。

 なぜ避けなかったんだ!」


 男に向け何かを口にしたが、そこで俺の意識は途切れた。



 ◇



 ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ ピッ


「んぅー」


 なんか夢を見た気がする、胸の辺りさすりながらベッドから身を起こした。


 何かの夢を見ていたが、内容までは正確に思い出せなかった。


 思い出せなかったが胸に残る違和感だけはハッキリと覚えていた⋯⋯。


 まぁいいや。取り敢えず、顔を洗って眠気を取ろう。


 自室のある2階から1階へ降り。洗面台へと向かった。顔を洗い、その後に簡単な朝食を取った。


 両親は共働きで、家庭より仕事を取る様な人間なので、朝でもあまり顔を合わせることはなかった。


 あれこれ口うるさくされずに自由にできるので楽なのだが。


 ⋯⋯小さい頃は寂しく感じていたな。


 唐突にそんな事を思い、俺は家を後にした。


 ◇


 いつもと同じ通学路を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「おはよう。空」


「おう、おはよう」


 声のする方を振り返り、何時も通りに朝の挨拶を返す。


 声を掛けてきたのは幼稚園からの友人であり、親友の佐々木翼ささきつばさ


 顔もよければ性格も良い。

 文武両道で女にもモテる。

 物語でいう所の、主人公のような存在だ。


 因みに俺の名前は宮野空みやのそら


 成績は平均より少し上くらいをキープしているし運動神経も普通だ。

 顔は、⋯⋯多分平均くらいだろうと思っている高校2年生。


 二人で学校までの道のりを喋りながら歩いていると、不意に今朝見た夢の話になった。


「そう言えば今日変な夢見てな~」


 内容は詳しく覚えていないが、断片的な内容を話し、胸に嫌な感触があったことを話した。


 何故か翼は考え込むようにしながら、俺の夢の話を聞いていた。


「僕もここ最近、同じ内容の夢を見るんだよ。なんだか空の見た夢と似ている気がするよ。もっとも僕の場合は刺す方なんだけどね⋯⋯」


 翼は自分の手を見つめながら、少し悲しそうな顔をしていた。


 確かにあの夢の男が翼なら、俺を刺し殺したのは翼ということになる。


 仮にあの夢が本当だとして、コイツに殺されるなら⋯⋯。やっぱ、可愛い子に殺されたいな。


  直前までコイツに殺されるのもありかなと思ったが、どうせ殺されるなら好みの子がいい。


「まぁ、何かしら事情が有るんなら。刺す相手がお前なら許すだろうけどな」


 ハッハッハと笑いながら言うと、翼は少し怒りながそれを否定した。


「どんな事情が在っても。僕は君を殺すなんて事はしたくないよ⋯⋯」


「⋯⋯そうか」


 なんだか空気が重くなってしまったな。話題を変える為に今日の授業の話を切り出した。


「そういえば、昨日出された数学の課題でわかんねーとこあんどけどさ、答え教えてくんね?」


「まったく、写すのは良いけど。今度、何かで埋め合わせはしてよ?」


 フフフッと笑いながらそう言ってきた。俺が女子なら余裕で落とされてるな。


 持つべきものは秀才な親友だよなぁ。

 心の中で高らかに勝利宣言をする。


 俺は、この高スペックの親友に感謝の気持ちを抱きながら学校への道をいつも通り、他愛のない会話をしながら共に歩んでいった。



 その後、特に面白い事は起こらず、普段通りの時間に学校へ到着し、クラスへと向かった。


 因みに、なんの奇跡か小中高と俺等はずっと同じクラスなのであった。


 どっちかが休みでもない限りは何時も一緒に登校していた。


 それが原因なのかはわからないが、俺が教室の扉を開けた時。


 強烈な光に包まれた——。



 ◇



 光が消え。


 眩しさが無くなり目を開くと——。


 そこは見慣れた教室ではなく。


 見渡す限りの草原が広がっていた。


