レイチェル実地調査編
第34話 レイチェルへの調査依頼
対策室を訪れてから二日後の早朝。朝食の準備中に玄関の呼び鈴が我が家に響き渡っていた。また月村さん辺りがおかしなことをしに来たのかと警戒してしまったが、玄関からはあの人特有のヤッバい感じがしない。
まあ大丈夫だろと玄関のドアを開ける直前、今度はすっげえでっけえ叫び声がお家を含む周囲に木霊した。
「たーーのーーもーー!!」
「ちょ……!? まだ6時だよ!? マズいって!? 近所迷惑!?」
玄関のドアを挟んだ向こう側から、男性と思われる低めの声と女性の声が聞こえてきていた。
……あ、これはダメなヤツ。
「我が家は道場ではございませんので、道場破りは受け付けておりません。看板代わりに粗大ごみの板なら好きなだけ差し上げますので、お引き取りください」
ドアの向こうの存在に対してやんわりと面会お断りの意思表示をすると、今度は文句が飛んできていた。
「誰が道場破りだゴラァ! いいから開けろ!!」
「こんの馬鹿!! どう考えたって変質者の行動でしょ!!」
ドアの向こう側から、ドゴっという鈍器で硬いものを叩いたような危険な音が耳へと入る。
……き、急に静かになった……。もしかして家の敷地内で傷害事件が起きちゃった?
そろ~っと静かーに玄関のドアを開けて来訪者を確認する。一人は眼鏡を掛けてし少しばかり日焼けをしている少女。一人はうつ伏せになっていて表情は分からないが、学生服らしき物を着て、頭にはデカいたんこぶができている。
「…………」
「あははー……」
男性をヤッたと思しき下手人の少女は苦笑いを浮かべているが、無言で冷たい視線を返してやる。
「あのー……。神屋室長の指示でこちらに来まして……」
「その前に、そちらの人……、起こして治療しますか?」
「すいません。お願いします」
申し訳なさそうにペコリと頭を下げる少女を家の中へ案内し、男の方は俺が脇に抱えて居間へと直行。気絶しているのでかなり重く感じるうえに服の上からでも分かるくらいの鍛えられた体の感触に内心驚いていまう。
男性をソファに寝かせて、念のため呼吸を確認する。
「そのうち目が覚めると思いますけど……救急箱持ってきますね?」
少女が遠慮がちにコクリと頷く。
寝たままの男性のたんこぶに薬を塗り数分後――
「だあああ!? ……ここはどこだ!?」
「うっさい!! 静かにしろ!!」
凄まじく騒がしい人達だ。また同じ事にならないように、釘を刺しておく必要がありそうだ。
「とりあえず、お静かに。まだ寝てるのとかもいますから」
二人が顔を見合わせて、マズい事をしたみたいな表情を見せている。すると、騒ぎで目を覚ましたのか偽ロリが目を擦りながら寝巻姿で居間へと顔を出した。
「なんじゃ~。朝っぱらから客人かの?」
「
「レイチェルならば、珍しく早起きしとるぞ」
ほんとに珍しい。この家に来てからというもの遅寝遅起きがデフォのレイチェルねーさんが早起きとは、今日の天気予報は快晴のはずが雷雨でも降ってくるのではと疑ってしまう。
「じゃあ呼んでく――」
「おっはよー! 日本の夏は蒸し暑い~!」
バンッと勢いよく居間の扉が開く。そちらに目をやると、シャワー浴びてすぐの髪を濡らして体にバスタオル一枚だけ巻いたレイチェルねーさんが姿を現してしまった。
ねーさん、これで出てるとこは出ていて腰回りは引き締まっているボディラインなのだ。そんなのが予告なく現れてしまったら、俺も客人の男性だって……、特に彼の方は時が止まってしまったかのように、微動だにしなくなってしまった。
「……少しだけ失礼しますね」
満面の笑顔で席を立ち、ねーさんの手を引いて居間を後にする。
「ねーさん! さっさと服着てこい! あんたの客人だぞ!!」
「だったらこのままでも良いでしょ~。ちゃんと必要な部分は隠れてるし」
「良いわけあるか! 一人思考停止してたぞ! すぐに着替えろ!!」
ねーさんを自室へと返し、俺は居間へと戻る。
「……うちのねーさんがすいません……」
「ズボラ娘が迷惑かけてしまったの……」
俺とるーばあ、双方が客人に対して申し訳なくなってしまい、同時に頭を下げて謝罪をしてしまった。
