2.街道で
何処にでもいる普通の高校生である。
他愛ない会話をしながら教室に着き扉を開けると、突然目の前を強力な光に包まれた。
数秒で光は収まり目を開けると。そこには見覚えのない草原が広がっていた。
◇
草原の小高い丘から見えた街道に向けて歩きだした。10分位歩いただろうか、目的の街道に辿り着いた。
街道に着いたは良いが、どちらの道の先にも街らしきものを確認することは出来なかった。
どうしたものか・・・。下手に動いて今以上に悪い状況に陥るのだけは避けたい。
学校に向かう為に身に着けていた物以外に何も無い。精々カバンに入れている筆記用具と途中コンビニで買った昼飯位なものだ。
チート能力や神様の加護なんて物もない。
平和な日本で生まれ育ち、争いとは無縁の高校2年生が異世界で生きていけるのだろうか・・・。
どちらの道に進むか考えていると、街道の片側からゆっくりと馬車が走ってきた。
馬車だ!実物は初めて目にするが漫画やアニメなんかでよく目にする形をしていた。馬?に似た動物が2頭で馬車を引っ張っている。
人が乗ってる。俺は初めて見る異世界人を目の前にして少し安堵した。
すいませーん!
俺は馬車に向かって大声で声を掛けた。馬車はゆっくりと速度を落とし少し離れた位置に止まった。
口ひげを蓄えた小太りの御者がこちらを怪訝な顔で見ていた。すると、馬車の荷台から4人の男が降りてきた。
それぞれ鎧を着ており大柄な男とがっしりした体系の男が2人。残りの2人は鎧を着てはいなかったが革の防具の様な物を身に着けていた。
4人がそれぞれ手に剣や弓といった武器を持っているのを目にしその場で固まってしまった。
やばい・・・。争い事とは無縁な日本で生まれ育った俺は男達を見て思考を巡らせていた。
迂闊過ぎた。此処が異世界なら価値観が日本とは根底から違うだろう。そもそも言葉が通じるのかも分からない状況だ。取り敢えずは両手を上に挙げて無害であることをアピールしてみる。
「何か用か?」
ガッシリした体系の男が剣の切っ先を此方に向けながら訪ねてきた。
相手は武器を持っていて4対1。4対1とか言ってるがそもそも勝負にすらならない。冷汗が止まらない。生まれて初めて体が震える程の恐怖を感じていた。
恐怖で固まっている俺を怪しんだのか4人が武器を構え臨戦態勢に入ろうとしていた。
ま、街に行きたいんですがどっちに向かえばいいでしょうか!
声を上擦らせながらそう答えると。剣を向けている男は仲間の顔をチラリと見た後御者に判断を仰いだ。
「だ、そうですが。どうします?」
御者は少し考える素振りをしてからこう答えた。
「そうですね・・・。まぁいいでしょう困っているみたいですから、街までご一緒しましょう」
良い人だ。それにどうやら言葉も通じる様だ。
ありがとうございます
丁寧に頭を下げながらお礼を述べ、4人の屈強な男に囲まれ馬車の荷台へと乗り込んだ。
荷台で体を小さくして座っていると色々と話しかけられた。
まず、御者をしていた人は商人とのことで名前はカール。隣町に商品の仕入れをした帰り道で俺と出会ったのだとだという。
そして、最初に馬車から下りてきた4人は[シルバーファング]というパーティ名で冒険者をしていると教えてくれた。
4人のリーダーで戦士のマルコ。タンクのハルク。狩人兼斥候のシール。魔法使いのアル。今向かっている街で生まれ育った幼馴染で、一緒に冒険者をしている様だ。
話してみると5人共、気さくに対応してくれた。初対面では殺気だっていたが、知らない人間がいきなり馬車を止めたの盗賊かなにかだと思ったのだろう。逆の立場だったら俺も警戒すると思う。
途中からカールさんがマルコさんと馬車の運転を交代してもらい、俺に色々と話を振ってきてくれた。といっても今俺が着ている学ランについて。珍しいのか、どこでその服を仕入れたとか誰が作ったのかを聞いてきた。
日本の市販品を買ったので、この世界では手に入れられないだろうからあまり詳しい事は言えなかった。異世界から来たなんて言っても信じてもらえないだろうし。厄介事の種になりかねない。
流石に異世界産の学ランを仕入れることは出来ない為、死んだ祖父が何処からか買って来た品という事にしておいた。咄嗟にそういう設定を考えながら話を合わせていった。
因みに、赤ちゃんの頃に拾われて山奥で育ったという設定にしておいた。
カールさん曰く、学ランに使われている布の質がかなり良いらしい。移動手段に馬車を使うぐらいだしその辺の技術力は日本の方が圧倒的に上なのだろうと推測する。
其処で俺は閃いた。学ランを売って当面の生活資金を稼ぐことが出来るんじゃないかと。
因みにこの服を売ると言ったらどれ位で売れますかね?