 勿論見たこともない草原だ。




「⋯⋯え?なにこれ」


 あまりにも現実離れした現象に脳がフリーズした。どういうことだ、何が起きた。


 直前の行動を思い返す。


 えーっと、俺と翼は学校に何時も通りの時間に着いたよな、それで教室への扉を開けて⋯⋯。


「そうだ!翼は!」


 慌てて周りを見渡すも、自分以外には誰も居らず、草原だけが広がっていた。



「一体何が起きたんだよ⋯⋯」


 俺は1人そう呟き、頭を抱えその場にへたり込んだ。


 少しの間、思考が止まっていたが、自分の荷物を確認することにした。


 着ている服は制服のままか

 カバンも背中に背負っているし中身も無事だ。

 ここが何処なのかを確認する為に立ち上がりポケットからスマホを取り出し画面を見る⋯⋯。


 そこには、圏外の文字が映し出されていた。


「もしかして此処って、異世界というやつなのか?」


 俺は時折、漫画やアニメで目にする異世界という所に来てしまったんではないかと考察する。


 取り合えず足元に生えている草をじっと見るも、専門的な知識がないのでこれが地球産の植物なのかもわからない。ちぎってみる、普通の草だな。味は⋯⋯苦っ!ぺっぺっ!


 他に何かないかと周りを見渡し、そのまま空を見上げると。

 異変に気付く。


「太陽二つあるじゃん」


 割と簡単にここが日本ではないことが分かった。

 ⋯⋯地球ですらないが。


 太陽っぽい天体の横に、半分位の大きさの同じく光を放つ天体が俺の目に映った。


 つまり太陽が二つあるという事なのだろう。

 本当に太陽かあれ?異世界では元いた世界の常識は通じない様だ。


 雲一つ無い良い天気。


 俺はもう一度その場で頭を抱えた。

 取り敢えず、今後の事を考えないと。


 一応、此処が異世界だと云う事を前提に動くとしよう。


 確かこういう場合は、神様的なのが出てきてチート能力や便利な道具をくれたりするのが定番だ。


 神様的なのは待てど暮らせど現れる気配が無い為、その線は無いものとする。


 次は、ステータス画面とかそんなのが表示される系だよな。


 ⋯⋯ゴホン。


「ステータスオープン!」 

 シーン 

「⋯⋯出ねぇ!」


「ステータス!プロフィール!メニュー!ファイアーボール!!」


「うおおおぉお!エクスプロージョォン!!」


「なんも出ねぇ!?」


 地面に両手を叩きつけ、四つん這いの体勢で叫ぶ。


「クソゲーやんけ!?」


 今後どうしたらいいんだこれ⋯⋯。


 この世界の情報が一切無い為どう動くのが正解かもわからない。

 体勢を変え体育座りになる。


「言葉とか通じるのかな⋯⋯」


 1人寂しく呟く。

 一応草原の向こう側に道の様な物は見えるんだよなぁ。


 街道っぽい感じかな?


 人類は居るっぽい感じ?


 ジッとしててもしょうが無いので、取り敢えずは村や街を目指してみよう。


 今後については、⋯⋯その後考える事にしよう。


 何も考えずに、街道に向かって歩いてみることにした。状況が分からない今は、悪い方向に考えてしまうからな。


 一応、学校に行く前にコンビニに寄ってお昼と飲み物を買っていたのが救いだな。

 一食分しかないけど⋯⋯。


 俺は小高い草原から見える街道を目指して歩き始めた。


 体感で10分程歩いただろうか、俺は街道に到着し、どちらに向かって進むべきか悩んでいた。


 道の先を見ても村や町が在るのかわからない。


 もっともこの道を進んでも村や街がある保証なんてないしな。


 どうしたもんかね⋯⋯。

 そんな風に考えていると思わぬ出会いが待ち受けていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

初めての作品となります。

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