32.緊急依頼発生。群がるヒーラー。

 ゴーン。と鐘の音が響き渡る。


 1回しか鳴っていないので、朝の合図だ。

 ベッドの上でもぞもぞする。まだ寝ていたい⋯⋯。


「ソラー!!起きてー!」


 ドンドンとドアを乱暴に叩く音が響く。シャロのモーニングコールである。


「⋯⋯今起きるよ」


 ドアに向けて声を掛ける。眠い目を擦り一日の始まりのルーティーンである<清潔魔法クリーン>を自身に掛け、サッパリする。


 ドアを開けるとシャロが立っており、要件を伝えて来た。


「なんかお父さんが呼んでたよ」


「親父さんが?」

 ⋯⋯昨日何かしたか?うーん。わからん、記憶が無い。


「ほらー。早く行こ―」

 シャロが手を引っ張り急かしてくる。


「わかったから、そんな引っ張るなって」


 手を引かれながら階段を降りると、すぐ側に親父さんが居た。


「おはようございます」


「おはよう。早速で悪いんだが、表のゴミ何とかしてきてくれ」


「表のゴミ?」


 俺の手が必要になるほどのゴミなんて心当たりがないんだが⋯⋯。そんな事を考えながら宿の扉を開け外に出る。


 ⋯⋯ゴミってこれか。

 扉の隣の地面にシルバーファングの4人が転がっていた。何しているのだろうか⋯⋯。


 体を揺さぶって起こしてみる。


「起きてくださーい」

 駄目だな。イビキかいてるし⋯⋯。


「⋯⋯〈水生成魔法ウォーター〉」


 手の平に青色の魔法陣が出現し、水がチョロチョロと飛び出して来た。


「⋯⋯うわっ!なんだ!え?!」


 マルコさんの顔に水を掛けると、飛び跳ねるように起き。

 辺りをキョロキョロと見回す。


「おはようございます」


 今の俺はシャロの親父さんに、頼まれたという大義名分が有るのだ。


「え?ああ、おはよう。え?」


 混乱している様だ。宿屋定番のセリフでも言うか。


「ゆうべはおたのしみでしたね」


「⋯⋯え。いや、魔女居る中で何を楽しめと」


 アナスタシアと周りの溝は深い様だ。

 そんなに悪い子ではないと思うのに⋯⋯。


 取り合えず、他の3人を起こすのを手伝ってもらう。


「うわ!」

「ぎゃっ!」

「ぴっ!」


 マルコさんにお願いして、他の3人に向けて〈水生成魔法ウォーター〉で水を掛けて貰う。

 4人共目が覚めたようで何より。

「⋯⋯なんで全員こっちに近づいて来るんですか?」


「お前、いつ魔女と知り合ったんだ?」

「俺等の寿命縮める気か?」

「お前らすげえな」

「1杯目から記憶ないんだが何があったんだ?」


 4人にアナスタシアの事で詰め寄られる。


「ヴィーシュさんの店で知り合ったんですよ。皆さんが思っている程、悪い子じゃないですって」


 アナスタシアの誤解を解く為に、噂の様な子ではないと伝える。


「だとしてもなぁ」


「実際俺とシャロは何もされてないですし。髪を触っても何も起きませんでしたよ?」


「あー、お前そう言えば、山育ちだったな」

「なるほど、だからか」

「噂だとしても、そんな事する度胸は俺には無いな」

「俺等魔女と飲んでたの?」


 色々言いやがって⋯⋯。


「兎に角。噂程悪い子では無いので、普通に接してあげてください」


「そうか⋯⋯。がんばれよ」

 マルコさんがそう言い残し、それぞれの家に帰って行った。


 まぁいいか。親父さんに報告して、朝飯を食べよう。

 俺は踵を返して宿の扉に向かった。


 ◇


 そんな出来事から2日が経ち。


 冒険者ギルドから、とある発表があるという情報を耳にした。

 早速シャロを連れて冒険者ギルドへと向かった。


「凄い人だな」

「何時も以上に居るねー」


 冒険者ギルドは普段以上に人がごった返していた。


「やっぱり、この前のロックタートルのやつかな?」

「まぁ、十中八九そうだろうな」


 十中八九と言ったが確実にそうだろうな。

 一体どんな内容なのだろうか。


 人混みを掻き分け、掲示板の前に躍り出る。


 さてさて、どんな内容かな⋯⋯。

 依頼の種類は緊急依頼か。

 冒険者ギルドも脅威と認めたんだな。


 まぁ、かなりデカかったって話だし。

 どちらにしても、俺達には関係のない話だな。実力が足りなさすぎる。


「この後どうするー?」


「そうだなー。訓練所にでも行くか?」


「いいね!最近行けてないしね」


「よし。そうと決まれば行きますか。」


 俺とシャロは、訓練所へ向けて移動を開始する。


 ⋯⋯何故か俺達の後ろを、ヒーラーの格好をした人達が付いてくる。

 っち、もう嗅ぎつけやがったか。


 だが残念だな。俺もある程度強くなっている。そうそう回復魔法の世話になる事もあるまいて。


「〈筋力増加ストレングス〉!〈シールドバッシュ〉! おりゃあああああ!」


「ぐえぇぇぇええええ!」


 何時のまにか覚えていた、盾のスキルでシャロに吹き飛ばされた。

 こんなスキル何時の間に⋯⋯。


 地面に横たわる俺に、ヒーラーの人達が回復魔法を掛けてくれる。

 くそぅ、お世話になります⋯⋯。


 訓練所で適度にボコられ、宿に戻る事にした。


「あ、回復ありがとうございました。またお願いします」


 俺は丁寧に頭を下げる。

 え?いえいえ此方こそ何時もすいません。

 お互いペコペコしながらその場を後にした。


 宿に戻ろうと、ギルドの入口への向かうと。


 何やら事件が起きていた。

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