どうせこの格好でいても目立つし、早めにこの世界の服を手に入れておかないといけないわけだし。
「そうですね・・・。私の店の商品と交換でどうでしょうか?その服ですと旅に必要な装備は一通り揃えられると思いますよ」
それでお願いします
これで冒険に必要な装備は手に入りそうだ。もっとも騙されてなければだけど・・・。
俺との話を終えたカールさんは、馬車の御者をする為に戻って行った。
「そういえば、君は街に着いて何をするつもりなんだ?」
入れ替わりで荷台に戻って来たマルコさんは、俺が今後どうするのかを聞いてきた。
冒険者を目指してみようかと思います
知り合いもいないし仕事の伝手何て無いから冒険者を目指すしかなさそうだし。そう告げるとマルコさんは真剣な顔をして聞き返してきた。
「そうか・・・因みに君は軽装だが魔法を使って戦うのか?」
魔法は・・・使ったことないですね・・・。素直に答えると全員から驚きの声があがった。
「おい、じゃあ生活魔法も使ったことないのか?」
「マルコ、流石にそれは無いだろ子供だって使えるんだから」
「山奥で育ったってことは魔法を使わないで生活してたのか?」
「それは流石に爺さんが偏屈すぎるだろ」
設定で作り出した爺さんが変人みたいになってしまったが、異世界から来たと素直に言えないのでそのまま俺は世間知らずの男という設定を貫くことにした。
因みに生活魔法と云うのはどういうものなんですか?
どうせ世間知らずの設定で通すなら、知らないことはバンバン聞いて、この世界の知識を付けていくことにした。
「魔法の中でも5個の特定の魔法を纏めて生活魔法と呼んでいる」
魔法使いのアルさんが説明をしてくれたが、100年程前に異世界より、シズク・ミズノという女勇者がこの世界に召喚されて来たという。
当時は戦乱の世であったがシズク・ミズノと仲間達の活躍で争いを収め。そのまま消息を絶ったという。
その時にシズク・ミズノが開発した魔法が<[
シズク・ミズノ。日本での名乗り方をするなら
俺のように日本からこの世界に転移してきた人物だろう。思わぬところで同郷の人間の話を聞くことができた。他にもそういう人がいるのだろうか・・・。
俺が異世界からの転移者であることも知らないシルバーファングのメンツは、そのまま話を続けてくれた。
「生活魔法なら一度見れば誰でも使えるようになるのに使えないのか?」
そんな事をアルさんは言ったが。見るだけで魔法が使えるようになるの?俺の漫画やアニメの知識ではレベルが上がるとか、誰かから教えてもらい修行をして使えるようになるとかだと思うんだが・・・。
「一度見ると頭の中に魔法陣とその魔法の使い方が浮かんでくるんだよ」
なにそれすごい
魔法の使える異世界だからってのを抜きにしてもとんでもなさ過ぎるだろ。シズク・ミズノは化け物か・・・。
良ければ見せてもらえませんか?
俺は頭を下げてお願いした。
<
収納出来る量は個人差があり。容量が多い人は商人を目指すことが多いらしい。カールさんは馬車の荷台4台分の容量を持っていると教えてくれた。デメリットとして死んだりしたら中身も取り出し不能となりこの世から消滅するということだ。
<
<
<
<
アルさんが5個の魔法を見せてくれた。魔法を目にしだだけの俺はさらに衝撃を受けた。
スキル
<
<
<
<
<
を取得しました。
頭の中に声が響き、5個の魔法の使い方が頭の中に浮かんできた。浮かんできたのと同時に。脳みそを鷲掴みされたような痛みと不快感が襲って来た。イデデデデ
頭を押さえながら悶絶していると他の面々は「初めは皆そんなもんだ」と笑っていた。コ、コイツラ・・・!
痛みも治まり一息ついてから、実際に<
<
おお!すごい!
俺は手の平に浮かぶ魔法陣に手を入れてみる。
なるほどこんな感じか。何も無い空間を一通り弄ってみてから、一緒に転移してきたカバンを魔法陣に入れてみてから<
再度<
目で直接見ているわけではないが、取り出したい物が手元に来るような感じだった。
す、すごい!これが魔法か!
初めての魔法に興奮していると。周りの面々から優しい眼差しで見られた。魔法の無い世界で育ったんだから仕方ないじゃないか・・・。
魔法に興奮している俺を他所に、目的の街までもうすぐという距離まで近づいているのだった。
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