「いえ……、こんな早朝にお邪魔したこちらも悪いですし……。ほらあんたも!」
「お、おう……。その……悪かった……」
さっきはうつ伏せで顔はよく分からなかったが、少しばかり厳つい顔でいかにも気合が入っているといった雰囲気の男性だ。学生服を着ているので学生のはず。
「あの……、失礼ですが……。『良い子が知らない世界』の配信者の方ですか? 3Dモデルとそっくりだから少しびっくりで……」
「おおっ! 視聴者さんかの?」
「ええ! いつも配信楽しみにしてます!!」
眼鏡を掛けている少女の方が目を輝かせてルーシーへと詰め寄っている。
「なあ……。こないだの模擬戦でもだけど……、ほんとに婆さんなのか? この人……」
「うむうむ。可憐で美女で大人の女性などと……。そんな本当の事を言われても心は動かんぞ?」
誰もそこまで言ってないぞ、偽ロリ。そっちの二人もどう反応したらいいか困ってるだろうが。
「ちなみに……、これ若い時の
そこには今の面影がある若かりし頃の
「……え? マジ? 前室長?」
「ほんとなんだー……。見た目変わらないって……」
お二人とも
そうして雑談をしていると、レイチェルねーさんが普段着で居間へと到着する。
「おまたせ〜。で? そっちの二人は?」
ねーさんの質問に二人は顔を見合わせた後、口を開く。
「わたしは
「俺は
名乗った二人に続いて俺も挨拶をしようとしたのだが、制止されてしまう。
「名乗らなくても良いですよ。坂城功さん、レイチェル・ミアーズさん。そしてルーシー・ウィザースさんですよね」
「あと一人と一駄蛇がいるけど、そいつらは後でな」
挨拶はこんなとこだろう。次は本題に移るとしようか。
「それで……、お二人がここに来たのはレイチェルねーさんの試験関係ですよね?」
その言葉で二人の眼差しが真剣なものへと変わる。
「はい。これになります」
そうして金城さんがテーブルの上に置いた写真には、小さな祠が写っている。
「これは……き……、すいません。手出し無用でした」
「これだけで分かるんですか? ほんとに凄い感覚……。実はわたし達もそこまで詳しくは伝えられてなくて。ただこの周辺でおかしな現象が起きてるからと」
思わず写真から『視えた』ものを言ってしまいそうになったが、そこは堪えて成り行きを見守ることにする。
「よし! この祠の場所に行ってみよー!」
「は?」
「判断早っ!?」
ねーさんの提案を聞いた二人が素っ頓狂な声を上げる。そして金城さんの方が自分たちについての注意事項を語りだした。
「えっと……ですね? わたし達も見習いで……、そこまで調査が得意とかでは……」
「あ。そうなの? じゃあ
ねーさん、ああ言ってはいるが、今回の案件はおそらく……、ねーさんの調査能力だけじゃなくて、この成田さんと金城さん両名への指導能力も確認する意味があるはず。
つまるところ、神屋室長は自分達の所で働きたいなら、キャリアと年齢的にそのくらいは出来てもらわないと困るということだろう。
ドタバタと慌ただしい足音を立てながら、レイチェルねーさんと他二名は調査に向かおうとするが――
ぐぅぅぅ~。
元気な腹の虫がねーさんの腹部より咆哮を上げている。それを聞いたねーさん以外の全員が彼女の方を向いてしまう。
「……とりあえず、朝飯食ってくか? そっちの二人も」
「あははー。そうだね。腹が減っては戦はできぬだっけ?」
少しばかり恥ずかしそうにお腹をさすりながら、食卓へとつくレイチェルねーさんであった。
「じゃあ、わたしもいただきます」
「俺も腹減ってたしな。食うか」
家を訪れたお二人も朝食をご所望らしい。
「おはよ~。……あれ? お客さんがいる」
「まーた変なの増えてるヘビ。蛇は朝から酒が飲みたいヘビ」
丁度、起きて来たローラと、ふざけた事を言っている実体化の駄蛇も居間へと到着。
その後、金城さんと成田さんは、刀から生えているのにも関わらず普通に食事している駄蛇に驚いたり、ローラとも仲良くなったりで楽しい朝食のひと時を過ごしたのであった。
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